第167話 職業付与(ステータスチェック)

「我が名は魔王タナトアである!」


「はい、マオータナトアちゃん……っと」


「マオータナトアではない! 魔王! タナトアだ!」


「まぁ~タナトアちゃん魔王なのぉ~? すごぉ~い。でもごめんね~、冒険者の職業に『魔王』ってのはないの~。あ、でもこれもすごい! アイドル! タナトアちゃん、『アイドル』だって! え~!? 超レア職業よ~! 魔王よりすごいかも!」


 王都イシュタムにある冒険者ギルド。

 大陸の大半を支配する国の首都ということもあって、かなり広い。変に権威付けられたりはしておらず、システマティックな作りになっている。

 そこに訪れた新規冒険者は「登録」、「検査」、「説明」と流れ作業で捌かれている。

 そして、俺たちもご多分に漏れず、そのシステマティックな流れに流されて職業付与の儀式を行っていた。


 まず、メダニアの情報を得るために冒険者登録をする必要があった。

 そんなことしなくても俺の『魅了エンチャント』で(以下略)……と思ったが、冒険者であることのメリット(色々な場所に立ち入れる、いちいち身分の確認をされない等)を考え、した方が得と判断。

 で、その職業付与が終わった瞬間にタナトアがまた馬鹿なことを言い出したってわけだ。

 まったくこいつときたら……。

 ガキの体になったからって精神まで本当にガキになってきてねぇか?


「むむっ? アイドルの方が魔王よりもすごいだと?」


 カチンときた様子でタナトアはギルドのお姉さん(丸メガネでおっとりしてるマイペースっぽい感じ)に食ってかかる。


「そうね~。だって魔王って人はずっといるじゃない? でも『アイドル』は少なくてもこの数百年いなかったんだから。だからアイドルの方がすごいと思うの~」


「むむむ、たしかに……。だがっ……!」


 ぽかっ。


「おいおい、魔王ごっこはやめなさい」


「ごっこではない! 我は……」


「あらあら~、の言うことはしっかり聞きましょうね~、タナトアちゃん」


「お、おとうs……?」


「そうだぞ~、タナトア! の言うことはちゃ~んと聞きなさい!」


「お、お主……ぐぬぬぬぬ……!」


「やはり最近は多いですか? 親子でパーティーを組むというのは」


「ええ、増えてきましたね~。お子さんの英才教育のためにも早めの職業付与。それから専門の技能を身に着けさせていって末は一流の冒険者に! そしてワンチャン勇者に!」


「勇者ですか、あっはっはっ。うちのボンクラ無能馬鹿娘には無理ですかね~(タナトアの頭ガシガシ)」


「うぐぅ~! 我は馬鹿ではない! 我は本物の……むう~!」


「はいはい、黙れよ~? お姉さんを困らせないようにな」


 ひょいっ(抱っこ)。


 ふっふっふっ……。

 やりやすい……これはやりやすいぞ。

 いいな、今後もタナトアとは親子設定でいかせてもらうとしよう。

 俺の仮面の怪しさも子供連れという微笑ましい要素によって打ち消されてるだろ。

 ふふふ……しかも厄介だったタナトアの手綱を掴めて一石二鳥……ふふふ……。


「クモノス様!? 馬鹿で間抜けなタナトアちゃんにバリバリ爪で引っかかれてますけど!?」


「え~っと……」



 【回復ヒール



 ピカッと光って俺の傷が癒えていく。

 さっき「神官見習い」の職業を付与されたグローパのスキルだ。


「タナトア~~? あんまりに恥をかかせないようにな~?」


「うっ……うう……」


「タ・ナ・ト・ア~?」


「うぐぐ~……わかった」


「よ~し、いい子だ(頭わしゃわしゃ)」


「やめろ! 子供扱いするな!」


 先に職業を付与されたグローバは「神官見習い」。ザリエルは「戦士」。そしてタナトアが「アイドル」で、俺ことクモノスは「魔術師」。それに「侍」のミフネにぬいぐるみのホラムを加えたのが俺たち『真・アベル絶対殺す団』だ。


 っていうか魔物や天使でも職業授かれるのかよ。

 スキルとか一体どうなってんだ?

 と思った俺は即行動、即チェック。


(“視て”おくか)



 【鑑定眼アプレイザル・アイズ



 俺の右目に俺にしか見えない赤い炎が宿る。



 名前:タナトア

 種族:人間

 職業:アイドル

 レベル:1

 体力:12

 魔力:19

 職業特性:【魅力+】

 スキル:【煌星欄舞シューティングスター】【処刑百般ヘンカーアルトシュタット



 ……増えてる。

 スキル増えてるんだが。

 そしてレベル1って。

 魔王だぞ? デコピンで倒せるレベルじゃん。

 っていうか魔力少なすぎてあのチートスキル使えないだろ。

 っていうか……よし、いま奪っとくか。

 そのスキル。



 俺の左目に俺にしか見えない青い炎が宿る。



 【吸収眼アブソプション・アイズ


 

 ドッ

 クン。


 全身が脈打つ。


 よし──奪い取れた!


 広範囲の無差別即死スキル『処刑百般ヘンカーアルトシュタット』を無事に吸収した感覚。

 よ~し、これさえあればこいつ(タナトア)はもう無用……。

 ん?


 そのタナトアがにっこりと俺を見て微笑む。


「パパぁ? 我は鑑定士に勝るとも劣らない超レア職業の女の子。仮にパパなんかがスキルを奪ったとしてもぜぇ~ったいにサマにならないスキルを備えた女の子。超貴重な女の子。パパはもちろんわかってるよね?」


 こいつ……アイドルを引き当てたことによって自分に新たに価値を付与。そしてそれをアピール。

 俺にスキルを奪い取られたことを知ってか知らずか自分の命に保険をかけてやがる。


「もちろんわかってるさ。タナトアは大事な俺の娘だ。これからもず~っと大事にするよ(棒読み)」


「ほんとぉ? 嬉しい~(棒読み)」


「あらあら~、仲がよろしいことでぇ~」


 ギルドのメガネお姉さんは俺たち互いの腹の底に鳴ってるビキビキ怒り音に気づくはずもなく、ほえほえ笑顔で間の抜けたことを抜かしている。


 ふぅ……。

 一応新たに職業を得た二人の肉盾のステータスでもチェックしてみるか。



 名前:ザリエル

 種族:天使

 職業:戦士

 レベル:32

 体力:169

 魔力:724

 職業特性:【耐久+】

 スキル:【被虐嗜好マソヒスティック】【正直者の裁決オネスト・ジャッジメント



 名前:グローバ

 種族:ゴブリンプリンセス

 職業:神官見習い

 レベル:24

 体力:58

 魔力:79

 職業特性:【治癒力+】

 スキル:【回復ヒール】【宙躍スカイリープ



 ふむ。

 天界でいっぱい天使を倒したわりには、どっちもたいしてステータスは伸びてない。

 ま、天使を倒してたの俺だけだったもんな。

 二人は俺のおまけの肉盾だったし。

 っていうかタナトアもだったけどさぁ、職業特性って上書きされるんだな。

 逆にスキルは増える。

 これ元々スキル持ってる魔物や天使どもが職業付与されたら全員スキル2個持ちになるってことか。


 ……面倒そうだから誰にも教えないでおこう。

 特に、強くなることに貪欲な狼男ウェルリンや、生きてるだけで迷惑をふりまくアホのモグラ悪魔グララあたりには。


 ちなみに俺。

 クモノスと名乗ることになった俺のステータスは、っと……。



 名前:クモノス

 種族:人間

 職業:魔術師

 レベル:346

 体力:2078

 魔力:4619

 職業特性:【魔力増幅】

 スキル:

 【鑑定眼アプレイザル・アイズ

 【吸収眼アブソプション・アイズ

 【狡猾モア・カニング

 【軌道予測プレディクション

 【斧旋風アックス・ストーム

 【身体強化フィジカル・バースト

 【魅了エンチャント

 【投触手ピッチ・テンタクル

 【一日一念ワールド・トーク

 【筋波電光マッスルウェーブ・ボルト

 【笑顔百篇スマイレッド

 【後光輪バックライト

 【按摩座マッサージチェア

 【種子分裂シードキス

 【微臭微罪フレグランス

 【処刑百般ヘンカーアルトシュタット

 【着火ファイヤ



 うん、天使どもを何十匹も殺したおかげでレベルが上がってる。

 っていうか名前「クモノス」なのかよ。

 曖昧すぎるだろ俺の名前。

 アベルだったり。

 フィード・オファリングだったり。

 アベル・フィード・オファリングだったり。

 で、今度はクモノス。


 ま、そこで引っかかってても仕方ない。

 今は今で俺がするべき行動を取る。

 引き続きステータスの分析にあたる。


 魔力の上がり幅が大きいのは職業が「魔術師」だからか。

 スキルも『吸収眼アブソプション・アイズ』で奪い取れるストックを超えて『着火ファイヤ』というしょぼそうなスキルが増えている。

 見てみろよ、その上にある魔王から奪いたてほやほやな『処刑百般ヘンカーアルトシュタット』と比べて、その慎ましやかなこと。


 まぁなんにしろ、これで俺たちは冒険者としてイシュタムで動きやすくなったってわけだ。

 ってことで、さっそくメダニアの情報を仕入れてアベルの動向をチェックするぞ!

 俺たちはギルドにある情報共有カウンターまで足を運んだ。


「え~っと……? メダニアで最近起きたワイバーン退治の詳しい情報……ですね。では、まずあなた達がギルドに登録しているパーティー名を教えて下さい」


「ああ、俺たちの名前は……」


 結局時間がなくて俺の提案したままになっていたパーティーを告げようとする。

 でも、ちょっと自分の中にも若干「このパーティー名ダサいな」と感じる気持ちもあったので、その瞬間ちょっと周りを冷静に見る余裕がなかった。

 なので気づかなかった。

 隣のカウンターに、見覚えのある女が来ていたことに。


「真・アベル絶対殺す団だ!」

「アベルの情報ありませんか!?」


 ん?

 アベル?


 隣を向く。

 桃色の髪。

 大きい目。

 ぷにぷにのほっぺ。

 見覚えがある。

 見覚えがあるぞ。

 これ、サタンが作り出してた女じゃん。

 たしか名前が……。


「モモ?」


 一瞬キョトンとした顔を見せた女の顔を見た俺の眼球を通ってなにか来た。


 どっくん。


 まるでスキルを奪い取ることに成功したときのような感覚。


 俺の心臓が、鳴った。高く。


 いわゆる。


 高鳴った。

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