第149話 王女グローバの逃亡
ゴブリンたちの王国『千年王国』の王女グローバは、生まれて初めて洞窟の外に出た。
ゴブリンたちに謀反を起こされ、国王である父は囚えられた。
箱入り娘として巨大な鍾乳洞の中で十六年間育てられてきたグローバは驚いた。
「こんなことあるんだ!」
それまで彼女は自分の人生は「適切な相手を婿に選び、次の国王となる種を産み落とす」だけだと思っていた。
婿は父である国王が選ぶし、グローバは特になんの役目も与えられない。
仕方がないのでグローバは鍾乳洞の中をぴょんぴょんと跳び回って過ごしていた。
そう、文字通り
彼女のスキル『
それは何もない空中を蹴って跳躍するスキル。
けれど、鍾乳洞生まれ鍾乳洞育ちの彼女にとって、それはすぐに天井に到達してしまうだけの意味のないスキルだった。
「ちょっと木登りが得意」とか。
その程度の無意味なスキル。
そんなスキルが彼女を救った。
フィード・オファリング公国側のゴブリンに追われた彼女は生まれて初めて鍾乳洞の外に出た。
まず、その明るさに驚いた。
目が潰れるかと思った。
だから目をつぶって跳んだ。
匂いがする。
色々な匂い。
風が吹いてる。
草や木や川の匂いがする。
いろんなものを鼻と肌で感じながら、彼女は跳んだ。
鍾乳洞の外がどうなっているのかはわからない。
けど、どうするかなんて天井まで着いてから考えればいい。
きっとこれまでみたいに天井まで行けば
それまで
うるさかった周りの音がどんどん小さくなっていく。
ちょっと不安になって薄目を開けてみる。
真っ青。
「まぁ! ずいぶんと高い天井ですこと!」
グローバは、ここが鍾乳洞の「外」であることはわかってる。
が、グローバには具体的に「外」というものがどういうものなのかはわかっていない。
「青い壁も不思議ですわ! あの動いてる白いのが天井かしら」
生まれて初めて己のスキルを思う存分に使うグローバ。
ずっと鍾乳洞の中で刺激のない日々を送っていた彼女にとって、この清々しい大空は父親が囚えられたことよりも遥かに心に迫っていた。
こころなしか息が苦しくなってきたような気がする。
顔にかかる空気も冷たい。
不思議。
あったかい空気は天井に溜まるはずなのに。
外では鍾乳洞の中と逆なんだろうか。
「早くてっぺんまで行こう」
てっぺんまで行けばどこか横穴があるはずだ。
そこに入ればほぼ完全に安全なはず。
こんな高いところまではそう簡単に来れないだろうし。
お父様のことは後から考えよう。
というか。
『フィード・オファリング公国って、何?』
急に降って湧いた謎公国。
フィード・オファリングってなに?
いつのまにうちの国民たちが盗られたの?
泥棒?
別に国に愛着があるわけじゃない。
王女とは言ってもメス蔑視なゴブリンたちにとって、グローバは次代の国王を生むためだけの「産み腹」でしかなかった。
ただ──納得がいかない。
いきなりすぎる。
「誰なのよ、もうっ!」
突如腹が立ってきてそう口に出した瞬間。
ぼふっ──。
跳躍を続けていたグローパの頭が雲に突っ込んだ。
「……は? お前、誰?」
雲の中にぽっこりと空いた小部屋にいたのは、翼の生えた巨乳メスと生意気そうな赤毛の人間。
「あ、あなたこそ……誰なんですか!?」
「俺? 俺様は……」
その生意気そうな男は自信満満にこう続けた。
「フィード・オファリング様だ!」
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