第159話 vs 人斬り
闇は心地いい。
天界は居心地が悪かった。
延々散々サンサン
馬鹿だぜ、神ってやつはあれは。
そりゃあんなところにいたら馬鹿だらけになるってもんだ。
方やここ地上。
昼がある分、夜が冴える。
シンと静まり返ったこんな夜中こそ、善人には憚られるような
そして、そんな現実と虚実の溶け合った夜中にはなんだって起こり得る。
そう、こんな──人斬りと出くわすことも。
「キヒヒ……なにやらかしましい声に引かれて覗いてみれば、こりゃまた珍妙な一団。羽が生えてるってことは天使? それに不釣り合いなドレスを着たゴブリンに、変な仮面を着けた御主人様? キッヒヒ……このような得体の知れぬ輩が死んだとて、この世の誰も悲しまぬ。ならば送ってあげようなぁ、あの世になぁ、そっちのほうが皆も安心よなぁ、こんな変態どもにゃきれいさぁ~っぱり消えてもらったほうが……キヒ、キヒヒヒ……!」
ミフネはぬらりと刀を構え、すり足で距離を詰めてくる。
ここはイシュタムの──路地裏?
暗いが足元は石畳で整えられている。
おそらくそこまで都心から離れていないはず。
人気はない。
道幅は狭い。
おそらく向こうは地理を熟知してるはず。
不利。
肉盾を投げつけてその間に逃げるか?
(たしか、地獄でこいつの母親に会ったはず。辻斬り殺人狂なのが祟って実の母親まで斬り殺したんだったか。けどしょせんは人間。俺に傷一つ付けることも出来んだろう。が、あのアベルの元パーティーメンバーだ。一応
俺の右目に俺にしか見えない赤い炎が灯る。
【
名前:ミフネ
種族:人間
職業:侍
レベル:11
体力:21
魔力:9
職業特性:【
スキル:【
弱い。
だが気になるのはスキル。
『
おそらく吸う、血を。
職業特性『
一撃たりとも食らいたくない。
鑑定で視た数字上では負ける要素がない。
が、このミフネからは数字以上の一種異様な何か──雰囲気が漂っている。
おまけに吸収できるスキルのストックもさっきの権天使どもとの乱闘で使い果たした。
その奪ったばかりのスキルを一か八か、この場で試す気にもならない。
「クモノス様、これ魔物ですか?」
「人間。お前さっき黙ってろって言われたよな?」
「なので静かに喋ってます」
「今、お前と喋ることで俺になんのメリットが?」
「可愛いザリエルちゃんとお話することによってクモノス様がパワーアップ! 頭のイカれた馬鹿人間を見事やっつけて大団円です!」
「死ね」
「ひどい!」
「グローバ、お前ら邪魔だからそいつ連れて離れてろ」
「ちょっとクモノス様、邪魔って……むぐっ!」
グローバが無言でザリエルを抱えると『
シュッ──!
キィン!
「させねぇよ」
「キヒ……」
ゴブリンの秘宝『
「何者……?」
「答えねぇよ」
「キヒヒ。強者? 面倒。だが、姿を見られたからには生きては帰さぬ」
「なら逆に、お前を地獄にいるおふくろに会わせてやるとしよう」
「キヒ……? おふく……ろ?」
「あぁ、お前が斬り殺した母親だ」
「なん……で、お、ま、え、が、そんなことを知ってぇェェェェェ~」
【
チンッ──。
くるりと体を反転。
逆の手で持っていた『
距離を取るべく後ろに跳ぶ。
どういう理屈かミフネは草履姿のくせに距離を保ったままついてくる。
「剣術、か」
あぁ……こういうのがいるから厄介なんだ。
スキルや鑑定した能力では推し量れない技術。
完全版の俺なら意に介さなかっただろう。
が、今の俺は経験値効率のいい権天使どもを殺して強くなったとはいえ、以前と比べれば遥かに弱い。
一撃たりとも食らいたくない。
「ってことで離れろよ、殺人鬼」
【
右手から湧いてくる黄金色の触手を次々と投げつける。
惚れ惚れするほどに美しい切断面を作り出しながら、ミフネはすべての触手を斬り捨て迫ってくる。
「へっ、神族よりやるじゃねぇか」
「キヒ……神だろうが俺に会ったが最後。錆よ、刀の」
「気に入らねぇな、その倒置法。ってかそれ目くらましなんだわ、死ね」
【
ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!
何十もの権天使の命を刈り取ってきた神の放雷。
これに耐えられる人間なんて存在してないはず。
──アベルを除けば。
ジュゥゥゥゥン──プス……プスプス……。
「って、ウソだろ……?」
斬り裂いていた。
まさかの。
縦に構えた刀で。
服も肌も髪も焦げ焦げのチリチリ。
キヒヒ笑いも失せて怒りの相に変わっている。
「……殺す」
「悪いな、でも今のも目くらましなんだわ」
「あ?」
ヒュゥゥゥゥゥゥン!
「うわぁぁぁぁぁぁん!」
上空から落下してくるザリエル。
「な……!」
「よくやった! お前とグローバの仲の悪さを信じて正解だったぞ!」
「そんなぁぁぁぁあ! ひどいですクモノス様ぁぁぁぁぁぁぁ!」
上へと向かってミフネが構えた瞬間。
【
【
【
今の俺が使えるフルコンボ。
両手に持ったチートダガーでミフネのがら空きになった胴を狙って回転撃。
「で、これが本命ってわけ!」
「ぐっ……!」
手応えあり。
ただし。
ギリギリ金属で受けられた感触。
「小太刀……? ギリギリで受けやがったか。マジかよ、俺の『
すんでのところで致命傷は避けたミフネが壁に叩きつけられる。
「キ……ヒ……。受けようがなんだろうが負けは負け……敗者は死すのみ。さぁ、殺せ。どうせ俺はもう動けん」
「そうか、では」
ザッ──……、ドンッ!
思い切り振りかぶった『
「貴様の
「……は?」
「へ?」
「え?」
「えぇ……?」
「俺が貴様に殺させてやる。史上最高の獲物──頂上神、ゼウスを。行くぞ、辻斬り。真夜中の神狩りだ」
「キヒっ」
首都イシュタムの夜の闇に、ミフネの上ずった笑いが溶けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます