【ねえねえスタバのお兄さん】

@ojou

第1話 眠れない1時08分

「女の恋愛は上書き保存」とよく聞くけれど、それは間違いだと人生21年目で気がついた。


貴方と聴いた音楽も、お揃いの香水も、アクセサリーも、脳みその裏側に焼き付いていて、取れることはない。忘れることは出来ない。

タトゥーや刺青のソレと同じ、痛いけど綺麗で、ずっと残る。


過去になれば全ていい思い出になる。いい経験になる。痛かった記憶も全部、私の肩のお花みたいに、私の背中を押してくれる材料になる。


それに流行りのミュージシャンはまた出てくるし、香水は新作がでる。

アクセサリーはどこかへなくす。



そうやっていつの間にか大人になっているんだと思う。





彼と会ったのは2年前、行きつけのカフェだった。


バイト先の近くにあるここへは出勤前の憂鬱な気持ちを流し込みによく来ていた。


イヤホンからは彼氏の好きなバウンディーが大声で歌っていて仕事の始まりを急かしている。なので定員さんの「今日もお仕事ですか?」の言葉を聞き取れずに聞き返してしまった。

私は頷いてすぐに目を逸らした。


目の前にいたのは絵に描いたような好青年で、

頑張ってくださいね、と口が動いていた、気がした。黒髪が綺麗だった。


うまく笑えていたかわからないけど、そんな一言がとても嬉しくて、いつもよりチャイティーが甘く思えた。


次の日も、その次の日も彼はカフェにいた。

次第に私は喋るようになり、お互いのことを話すようになった。

高校を卒業してすぐにフリーターになったこと、職場はビュッフェ形式のレストランで忙しいこと、この辺りに住んでいて彼氏がいること。


お兄さんとはどうやら地元が同じらしく、今は大学生。歳は私のふたつ上だと言った。バイトでラテを作るのが得意な事、外国語系の大学に行っている事、留学をしたい事。


飲み物を受け取るまでの時間。


私がバイトを頑張るためのルーティンの一つに、彼との会話が加わった頃、私は恋に落ちていた自分に気づいた。

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