第162話 侵入成功
夜の裏道知ったもの。
辻斬り侍ミフネが足音もなくなめくじのように裏道をぬるぬる進んでいく。
「歩き方までキモいですね……」
「その歩き方もなんとかとかいう剣術?」
「キヒ」
ミフネは答えない。
「この人、殺人鬼なんですよね? 私達をうしろからズブリなんて……」
「キヒ……安心しろ、顔見知りには興味ない。俺が殺すのは初めて会った見知らぬ奴。運命に導かれて天誅を下すべく出会った奴だけだ」
「ホッ、よかったです。あっ、私はとっても可愛いザリエルちゃん! クモノス様の奴隷です! 斬らないでくださいね! ほら、羽もこうやって透過してるけどみんなのアイドルザリエルちゃんです! はい、見てっ! 羽がなくてもザリエルちゃん! ザリエルちゃんですよ!」
「……鬱陶しいなぁ、斬り捨ててやろうか……俺に指図してきてたあの女みたいに……キヒ」
「それって母親のことですね!? ってことは顔見知りも斬ってるじゃないですかぁ! わぁ~、嘘つきのクズ殺人鬼人間! 助けてクモノス様ぁ~! (ゲシっ)あうっ!」
「黙れ」
「はいっ!」
ザリエルの唯一の取り柄。黙れと言われたらすぐ黙る。
「で、クモノス様!」
ザリエルのダメなところ。黙ってもすぐ話し出す。
しばらくそんなくだらないやりとりを続けつつ進むと背の高い城壁にぶつかった。
「これか。高さはあるががイケそうだな」
天界最堅──世界で最も堅固な砦を超えてきた俺たち。
この程度の障害はあってないようなもの。
【
グローバのスキルでぴょんと飛び上がる。
ぐらっ……と一瞬よろける。
も、ザリエルが見えない翼をはためかせてかろうじて体勢キープ。
「ふぅ~……セーフ」
「えっと、これってね、見えない階段が宙に浮いてるわけ。で、次の階段にジャンプしたらそれは消えるの。大きさはそこまで大きくない。だから……」
「ごちゃごちゃ言わずに大丈夫なようにしろ」
「はいはい、ちょっと体勢変えるね」
「ああ(モゾモゾ)」
グローバを中心に、右に俺、左にミフネ。ザリエルは後ろで全体を支えてるというフォーメーション。ホラムはザリエルの胸の谷間。ザリエルの見えない羽による浮力が微かながら俺たちを支え、安定した跳躍を可能にする。
「役に立ってます! 私、役に立ってますよ、クモノス様! 全然足手まといなんかじゃないです!」
見えないが間違いなく後ろで顔を輝かせてるザリエル。
ウザい。うるさい。マジ黙れ。
っていうかミフネに「足手まとい」って言われたの気にしてたんだな、こいつ……。
「お前がいなけりゃもっと楽に跳べたんだけどな」
「そんなぁ~!(泣)」
そこから俺たちはもう二回ほどジャンプして城の庭に生えていた木に掴まると、無事城内への侵入を果たした。
「気をつけて下に降りろよ」
バキィ!
言ってるそばからアホのザリエルが持ってた木の枝折って落ちた。
「誰だっ!?」
物音を聞きつけ、衛兵が駆け寄ってくる。
「チッ」
【
狙いをつけて衛兵の口の中へホラムをポイッ。
「むぐっ!? むごご……こほんっ。あ~、なるほど。うんうん……おう、わかったぜ、牢屋までの道筋」
衛兵に
「人間の城……なかなか大きいわね」
「ゴブリンには城なんてないだろ。っていうか国がある事自体驚きなんだが」
「失礼ね、国くらいあるわよ。もう滅びたけど。フィード……じゃない、えっと、その、アベル? とかいうやつのせいで。もちろん、城だってその……」
「へぇ~、こういう城?」
見下した顔でザリエルが煽る。
「いえ、その……あ、ちがっ、うん……これくらい、いや……これより全然大きいんですけど!?」
「はい、絶対ウソ~。ウソばればれ~。見栄張りゴブリン、アホゴブリン~」
「う、うそじゃ……(ビシッ)あうっ!」
ザリエルが見えない羽でグローバを叩く。
「あ~、卑しい卑しいゴブリン! 見栄のためにクモノス様にウソまでつくだなんて万死に値します! クズ人間以下のゴミ魔物の最底辺のウジ虫種族!」
「ち、父にも叩かれたことなかったのに……! なんてことすんのよ、この淫売豚女!」
「い……いいい……淫売ぃ……? 言うにことかいてこのクズ、大天使の私を、いいいい淫売ですってぇ……?」
「だ・ま・れ」
「はいっ!」
相変わらず返事だけはいいザリエル。
う~ん、ミフネが言った通り、穴も掘れないザリエルはただの足手まといかもしれん。やっぱりこいつ、天界に捨ててきた方がよかったんじゃ……。
「シッ!」
先頭を行く衛兵ホラムが口に指を当てる。
視線の先にはこちらに歩いてくる衛兵が。
コツコツコツ……。
俺たちは壁にひっついて見回りの兵隊をやり過ごす。
スキル『
殺人狂のミフネもそこはわきまえてるみたいで、じっと息を殺している。
「ふぅ」
「よし、もういいぞ。こいつの記憶によれば、この先が地下牢への入り口みたいなんだが……」
ズズズ……。
衛兵ホラムがどかした木箱の下。
「これが入り口……?」
明らかに隠されていた扉。
「普通の地下牢ってわけじゃなさそうね」
「キヒ……しかも頑丈な錠前付き」
「鍵は?」
「取り憑いた男は扉の場所しか知らねぇ。鍵なんてどこにあるか」
「そうか。なら、おいグローバ」
「な、なによ急にそんなに見つめて……って、キャッ!」
壁際まで後退りしたグローバの顔の横に手をつき、顔を近づける。
「ななななな、なんなの!? なんでそんな、やだ、近っ、あの……え、そういうこと? あれ? ちょっと、心の準備が……!」
スッっと俺はグローバの真っ黒な髪に挿してあったピンを手に取る。
「え? えっ……?」
「借りる」
ポイっ。
「キヒ……」
「開けろ」
「キヒヒ……俺は侍であって
「出来るだろ。剣を曲げられるんだから」
「キヒ、まったく人使いが荒いなぁ。けど嫌いじゃないなぁ、その強引さ」
「さっさとしろ」
「キヒヒ」
カチャカチャ──ミフネが錠前にピンを突っ込みぐねぐねと青虫のように体をくねらせる。
しばらくするとカチリと音がした。
「もうこんな真似は勘弁願いたいなぁ」
「ふん、行くぞ」
「なぁ、フィード……じゃなくてクモノス、なにか作戦を立てたほうが……」
ぎろり。
「作戦? 俺達のことを気づかれずにずっと視てて、こんなところに呼びつけるような奴相手に? おそらく今も視られてるのに? 作戦なんか意味あるか?」
「……だな。行こう。ま、せめてそれぞれの頭の中では準備しとこうや」
ホラムの意見に心のなかで同意する。
「え、私? 私が先頭ですか!?」
肉盾ザリエルを先頭を立たせ、俺たちは嫌な予感むんむんなセントフェイル城の地下牢へと足を踏み入れた。
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