第146話 棍棒を作ろう
スキル『
その切り立った崖の下に赤い肌の色をした魔物がいた。
「ヤリヤ、なにあれ?」
「だだだだ、だから赤鬼っつってんだろ!」
僕に腕を掴まれながら一緒に飛んでるヤリヤは舌を噛まないように必死に話す。
「あっ、ごめんねこんな持ち方で」
「もももも、持ち方の問題じゃ……」
左手を僕に引かれ、右手でツギハギワンピースの裾を押さえたヤリヤが喋り終わる前にスキルを発動。
【
名前:ズィダオ
種族:赤鬼
職業:案内係
レベル:80
体力:4
魔力:3
職業特性:【
スキル:【
種族「赤鬼」。
ほんとに「あかおに」なんだ。
赤い鬼だから赤鬼?
こういうの地獄にもいたような……主に餓鬼をいじめる側で。
職業「案内係」ってのもよくわからない。
職業特性の「棒倒し」も謎。
スキル「爆殺棍棒」はなんとなく想像つくけど、このズィダオたる赤鬼は棍棒的なものを持ってるようには見えない。
しかもデカい図体をちんまりと縮めてこちらに背中を向けている。
トッ──。
ヤリヤが怪我しないように注意して着地。
背を向けたままの赤鬼に向かって声を掛ける。
「赤鬼ズィダオ、こんなところでなにしてる?」
「アンダが、オラの棍棒ば、探してくれっとかぁ?」
ジトリと陰気にこちらに顔を向けたズィダオが訛りまくりの人語で話す。
「ヤリヤ、一応ちゃんと訳してくれる?」
「ったく、契約外労働だぜ、ほんとに……ギャッ、ギャギャ?」
文句を言いながらもちゃんと通訳の仕事を果たしてくれるヤリヤ。
話によると、棍棒が折れてしまって新しい棍棒を探しにここにやってきたらしい。
「こんなところに棍棒なんてなさそうだけど?」
「オラの職業特性、絶対外れん。棍棒、ここで見つかるけん」
う~む。
どうやら彼の職業特性『棒倒し』というのは「もの探し」や「人探し」に特化した能力らしい。
その能力でここに来たらしいんだけど……。
「ここにもうすぐ僕の知り合いたちが来るんだ。キミがいるとびっくりしちゃうからさ。ちょっと別の場所で待ってもらうわけにはいかないかな? 最悪戦闘になっちゃう可能性もあるし。僕たちはただ肝試しをしたいだけなんだよね」
「肝試し? オラの知ったこっちゃなか。オラはオラの『
「ちなみに棍棒ってどんな感じの?」
「んだなぁ……まずこのバカ堅いバッキガの木の芯を素手でぶち折ってから、ギュウ~っと押しつぶしたやつ」
「……それだけ?」
「んだ」
ズィダオいわくの「このバカ堅いバッキガキの木」とは、この切り立った崖の上に一本だけ伸びてるすごく太い木らしい。
これを素手でぶち折るだって?
いやいや、ムリでしょ。
斬るだけなら僕のスキルでどうにかなるかもだけど、ぶち折るはさすがに……。
『出来るぞ』
(え? サタンならわかるっていうの?)
『お前はなれるだろ、この木をぶち折れるサイズの個体に』
(あっ……)
僕はヤリヤを離れた場所に立たせるとスキルを発動。
【
美少女だった僕の体が老トロールへと変貌する。
「まさか自分がこの姿になるとはね……」
姿を変えたからってステータスが伸びるわけではない。
ただ、木を抱きかかえられるくらいにはリーチが長くなった。
「ぎょぇっ……! アンタ、その姿……!」
ズィダオが慌てて立ち上がり、その全身が目に入る。
デカい──!
三メートルはゆうに超える高さ。
横にも縦にも厚い。
もじゃもじゃ頭の真中に短い角が一本生えてる。
厳つい肉体とは裏腹に、顔つきはタレ目で情けない感じ。
目の端には涙がうっすら浮かんでいる。
衣服は虎柄の腰巻きのみ。
強そうだか間抜けだかわからない恰好。
そんなズィダオに向かって静かに告げる。
「大丈夫。ちょっと待ってて」
【
僕は崖の上に飛ぶとバッキガの木の幹をガっと掴む。
ぐぐっ……。
うん、なんとかいけそうだ。
【
【
ぐぐぐ……ズッ、バキバキ……。
「
(仕方ない。じゃあこれで……)
【
僕の両手の触れた部分がボロボロと腐食して崩れ落ちていく。
けど、まだ芯の中心部みたいなところがハンパなく堅い。
ぐ……それなら……これでどうだぁ!
【
木を武器に見立てて横回転の力を加える。
ガッ……ガ、バキィ!
派手な音を立てて芯の中心部にヒビが入る。
そのまま一気にバッキガの木を
「あんた……マジ……? 神け……?」
「神ではないよ。(仮)だけど」
「かっこかり……?」
「あぁ、そこら辺は僕もよくわかってないんだよね。それより、あとはこれを圧縮するんだっけ?」
「ん、んだ……」
なら。
最後はこの肉体の持ち主に敬意を示してこのスキルを使わせてもらうとしよう。
【
ボキガキゴキゴキ……ギュッ……グギュギュギュギュ……!
理性が持っていかれそうになるほどの「暴」の波動に耐えながら木を圧縮していく。
すると不思議なほどに簡単にバッキガの木はするすると巨大な棍棒へと成形されていった。
「おぉ……あんた……。伝説のオーガ神け……?」
「はい? 別にそんなのじゃないけど?」
棍棒を握った手から力が湧き出てくる感覚がある。
やっぱり特別な木で作ったからなのかな?
トロールやオーガ系特有のバフ効果?
っていうかこのサイズの棍棒使う種族なんてオーガかトロールくらいしかいないもんね。
「あのぎゃぁぁぁぁぁぁ! すごい音がぁ! もうこの世の終わりだぁ! 地獄の悪魔、サタンが口を開いた音だぁぁぁぁ!」
ラルクくんの声が聞こえてくる。
もうだいぶ近くにいるみたい。
「ってことで、はい! これあげる!」
ポイッと棍棒をズィダオに手渡す。
「ハハッ! オラ、一生あなた様にお仕えいたしますけん!」
「いや、そんな大げさだから。とりあえず、もう僕の仲間が来ちゃうからここから離れてもらっていいかな? あ、ヤリヤ、今の正確に訳してね。もう『朝』の解釈違いでずっと付きまとわれるとか勘弁だから」
「お、おぅ。ギャ、ギャギャギャ」
ヤリヤの話を聞いたズィダオはオンオンと涙を流しながら土下座しだした。
「ちょ、ヤリヤなんて言ったの?」
「フィード・オファリング国王を離れた場所から見守っていれば国民として受け入れてもらえるって言ったけど」
「僕そんなこと言ってないよね!?」
「言うこと聞かせるんならこれが早い」
「そりゃそうかもだけど……」
「
「ほら、もう来ちゃうから! もうなんでもいいから早く行って!」
「御意!」
「はいはい」
ガサッ!
ラルクくんとルゥが草むらから出てきた。
ふぅ~、間一髪!
ギリギリで『
飛んでみんなの元へ戻る。
そんな僕をルゥが笑顔で見つめている。
(えっ? 僕、今透明だよね……? ルゥって前から異様に勘がいいとこあるからなぁ。まぁ、そんなルゥと一緒なんだからラルクくんも安全だとは思うけど……)
僕はさり気なく待機中のみんなの元へ戻ると、まったく危険のなくなった平和な肝試しを存分に(たまに『
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