第152話 壊滅、東明門

「どりゃぁぁぁあ! 筋波電光マッスルウェーブ・ボルト!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「襲撃! 襲撃だぁぁぁぁぁ!」

「昨日の襲撃犯が今度は空からぁ!」


 スキル「魅了エンチャント」によって俺の第二の肉盾となったゴブリンプリンセスのグローバ。

 彼女のスキル『宙躍スカイリープ』で空中に跳んだ俺たちは、上空から天界第二門「東明門エターナルラディアンス」に奇襲をかけていた。



 ドゥゥゥゥゥゥン──!



 低く重い音と共に放たれる巨大閃光。


「うぉぉぉぉ! 受け止めろ受け止めろぉぉぉ! 一発たりとも人間界に落とすな! 我々の責任問題になるぞ!」


「そんなぁ~、無茶ですよ! 相殺するのにも限度がありますし、撃ち下ろす方が威力も高いですし!」


「文句言うな! 口より先に手を動かす! 我等は天界最強の衛兵、東明門エターナルラディアンス近衛兵ガーディアンズ天使エンジェルだぞ!」


「長い肩書き言ってるうちにほら、スグシヌが死にましたよ!」


「くそっ! 前々からすぐ死にそうな名前だと思ってはいたが本当にあっさり死にやがって!」


「そんなひどい! まったく人の心ってものがないんですか近衛天使長ツギシヌ様は!」


「馬鹿野郎、その名前を口に出すな縁起が悪いだろ!(ジュッ!)」


「ああ~! ツギシヌ様があの謎キモ仮面を着けた正体不明男の『筋波電光マッスルウェーブ・ボルト』によって一瞬で蒸発させられたぁぁぁ! くそ~、こうなったら次はこのサードシヌが命に変えてでも!(ジュッ!)」


「うわぁぁぁぁ! サードシヌ~! くそ~、こうなったらこの(ジュッ!)」


「シヌフォース~!」



 次々と瓦解していく天界最強、第二門「東明門エターナルラディアンス」の衛兵軍団。

 両腕に大天使ザリエルとゴブリンプリンセスのグローバを抱いた俺、フィードこと「くも雲神」クモノスは笑みがこぼれるのを禁じ得ない。


「クックック……こんなもんか、天界最強?」


「天使のみなさんはいつも上空から攻め込むのが定石ですからね~。自分が上から攻められるのは未経験なんでしょ~」


「わ、私のスキルは上にはあがれますけど、下には降りられませんからね! それに魔力も多くないですし、降りる時のこともちゃんと考えとかないと……って、きゃあっ!」


「あ? 降りる時はお前らがクッションになるんだよ。だろ? そのための奴隷だろうが、違うか?」


「クモノシュしゃまぁ~! 違いません! 私ザリエルはクモノシュしゃまのクッションになるべくこうしてたくさんお肉を蓄えてきたのです!」


「よしよし、ザリエルはちゃんとわきまえてるな。ちゃんと俺様のためにそのクソみたいな命を使い切れよ」


「ひゃい!」


「で、ゴブ。お前はどうなんだ?」


「ひゃ……」


「ひゃ?」


「ひゃうぅ……仇……国の仇……父の仇……フィード・オファリング……! こんな奴の言いなりになんて……」


 ふ~む、魅了エンチャントのかかりが浅いか?

 なら……。



 追い【魅了エンチャント】だ!



「あ、ぐ……っ!」


 目の端に涙を浮かべ健気にも耐えるグローバ。


「うぐぐぅ……絶対に……あなたなんかに……」



 【魅了エンチャント



「ぐぅぅ…………!」



 【魅了エンチャント

 【魅了エンチャント

 【魅了エンチャント



「がはっ……はぁはぁ……っ!」



 さらに締めの【魅了エンチャント



「あぁぁぁぁぁぁぁ──!」



 咆哮とともにぐったりとうなだれるグローバ。

 と同時にスキルが解けて真っ逆さまに落ちる俺ら。


「奴隷一号! その大して役に立ってねぇ羽で持ち上げろ!」


「はぃぃぃぃぃぃぃ!」


「大して変わってねぇぇぇぇ!」


「だって! 重いんですよ! 二人!」


「てめぇ一人でも十分重いだろ!」


「重くないです~! グラマーなだけで~す!」


「うるせぇ! このまま落っこちたら全滅じゃねぇか! おら、肉盾どもちゃんとクッショになれ……って逃げるな、オイ! あ~、くそ使えねぇ奴隷どもめ。結局俺がどうにかするしかないのか!」



 【投触手ピッチ・テンタクル】×50くらい。



 ドドドドドドドドッ!



 雲の世界が俺の手から放たれた金色の触手で埋め尽くされていく。



 ドボっ──。



「くっ──!」



 とっさに【身体強化フィジカル・バースト】をかけて二人を抱きかかえ触手の海へ背中からダイブ。


「クモノス様! 守ってくださったのですね、クモノス様クモノス様ぁ!」


「だぁ~! うるせぇ離れろ! くっついてくんな肉団子!」


「肉団子はイヤです! せめてマシュマロでお願いします!」


「ああ、脳みそのスカスカ具合ならマシュマロくらいだな」


「ひぃ~ん、クモノス様ひどいですぅ~」


「それより、貴様がどうにかしろ」


 のびた奴隷二号を一号にポイ。


「うぎゃっ!」


「あ? なんだその声? って……オイ、お前……」


 奴隷一号と二号の間に挟まれたほんのりと見覚えのある顔。


「お前たしか……スネファスって言ったか?」


 俺を殺しに来た三馬鹿天使の生き残り。

 負けを察するやさっさと逃げ去ったやつ。

 それがこんな顔だったはずだ。

 

「げっ、フィード……」


「あ? なんで俺のこと知ってんだ? 俺はお前らには『クモノス』としか名乗ってないはずだが?」


「あ~……え~っと……」


「なんか怪しいなお前、ちょっとツラ貸せ」


 グイッとスネファスの胸元を掴んだ瞬間。


「ぐえっ!」


「……は? お前……?」


 痩せたスネファスの口の中からまたまた見覚えのある顔が覗かせた。


「ホラム?」


 ホラム。

 大悪魔の地下ダンジョンで俺たちを殺すべく最後の最後まで立ちはだかった小鬼インプ

 そいつがぐるぐると目を回しながら「ぐぇぷ」と小さくゲップを吐いた。

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