向かえ「怨敵アベル」編

第150話 ここ掘れわんわん

 天界の守護を司る三つの門。

 そのうちの第二門『東明門エターナルラディアンス』の地下──と言っても雲の中。

 そこに、フィードとザリエルは命からがら逃げ込んでいた。



「どうなってるんだ! ここの天使どもクソ強いじゃねぇか!」


「ひ~ん、クモノス様怒らないでください~」


「るせぇ! てめえが『クモノス様なら大丈夫です』とか抜かすからだろ!」


「だって私を助けてくれた超イケメンのカッコよくて美しいクモノス様が、こんなむさ苦しい権天使どもに負けるはずがないじゃないですか」


「その権天使どもが俺様の『筋波電光マッスルウェーブ・ボルト』を相殺してきやがるじゃねぇか!」


「そりゃそうですよ、ここ第二門を守護する権天使たちは実質天界最強の守護軍団なんですから」


「だから言えよ! それを! 前もって!」


「え~? だってクモノス様じゃないですか~。奴隷の私ごときがクモノス様が苦戦するようなことを想像するのは不敬ですよ~」


「不敬じゃねぇから! 俺様は今、弱体化した状態だからやべぇ時はやべぇっつ~の!」


「なるほど! 絶対神クモノス様はまだ目覚められたばかりで完全体ではないのですね! わかりました、今後はクモノス様がクソ雑魚であると仮定して進言させていただきますね! あっ、そこの角っこに頭をぶつけたら死ぬかもしれないので気をつけて私の胸に顔を埋めててください!」


「死なねぇよ! 雲だろ!? ぶつけても死なねぇし、その無駄にデカくて下品に谷間丸出しにしてる胸にも顔は埋めねぇ! てめぇがすることは俺たちがギューギュー詰めで密着を余儀なくされてるこのクソ狭地下空間を今すぐ掘り広げて快適に俺様が体力回復できるようにすることだ!」


「は~い☆ クモノス様の性奴隷、不肖ザリエル、クモノス様から視姦されながら汗だくになって雲を掘り広げま~す!」


「お前は性奴隷じゃねぇし、視姦もしねぇ! さっさとしろ、このクソ馬鹿奴隷!」


「も~、クモノス様ったら照れ屋なんですから~」


 わかってますよ的な顔をして白のワンピースに張り付いたデカケツをぷりぷりさせながら穴を掘り広げていくザリエルを見ながらため息を吐く。


(案内役としてこの馬鹿天使を魅了エンチャント出来たのはよかったんだが……)


 いかんせん馬鹿すぎる。

 まだ魔界のサキュバスの方が賢かったぞ。

 しかもサキュバスが性に奔放だったのと比べて、なんというかこいつザリエルは上から目線で傲慢さが鼻につく。

 いや、ここまで見てきた感じだと、ザリエルに限らず天使という存在自体がそういうものっぽい。


 魔神サタン的。


 自分以外の全ての種族を見下している、

 自分が絶対。

 圧倒的な力を持っているがゆえ、他者に共感するという能力が決定的に欠如した種族。


 まぁ、全ての神や天使はあのゼウスから生まれたって言われてるわけで。

 あのゼウス。

 思い上がったうぬぼれクソジジイ。

 あれの分体だと考えれば、まぁこいつらが鼻持ちならない連中なのもさもありなんってとこか。


「ほれほれ~、俺様の体力が回復するまでしっかり掘れ掘れ~」


「私はイケメンクモノス様に惚れ惚れです~」


「なら地上まで続いてるっていう天界の入口まで一気に掘り進めろ」


「それはムリです~、死んじゃいます~」


「死ね、俺のために死ぬまで働け」


「クモノス様のために働くのは幸せなんですけど、死んだら意味ないです~。死なない範囲でいい感じで気持ちよくお手つだいさせていただきます~」


 う~ん、こいつ。

 俺に魅了エンチャントされてるとはいえ、ここらへんはちゃっかりしてるんだよな。

 まぁ扱いやすいっちゃやすいから別にいいが。

 ここまで他の天使にも何度か『魅了エンチャント』を試してみたが、こいつほどきれいにかかった奴はいなかった。

 基本的に天使や神に魔物のスキルはかかりにくいっぽい。

 だからこそ天使から奪った『筋波電光マッスルウェーブ・ボルト』で天使どもを始末していってるわけだ。


「どうですかクモノス様~、だいぶ広くなってきましたけど過ごしやすくなりましたか~?」


「まだまだだ。俺様が足伸ばして寝れるまで掘れ掘れワンワン」


「わんっ! わんわんっ! 足を伸ばして私と添い寝できるまでってことですね! この性奴隷ザリエル、クモノス様をこの体で癒せるように頑張って掘りますね!」


「はいはい、わんわん」


「わんっ! わんわんっ!」


 崇高なる神々の住むという天界。

 その最も警備の厳しい第二門『東明門エターナルラディアンス』の地中で、「わんわん」「わんわん」と馬鹿みたいな声が響く中。



 ボコッ。



 地面──雲の中からなにかが突き出てきた。


(追手か!? こんなとこにまで──! いざとなったらザリエルのやつを盾にして……)


 素早く身構える。

 薄汚れたレジェンド級短刀『結界斬ボンド・ダガー』をの方に向ける。


 ……が。


「……は? ゴブリン……?」

「はひ? 誰ですか? こんな醜い神族、見たことありません」


 ゴブリン。

 しかもどこか品を感じさせるゴブリン。

 メス。

 そいつは逆に問いかけてきた。


「あ、あなたこそ……誰なんですか!?」


 喋れるってことはそこそこ知性の高いゴブリンなんだろうが……。

 まぁいい、メスゴブリンなら簡単に『魅了エンチャント』出来るだろう。


「俺? 俺様は……」


 なら教えてやろうじゃねぇか。


「フィード・オファリング様だ!」

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