第158話 遭遇、人斬りマン
ぎゅ~んと体にかかってた負荷がなくなって箱の降下が終わったことがわかる。
と、同時に箱の扉がウィーンと開いた。
「着いたってことか?」
「多分。でも自動で開く扉?」
ザリエルの谷間に収まったホラムが訝しげな顔をする。
「ぷぷぷ~、自動ドアも知らないだなんて魔物ってやっぱ遅れてる~!」
「うるせぇ!(ケツゲシっ!)」
「ひゃん!」
俺にケツを蹴り飛ばされたザリエルがよろけて扉から飛び出る。
「あ、ザリエル様! 暗い……真っ暗です! 駄目です、地上滅んでます!」
ぴゅ~っと翔んできて俺の腕に絡まるザリエル。
「あ? これただの夜だろ」
「よ、夜……? なんですかそれ? こんな神の光も届かない絶望の土地にはもう一秒たりともいたくない、いられないですぅ~……(泣)」
道端にぺたんと座り込んで泣き言を漏らすザリエル。
あれか? 天界って常に晴れてるから夜がない的な?
するとなんだ? 光が神の領分で、闇が魔の領分みたいな?
神族は本能的に闇に恐怖を覚えるとか?
(チッ、アベルに取り付いてるサタンか、おそらく奴がまだ持ってるだろう『
同行者を見渡す。
大天使ザリエル(アホ面、夜苦手)。
ゴブリンのグローバ(宙を歩けるだけ)。
「ダメだ……なんもわかんねぇわ、こいつらじゃ」
「ムッ、フィード? 仮にも私は千年王国の王女。国から出たことはないけど、書籍にて世界のことはおおよそ把握してるんだけど?」
「ハッ、本? 意味ね~んだよ、そんなもん」
「そんなことない! きっと……」
「なら、お前が天界でなんか役に立ったか? あの空跳ぶスキルだけだったろうが、貴様が役に立ったのは」
「うっ……でもこれからは……」
「ハッ! これから!? お前はまだ自分に『先』があるとでも思ってんのか!? 俺たちにあるのは『今』だけなんだよ! 今! この瞬間を生き残るための知識! 準備! 才能! そういったものしか意味ね―んだよ! お前のその本で読んだ知識とやらで天界を脱出できたか!? あ!?」
「でき……なかったけど……」
「じゃあ黙ってろ、ゴブリンセス」
「うぅ……だから変な略し方しないで……」
ブリブリのピンク色ドレスに身を包んだグローバが身悶えする。
「で、どこだここは?」
「あ~、たしかイシュタムってとこだな」
天界で権天使たちに
「イシュタム……アベルが目指してたとこだな」
「アベル! クモノス様の悪しき半身ですね! ぶち殺すべき悪の権化!」
「殺すのはスキルをすべて奪ってからだ」
「はい! 人間界でも私が穴掘りまくって天界でやったみたいに狩りまくってやりましょう! ……って、あれ? あれ? え、あれ?」
ゴツゴツと指を石畳にぶつけるザリエル。
「なにしてんだ?」
「え、クモノス様ぁ~……ここの雲、めちゃくちゃ固くて掘れないんですけどぉ~……」
「そら雲じゃないからな。石だから」
「石!? なんですかそれ! キモい!」
「あ~ら、ばか肉バカ団子さんは石もご存じない? まぁまぁ本当にお馬鹿なのね! こんなザマでこれからクモノス様のお役に立てるのかしらぁ、クスクス!」
「な、なによ! それでもゴブリンなんかよりは……」
「そうだな。面積がデカい分グローバよりも肉盾としては役に立つぞ」
「私は肉盾じゃなくて肉壺としてお役に立ちたいですっ!」
「うるせぇ(ゲシっ)」
「あ~ん(ヨロっ)」
パヒュン──!
微かに感じた違和感に反応し、俺の右手がザリエルの羽を掴む。
と同時に、お約束かのごとく俺にケツを蹴り飛ばされたザリエルの鼻頭を
「ひょえ……?」
大声を上げようとしたザリエルの口をグローバが塞ぐ。
「死にたくないなら騒がない。暗闇で大声を出して敵に居場所を教えるようなことはしちゃだめ。いい?」
青ざめたザリエルがコクコクと頷く。
ピチュッ──!
再びの風切音。
【
キン──ッ。
乾いた金属音が鳴り、
「刀……アベルの記憶にあったな。たしか侍が使うとか」
「キヒヒ……今、なんと? アベル? アベルと言ったか? あ、こりゃまた懐かしい名前。アベル? 鑑定士? あの? クソ雑魚甘ったれのバカ坊っちゃん? キヒヒ……貴様らはその知り合い……? いやぁ~、これはこれは……」
暗闇の中、月の光が刃に反射して男の顔を怪しく照らす。
顔中に刀傷。
後ろで結んだザンバラちょんまげ。
細い目。
醜く歪んだ口元。
細身。
着物。
草履。
確信。
間違いない、こいつ──。
アベルの元パーティーメンバー。
人斬りの、ミフネだ。
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