第163話 招待人の正体

 【あらすじ的なもの】


 大陸首都イシュタム。

 切り立った崖を背負う形で立てられたセントフェイル城はまさに堅牢。

 誰の侵入も許さぬ鉄壁の城。

 ただし、それはの話。


 魔界、地底、地獄、超次元魔空間、そして天界からの帰還を果たしたフィードにとって人間の城に侵入するなど朝飯前。

 とは言えフィード自身も弱体化した身。

 従えた奴隷(仲間)たちを上手く働かせ、華麗に……まぁ多少ドタバタしつつも総合的に見れば華麗に忍び込むことに成功。


 侵入せしは、かの五人。


 スキルを奪い、唯一の存在となりたい仮初かりそめの人格フィード・オファリング。

 命を助けられフィードにゾッコン&盲信奴隷となった大天使ザリエル。

 国を滅ぼした元凶アベルへの復讐を誓うゴブリン国『千年王国』の亡国の元王女グローバ。

 今度こそはと大悪魔テスの肉体を狙う小鬼インプホラム。

 神を殺させてくれるってんでなんとなくついてきてる人斬り侍ミフネ。


 五人は謎の人物に指定されたセントフェイル城の地下牢へと足を踏み入れる。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「暗い……ですね」



 【後光輪バックライト



 俺の背後に光る輪っかが現れ、ウザいくらいに周りを照らす。


「まぶしっ! クモノス、あなた一番うしろに行って!」


 ハンパない光量を発する輪を背中に背負った俺は、グローバに従い隊列の最後方に移動。

 並び順は、前からザリエル(谷間にホラム)、ミフネ、グローバ、そして俺。

 肉盾が前にたくさんいてちょうどいいと思いながらも、首から背中にかけてのほんのりと漂う熱さがちょっと鬱陶しい。


「おら、さっさと歩け。キビキビ歩け」


「うぅ……でもここの地下牢の匂いが……。これ絶対掃除とかしてせんよね。本能的に無理な匂いなんですけど。暗いしジメジメしてるし……ぎゃぁぁぁ! 今、なにか! ゴソゴソって動きましたよ! もうダメです、私もう死にます!」


 急に灯った光に驚いたネズミや黒虫、ゲジゲジやナメクジ、ウジにハエ、とにかくそういった生き物たちが一斉にガサゴソと暗闇の方に移動する。


「ったく大げさね。こ~んなに過ごしやすい場所なのに」


「ジメジメ真っ暗が好きな低俗な穢れたゴブリンと一緒にしないで! 清らかで美しいザリエルさんには無理なの! 文句があるならあんたが先頭行って!」


「だまれ。進め」


「はいっ! 黙って進みます!」


 確かにすせた匂いが鼻につく。

 汚物、カビ、死骸。

 そういった匂い。死の匂い。

 こんな汚れた場所が華々しい王城の下にあるだなんて通常であれば想像できないだろう。

 だが俺は見てきた。

 足元にポッカリと開いたうごめく迷宮ダンジョンを。地獄まで続く大穴を。そして、その下にある魔神の棲家を。

 世界にはなんだってあるし、なんだってあり得る。


「なぁ……こんな場所に本当にいると思うか?」


 ザリエルの谷間に身をうずめたホラムが声を潜めて聞いてくる。


 いると思うか?


 誰が?


 ここに来るように指定したぬし


 いるのか?


 もしいなければ。


 これは罠。


 俺たちをここに閉じ込めるための。


 こんなところに監禁されたら『偏食ピッキー・イート』もない今の俺は虫も食えないわけで、長くは生きられない。

 その前にこんな不潔なところだとすぐ病気になるか。

 そして虫やネズミたちに体をかじられ……。

 いや、ミフネが俺たちを殺して食おうとするか?

 ありえる、キヒキヒ言いながら襲いかかってくる様が目に浮かぶ。


「いなけりゃ帰るだけだ」


「どのみち進むしかないってか」


「キヒ……気配は微かにある」


「うん、聞こえる。生き物の息遣い」


 闇に慣れたミフネとグローバが何者かの存在を感じ取る。


「ってことでさっさと進め、奴隷一号」


「ひぃ~……しっかり照らしててくださいね? 絶対消したりしないでくださいね?」


 しつこく確認しながら、なんだかんだしっかり奥へと進んでいくザリエル。


「(ゴチンっ!)あいたっ! ……って、あれ? ここで行き止まりみたいです」


 ザリエルが頭を上げる。

 どうやら行き止まりの鉄格子に頭をぶつけたらしい。

 いや~な空気が漂う。


「大陸最大の都の下に隠された地下牢の最奥、か。鬼が出るか蛇が出るか、キヒっ」


 鬼や蛇ならよっぽどありがたいが……。


 ボロボロの鉄格子がゆっくりと音もなく開いていく。


「入れってことか」


「え~っと、クモノス様? ここも私が?」


「当然だ」


「ひぃ~……じゃあ、お邪魔しまぁ~……」



 ぬ

  るり。



 ミフネがわずかに開いた鉄格子の隙間から中に滑り込む。


「──!」


 視線を奥へ、俺の『後光輪バックライト』が牢の奥を照らす。


「キ……ヒヒ……動けな……」


 そこに見えたのは刀を抜きかけた体勢で固まっているミフネと。


 白髪。


 鎖に繋がれ、ガリガリに痩せた長髪の女の姿だった。


「貴様か? 俺様を呼びつけたのは。さぁ、来てやったぞ。まずは名を名乗れ」


 普通じゃない。

 普通じゃないから対処法が思い浮かばない。

 その一瞬の戸惑いの隙をつくかのように、頭の中に声が響く。



『我……』



「ぎゃあああああ! 虫酸が走るキモい声です!」


 綺麗な女の声だ。

 だが天使のザリエルがここまで発狂するってことは、おそらくは魔の力によるテレパシー。

 都合のいいことに俺はローパーのパルとの『一日一念ワールド・トーク』でそういったテレパシーに慣れてはいる。


「もったいぶるな、早く話せ」


 そう言いながら即、鑑定。

 視させてもらうぜ、正体不明の銀髪女。



 【鑑定眼アプレイザル・アイズ



 俺の右目に俺にしか見えない赤い炎が宿る。



 名前:タナトア

 種族:人間

 職業:魔王

 レベル:999

 体力:99999

 魔力:99999

 職業特性:【魔素生成 マーゲンスシュトッフ

 スキル:【処刑百般ヘンカーアルトシュタット



『我の名はタナトア』



「……ん? タナトア? それって確か……」


 ホラムの後に続ける。


「ああ」


 俺とタナトアの声が重なる。



「魔王だ」

『我、魔王と呼ばれる者なり』



 魔王。

 魔王タナトア。

 人の女の姿をして、人の城の地下牢に繋がれた人物。

 事情は知らん。

 だが料理してやろう。

 オレ様が。

 この囚われの魔王とやらを。



狡猾モア・カニング



 俺は静かにスキルを発動させた。

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