第145話 肝試し
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「のわぁぁぁぁぁぁ!」
静かな闇の中にラルクくんの声が響きまくる。
メダニアでディーに貰った常時ほんのりと明かりの灯っているランタンを下げたラルクくんとルゥ。
一組目のコンビが肝試しの真っ最中。
簡単な野営を構えた河原からちっちゃい森を抜けて行き止まりにある大きな石に名前を書いて戻って来る。
それがルール。
なんでもこの辺の若者の定番の肝試しコースになってるらしい。
まったく物騒なことだ。
でもみんなを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
ってことで、僕はスキル『
パキッ。
あっ。
「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
僕の踏んじゃった小枝の音にビビリまくるラルクくん。
ラルクくんは思わずルゥに抱きつこうとするけど、ルゥの持った【行動阻害】効果のある『
ラルクくん、こんな調子じゃもし魔物に遭遇したらヤバくないか?
やっぱりこうしてついてきてよかったかも。
っていうか神官なのにこんなにお化けやらに怖がってて大丈夫なの?
神官ってさぁ、もっと
なんてことを思ってると前方でガサッ……っと物音。
ラルクくんたちは自身の悲鳴で気づいてないっぽい。
ってことで。
【
ドッ──ヒュッ──!
「ゎぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」と叫ぶラルクくんの悲鳴の合間を透明のまま通り過ぎていく。
物音のした場所に着くと、そこには見覚えのある顔がいた。
「ヤリヤ? なにしてるの?」
司法書士ゴブリンのヤリヤと数人のゴブリンが身を隠している。
「!?」と狼狽えるヤリヤたち。
「ああ、このままじゃ見えないか」
スキル『
「姿まで消せたのか……! ったく、どんだけなんだルード様は……!」
「ギャギャ……!?」
「ギャッ!」
「ギャギャ……!」
ヤリヤがゴブリンたちに僕のことを(おそらく)説明すると、ゴブリンが一斉に僕に向かって土下座した。
「え~っと……なにしてるの?」
「こいつら聞かねぇんだよ。あんたに言われた通り『朝まで護衛』って説明したんだけどよ、この『朝』がゴブリンの言葉だと『自分たちの種が繁栄して黄金時代を築くまで』になっちまうんだよ」
「……は?」
「おっと、契約の内容は変更できねぇからな。要するにそういうことでゴブリンどもは自分たちの黄金時代を迎えるまであんたの護衛をしてるってことだ。こうして影に隠れてな」
「いやいや、そんなこと頼んでないし……っていうか、彼らはなんで土下座してるわけ?」
「国王に忠誠を誓ってんだろ」
「国王?」
「フィード・オファリング公国の国王なんだろ?」
「そんな国建てないし、僕は国王でもなんでもないからね? セレアナが勝手に言ってるだけだし」
「知らね~よ。それはこいつらに直接説明してくれ。俺の仕事じゃねぇ」
「いや、言葉通じないし。洗脳するにもしてもきりがないし」
「ルード様は洗脳まで出来るのか……。マジで国王っていうより魔王だな、こわっ」
このヘンテコな自作ワンピースを着てメガネかけた司法書士ゴブリンことヤリヤ。
僕のことを「ルード様」と呼ぶわりに口調は軽い。
「ルード様の家来がなんでわざわざ弱そうな少人数で森に突っ込んできてるのかは知らん。が、奥には赤鬼がいるぞ」
「あかおに?」
「トロールのレア個体みたいなもんだな」
「トロール。トロールかぁ……」
脳内に僕が初めて
ウェルリンに紹介された、ボケて徘徊していた老ゴブリン。
彼の中に僕は一人の生き物としての矜持を見た。
あの老トロールと同じような信念や精神の強さを持ってるとしたら……。
きっと厄介に違いない。
「まぁ、いいや。とりあえずヤリヤ、その土下座してるゴブリンくんたちの顔を上げさせて。そんなにされるほどのものじゃないからさ、僕」
「ギャ」
ヤリヤが短く鳴くと、ゴブリンたちは恐る恐る顔を上げて今度は片膝をついた。
「う~ん、まだ堅苦しいけどまぁいいか」
それよりも。
「じゃ、行こう」
「へ?」
僕はヤリヤの腕を取ると。
【
奥にいるらしい赤鬼に向けて飛び立った。
「ひぇぇぇ、なんで俺まで……!?」
「なんでってほら、通訳?」
「そ、そんなぁぁぁぁ! 契約外だぁぁぁぁぁ!」
そのヤリヤの声は無情にもラルクくんの「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」という叫びにかき消され、夜の闇へと溶けていった。
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