第161話 スキルチェック
三日月照らす荒れ寺の庭。
そこで俺はミフネへと全力でスキルを放つ。
「くらいやがれっ!」
「キヒっ、なにが来ようと斬り捨てるまで」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
【
ニコっ☆
とびきりの百通りの笑顔が俺の面の皮の上に浮かぶ。
「キャ~♡ クモノス様、キュートです! プリティーですぅ~! 色々出そうです、色んなとこから色々液体やら固形物やらが出ちゃいそうですぅ~!」
「出るな出すな」
「キヒヒ……旦那、これも戦闘系のスキルじゃなかったなぁ」
天界で権天使の集団との乱戦した時、手当たり次第に奪ったスキル。
それをミフネ相手に確認してみてたんだが……。
【
後光が差すだけ。
【
マッサージが上手くなるだけ。
【
種を分裂させられるだけ。
【
微妙に臭い匂いを放つだけ。
「天使ってやつは馬鹿なのか!?」
「ほら、権天使にも副業メインの人が多いじゃないですか?」
「知らん!」
「そういう兼業権天使さん達だったみたいですね、最後にいたのは」
「だから知らねぇって! 兼業とかあんのかよ! 守護天使ってのはそんなに稼げないものなのかよ! ってか天使で金稼ぐとかあんのかよ!」
「それはですねぇ……」
「いい! 喋るな! 知りたくもない! 時間の無駄だ!」
「えぇ~自分から聞いといて~!?」
「聞いてねぇ! ただの感想だ! 死ね!」
「うぇ~ん、死ねはやめましょうよ、死ねは」
ザリエルはもうとっくに自分が夜が怖いということすら忘れた様子でいつものようにアホ面でアホなことを言ってる。
「おい、ずいぶん元気だがもう夜は怖くないのか?」
「怖いですが、それよりもクモノス様に捨てられる方が怖いです!」
「馬鹿もここまでくるとすごいな」
「そんな女たらしのあなた、これからはクモノス? フィード? どちらで呼べばいいのかしら?」
「あ? そりゃフィードで……」
いや待て。
フィードで行くってことは仮面を取るってことだ。
仮面を取るってことは、このアベルの顔を晒して歩くわけだ。
ここイシュタムにはアベルの知り合いもおそらくいっぱいいるわけだ、
となると……。
「クモノス、だな……」
「神様設定?」
「設定とかじゃなくてクモノス様は本物の神様なんです!」
「おまえは黙ってろ。っていうかどうやって俺がアベルと一体だった時の話聞いてたんだよ、お前は」
「あぁ、クモノス様が
ダメだこいつ……。
もうなにを言っても無駄らしい。
「ってことで、この
「キヒ……? その足手まといは必要なので? 羽も邪魔だし闇討ちするには目立ちすぎるのでは?」
「ちょ~っと! 誰が足手まとい!?」
じぃ~~~~(お・ま・え)。
「うっ……! そ、そんなぁ~!」
「さてここで確認だ。ホラム」
「あ?」
「お前はアベルと行動を共にしてる大悪魔テス・メザリアを乗っ取りたい」
「だな」
「次にミフネ。お前はゼウスを殺したい」
「キヒ、殺せるなら別になんでも構わんがなぁ。まぁ頂上神を殺れるのなら殺ってみたいが」
「そしてグローバ」
「……」
「お前は俺の名を騙って建国を嘯いてるアベルを殺して国と父の仇を取りたい。だな?」
「……ええ」
「んで、俺様はアベルの持ってるスキルを奪ってから奴を殺したい。そういうわけだ」
「クモノス様、私は!?」
「ザリエルは俺の盾となれ」
「はい、喜んで!」
……
ちょっと命を助けたくらいで俺に対してここまで盲信してくるかぁ? ちょっと怖い。怖いっていうかちょっと引く。
「キヒ、これまた都合よくそれぞれのターゲットが分かれたわけだ」
「きれいにな」
「でも話によるとまだ魔神サタンとか魔物や元魔物が周りに控えてるんじゃないの?」
ミフネとグローバが察しがいい。
「ああ、それはこれからどうにかする」
「どうにかって?」
「作戦を立てるってことだろ。連中はいつ頃イシュタムに着く予定なんだ?」
ホラムも察しがいい。
「さぁ」
「『さぁ』って」
「あ、私が飛んで見てきましょうか!?」
「お前、アベルの顔わかるのか? 今、女の姿になってるらしいけど」
「わかりません! 勘で探します! 私、勘はいい方なんで!」
そしてザリエルだけが察しが悪い。
「う~ん……じゃあ、『いつ』、『どこで』、『どうやって』闇討ちするかってのは一切……」
「未定だ」
「だよなぁ……」
こればかりはスキル『
まずは情報収集しないと。
さて、情報を集めるとなれば一番いいのは──。
ザパァ──ッ!
「きゃあっ! クモノス様! めっちゃ嫌な感じなのが来ました! もう終わりです!」
涙目で抱きついてくるザリエルを足の裏で顔を蹴って阻む。
「カラス……?」
空から真っ逆さまにカラスが寺院の庭に落ちて散った。
「このカラス……俺みたいなもんだな、分体。えらく強い魔の力を感じるが」
「キヒ……案内状」
「案内状?」
一際気味悪く歪んだミフネの視線の先を覗き込む。
するとそこには。
《腐敗せし天上の頂、象徴たる穢れを討ちし手伝いをせん》
《ここで待つ》
《今宵、猫の刻までに来られたし》
「キヒ、今は明の刻を過ぎたばかり。時間があると言えばある」
「しかしこの描いてある場所、まるで城みたいな……」
城。
あきらかにそれとしか思えない。
地図に描かれたそれを、グローバが『
「ん~、城……の地下の牢獄……? みたいだけど」
「キヒ……こりゃイシュタムの王城セントフェイルだなぁ」
「罠じゃねぇだろうな?」
「そのまま牢屋ガシャン! で捕まっちゃったりしたらイヤですぅ~!」
捕まることには定評のある俺だ。
嫌な予感がしまくる。
「キヒ……しかしこの文の送り主、ずっと俺たちのことを
それなんだよな、問題の本質は。
この手紙の送り主はずっと俺たちを視てきた。
そしてまた得体の知れぬ方法で連絡を取ってきたわけだ。
無視できる相手じゃない。
こんなのに背中を取られたままゼウスと戦うだなんて不安要素が大きすぎる。
ってことで。
「行くぞ」
「はいっ!」
「行くんだ……」
「それしかないか」
「キヒヒ……刀が疼く……」
こうして俺たちは人間界に来て早々、殺人狂ミフネを仲間に加え王城へと向かった。
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