第153話 アベル絶対殺す団

「なんでお前が?」


 ぐるぐると目を回す小鬼インプのホラムの首を子猫みたいにつまむとザリエルに放り投げる。


「わわわ! クモノス様! 汚いです! やめてください、ばっちぃ!」


「おい、そいつしっかり捕まえとけよ。じゃないと口の中に入られて体を横取りされるぞ」


「うぇぇぇ!? 気持ち悪すぎます! 触りたくないです! 口とかほんと勘弁! 断固この手を離しません! っていうか首へし折っていいですか!?」


「まだ待て」


「待ちます!」


「奴隷二号、そっちを押さえとけ」


「えぇ……なんで私が……」



 【魅了エンチャント



「うぐ……っ、は……い……」


 ふぅ。

 こいつ、ゴブリンのくせに意思が強くてたちが悪い。

 けどこいつのスキルは使える。

 今は俺の魔力も低いから、奪わずにおいてやる。

 スキルを使わせ、肉盾として使い捨て、死ぬ間際に奪ってやるとするか。


 と、それよりも……。


 パァン! パァンッ!


 スネファスとホラムを平手打つ。


「喋れ。ここまで来た経緯を手早く。話によっちゃ生かしといてやってもいい」


「う……ぐぐ……フィード・オファリングぅ~!!」

「ク、クモノス様ぁ! どうか私めをクモノス様の配下にお加えください! きっとクモノス様のお役に立てると思いますゆえ!」


 俺を睨みつけるホラム。

 俺に媚びまくるスネファス。



 【筋波電光マッスルウェーブ・ボルト



 ドゥゥゥゥゥゥン──!



 背後から忍び寄ってきていた権天使、おそらく第二門最後の生き残りを振り返ることもなく始末する。


「「ひっ……!」」


 対象的な態度だった二人の声が重なる。


「さぁ話せ。俺の気は短い。ああなりたくなけりゃ俺にアピールしろ。お前らがいかに俺様の役に立つかってことをな」


「お、俺は……いや、わたくしめは……フィード……フィード様に地獄に捨てられた直後、子供を背に乗せ飛んでいた竜の上に落ち、そこから自力で這い上がって……」


「あ~、もういい、もういい。お前がどうやってここに来たとかどうでもいいから何しに来たのかを言え。わざわざこんな天界までな」


 小鬼インプのホラムの顔が爆発したかのように憎悪むき出しに歪む。


「貴様を殺すためだぁぁぁぁ! フィード! オッファリングぅぅぅぅ! 貴様を殺し! 大悪魔の欠片を取り戻し! 俺は! 俺様は次代の大悪魔に……!」


「あ~、はいはい、わかったわかった。で、お前は?」


「にへ……にへへ……ハッ! お、俺ですか!?」


 ゴブリンに取り押さえられてる天使のスネファス。

 軽く抵抗するフリをしながらも押し付けられたメスゴブリンの体の感触を楽しんでるっぽい。

 う~ん、正真正銘のクズ。

 仲間がやられた時もとっとと見捨てて逃げてたからな、こいつ。


「次にサッと答えなかったら殺す」


「あ、あの、俺はその……」


 スネファスは少し言い澱んだ後、意を決したという顔をして一気にまくし立てた。


「実はここ東明門エターナルラディアンスに報告に来たわけで! 今、権天使を殺し回ってる犯人は貴方、クモノスだってことを! ほら、だって情報提供者には報奨金って書いてあるし? あ~ちょっと待って! 殺さないで! で! 私、思ったんです! あっ、これムリだって! 貴方様を捕らえるなんて至極ムリだって! だから、ね? 使ってください、私を! ほら、アホのザリエルとゴブリンだけじゃ到底この天界からは脱出出来ませんよ? そこでほら、私です! 自分で言うのもなんですが、私のスキル『卑屈サービティ・ライバー』があれば多少トラブってもどうにか出来ますって! ね? だからほら……」


「採用」


「……へ?」


「スネファス採用。これからはお前が俺様の地上復帰の道筋を開け。そうすれば貴様には報奨金以上の金と地位が手に入るようにしてやろう」


「え~!? クモノス様、私はぁ!?」


 クソ馬鹿ザリエルが空気を読まずしゃしゃり出てくる。


「てめぇは穴掘りと肉壁担当だ」


「そんなぁ~! あんなに愛し合ったのにぃ~!」


「愛し合ってはないだろ。肉布団として使ってはやったがな」


「うぅ~……クモノス様冷たい~。でも、そこがたまらなくいい~! (ゲシゲシ)あ~ん、もっと蹴ってくださ~い!」


「返事は聞かんぞ、スネファス。断ることも許さん。これは取引ではなく、俺様が貴様に与える賞与だ」


「ハハッ! 必ずやクモノス様のお役に立ちます!」


 はい、スネファスの対応完了。

 続くは小鬼インプ


「ホラム、貴様には俺の半分を殺させてやる」


「……は?」


「詳しくは説明せん。俺は今二つに別れてる。その片割れが地上にいる。お前の恨みもなにも知らん。知らんが恨んでるなら地上にいる俺の半分を殺す手伝いをする。どうだ? 今ここで殺されるのと、俺の言う事を聞いてアベルの部分を殺すの。選べ」


「大悪魔もそっちに?」


「ああ。アベルと一緒にいる。そいつのことも好きにしろ」


「えぇい、離せ汚らしい豚天使!」


「だ、誰がぶt……!」


 ザリエルの手を振りほどくと、無駄にデカい彼女の胸元にぴょんと仁王立ちしたホラムが続ける。


「乗った!」


「あとついでだ、グローバ。お前が恨んでるのは多分俺じゃなくてアベル、俺の半身だ。俺の名を騙って建国を嘯いてる悪魔に憑かれた愚かな人間。俺の弱くて邪なる部分。それが貴様の仇だ」


「アベル……それが私の仇……」


 魅了エンチャントの効果もあり、俺の言葉をすんなりと受け入れるグローバ。


「ってことでここに結成だな」


「はひ? クモノス様、なにをですか?」


「決まってるだろ」


 俺は思う。

 もし、俺に弱点があるとしたらただ一つ。

 それは──。


「【アベル絶対殺す団】の結成だ!」


 それは、ネーミングセンスだけだ。

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