第144話 神と信者と男と女

 ほい、これがアチアチ『鑑定眼アプレイザル・アイズ』の結果ね。


 名前:エリー=リオネット

 種族:人間

 職業:貴族

 レベル:80

 体力:4

 魔力:3

 職業特性:【社交辞令エチケット

 スキル:なし



 乗合馬車で謎の魔弾をぶっ放したおばあちゃんの正体は貴族の人だった。


 どことなく上品な気はしてたけど貴族かぁ。

 あの魔弾は護身用なんだって。

 しかも「うふふ、秘密よ」っておばあちゃんは言うけど、そんな「うふふ」で誤魔化せちゃうような威力じゃないから、それ……。


 魔神サタンも頂上神ゼノスもそんなアイテム──というかもはや兵器? のことは知らなかった模様。

 知識マニアのテスが目の色変えて色々質問してたけど「あら、どうだったかしらねぇ。年だから忘れちゃったわ、ごめんなさいねぇ」とか言ってはぐらかされてたし。


 そしてこのエリーおばあちゃん(と呼ぶようになった)。

 僕の鑑定スキルをもってしてもレベルが「80」という高レベルであること以外は何もわからない。

 やはりスキルやステータス以外の視えない部分も重要だなと改めて実感。

 ことのほか社会的に色々と入り組んでいる、ここ人間界ではなおさら。

 謀略や策略。言葉の裏を読むなんてことが得意じゃなかった僕にとっては、こっちでの生活はもしかしたら魔界よりもシビアかも。

 なんてことが頭をよぎる。


 そんな謎の貴族エリーばあちゃんは相変わらずゼノスと折り合いが悪い。

それはベン・ウルフ襲撃によって大幅に予定が遅れ、急遽余儀なくされた野営の場においても同じだった。



「がはは~! このワシの世界最強の一撃でルードちゅわんのために魚とかいうクソ雑魚原始的生物を殺して捕ってやるからな~!」


 バッシャ~ン!


「ああっ、ゼノスさん! デタラメに水面を叩かないで! お魚さん逃げちゃいますから!」


「じゃかましい、ボンクラ神官が!」


「誰がボンクラ神官ですか! 僕は『神の使い』としてですね、憐れなあなたを更生しようと……」


「なら『神の使い』らしくワシの言う事を聞いとかんかい!」


「ゼノスさんは神じゃないじゃないでしょ! まったく、どんだけ思い上がってるんですか! はぁ……やはりゼノスさんには信仰が必要なようですね! いいですか? 我が星光聖教スターライトせいきょうでは……」


「あ~うっさいうっさい! そんなもん、神が人どもをこき使うために適当に作ったクソ教義じゃろうが!」


「なんてこと言ってんですか!」


「あらあら、あの二人は本当に仲がいいわねぇ」



『よくないわ~い (ですよ)!』



 僕こと美少女ルードにいいところ見せようと張り切ってみんなに迷惑をかけるゼウスことゼノス。

 それを諌める神官ラルクくん。

 そんな二人を暖かく見守る少しおとぼけなエリーおばあちゃん。

 エリーおばあちゃんに対してキレるゼノス。

 それをまた諌めるラルクくん。

 キレたゼノスを軽くあしらうエリーおばあちゃん。


 はぁ……。

 こんな三人のやり取りが、この半日でもう何回続いたことか。

 しかもエリーおばあちゃんはどんだけゼウスに罵詈雑言投げかけられてもニコニコと受け流し、逆にゼウスの方が疲れてきてる始末。

 頂上神を振り回すおばあちゃん……やばすぎるでしょ。


「ゼノスさん! 人を憎む気持ちがあるのは、あなたの心が弱いからなのです!」


 そしてさぁ、頂上神に説法かましまくってるラルクくんもたいがいヤバいんだよね。


「ぐぅぅぅぅ! このクソババア! 絶対殺す! 何が何でも殺す!」


 もはやゼウスは僕こと恋の未練があるアイドル「ルード」よりもエリーお婆ちゃんに時間を割かれることの方が多くなってきていた。

 まぁ僕としては助かるんだけど……ごめん、エリーお婆ちゃん……。



 夜。


 ゼウス (ゼノス)と僕の仲を取り持とうとするラルクくんが、いいことを思いついたとばかりに顔を輝かせて言い出した。


「肝試しをしましょう!」


「肝試しぃ?」


「そうです、肝試しです! 男女がペアとなって夜道の中を進む。おばけが出るかも! 怖い! 自然と縮まる二人の距離! いつの間にか繋いでた手! 高まった二人の鼓動はいつしか一つに溶け合い……!」


 妙にポエムチックな解説を得意げに披露するラルクくん。


「でも魔物とか出たら危ないじゃない」


「大丈夫です! そこは責任持って僕が守りますから!」


「じゃあラルクさんは肝試しに参加されないんですか?」


「します! 責任を持ってトップバッターで行って、ゴール地点で皆さんを待ってます! 異変があったらすぐに駆けつけます!」


「お一人で行かれるんですか?」


「いえ! もちろん誰かとペアになって……あっ、ペアってのは平等にくじ引きで決めるもので……」


「ラルクよ!」


「あ、はいぃ!?」


 ゼノスがニカッっと笑う。


「よくやった! よいぞっ! よいではないか! このワシの神がかり的豪運があれば、きっと運命の女性ルードちゅわ~んと結ばれること間違いなしじゃろう! ほれほれ、さっさとそのくじ引きを作らんか~い!」



 くじ引き後。


「な……なんで……。豪運なはずのワシが……」


「あらあら、私とペアだなんてもしかしたらご縁があるのかもしれないわねぇ」


 ゼウスとペアになったエリーお婆ちゃんがウフフと笑う。


 以下、くじ引きで決まったペア。


 ① ラルク ― ルゥ

 ② ルード ― テス

 ③ リサ ― セレアナ

 ④ ゼノス ― エリーお婆ちゃん


「ご縁なんかお断りじゃ~~~~~!」


 叫ぶゼノス。

 なぜかがっかりした表情ラルクくん。

「うふふ、この年で肝試しだなんてねぇ。しっかり守ってもらわないとねぇ」と上品に笑うエリーお婆ちゃん。


 そんなこんなで張り切りすぎた神官ラルクくんの申し出によって「肝試し大会」が急遽開かれることになったのだった。

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