第118話 不可抗力な揉み比べ

 セレアナとラルクくんの肩を借りて酔っ払ったリサとルゥを教会に連れて帰り、スヤスヤと寝息を立てているお子ちゃまテスの隣に寝かしつけると、ボクにも一気に一日の疲れが襲いかかってきた。

 なので教会の客間、二つ並んだ質素なベッドにボクもそのまま倒れ込む。


「むにゃむにゃ……フィード……」


 リサの寝言が聞こえる。

 だからボクは今はフィードじゃなくてルードだっての……。

 それにしても今日は盛り沢山だったなぁ……。


 フィードと肉体から切り離されて蜘蛛になって。

 アイドルという女の子の姿になって。

 頂上神ゼウスがやってきて。

 ゼウスが若返って「ゼノス」と名乗りだして。

 お洋服を買いに行って。

 そこで拐われそうになって返り討ちにしたらお洋服無料になって。

 ボクがすごく可愛くて。

 その後、教会にドミー・ボウガンがやってきて。

 人さらいをやめさせるのと、ラルクくんの教会を守るために絶壁クリフ・ブラセルというとこに行くことになって。

 そこで訳ありっぽいエルフのディーと会って。

 ディーが魔王についてなにか知ってるっぽいことを言ったと思ったら、ワイバーンのウインガラニアがやってきて。

 ドミーとディーと一緒にウインガラニアを倒して。

 そのドミーとディーが『絶壁の英雄D&D』なんて呼ばれるようになって。


 濃すぎ。

 濃すぎだよ……。

 人間界に戻ってきさえすれば、すぐに元の生活に戻れると思ってた。

 けど、色々抱え込んじゃったからなぁ。


 リサとルゥ。

 テスと魔王。

 セレアナの歌姫への夢……も、お世話になった相手だから力になってあげたいな。

 サタンも、対ゼウスのためにボクの中にこのまま居てもらった方がいいし。

 閻魔の送った原稿をイシュタムの出版社に説明しに行くこともしなくちゃだなぁ。

 まぁ、これはどのみちイシュタムに行くから、ついででいいか。

 もちろんボクの肉体も取り戻さなきゃだ。

 そのためにはフィードにも元気で頑張ってもらわないと困る。

 それから──。


 モモ。


 ボクの幼馴染で、ボクをずっと守ってくれていた女の子。

 心配してるだろうから、早く顔を見せて安心させてあげないと。

 そういえばボクのいたパーティーの『焔燃鹿団ほむらもゆるしかだん』は、今どうなっているんだろう?

 まだ変わらず活動してるのかな?

 と言っても一ヶ月やそこらで、そんなに劇的に変化なんてしないか……。

 あぁ、お父さんとお母さんにも顔見せないと。


 にしても……。

 このボクの手に当たってる体……一体誰のだろう。

 モミモミ……ふわぁ、絶妙の手触り。

 こんなの男の子だったボクには許されないだろうけど、ほら……今は女の子だし? 雑魚寝してるし? 疲れてて動けないし? 狭いベッドの上で不可抗力だし? まぁいいよ……ね……。


 



 翌朝。


「だから、なんでここがたまり場になってるんですか~!」


 そんなラルクくんの声で目を覚ます。

 

(ん……?)


 相変わらず両の手のひらにはやらわかな感触。


 むに……むにむに……。


「ん……んんっ……」


 なまめかしい声の方を見ると、右手はリサの胸に。

 左手はルゥの胸に。

 という今まで抑え込んできていたボクの性の欲的なあれが一気に暴走したかのような傍若無人ぼうじゃくむじん二刀にとう持ち、いや二胸にきょう持ちを発揮していた。


 もみ。

 もみもみ。


 いや、違う。

 今のも決していやらしい気持ちで揉んだ「もみ」ではない。

 リサとルゥ。

 その人体の差異について、二人を人化させてしまった張本人であるボクが確認してみただけだ。

 その、うん、好奇心とういうか、探究心というか。

 断じて決していやらしい気持ちの「もみ」ではないんだ。


 そんな自己弁護を心の中で繰り広げていると。


「んっ……!」


 ルゥが目を覚ました。


「ふぁ……おはようございます。ルードさん。すみません、昨日は気づかずにお避け飲んじゃってたみたいで……って、あら?」


 ルゥのふんわりとした睫毛が自分の胸を見る。

 もちろんそこには、ボクの手。


「まぁ、ルードさんったら」


「ちが……! 違うんだって! これはふか……不可抗力で……!」


「別にいいんですよ? ルードさん、昨日い~っぱい頑張りましたもんね? 私なんかに触って癒やされるんでしたら、好きなだけモミモミしてください」


 そう言ってボクの手をギュッと胸に押し付ける。


「モ……」


 モミモミしてください……?


「ちが~う! だ、だから……!」


 ルゥの言葉の暴力に必死にあらがって手を振りほどくと、今度はリサが目を覚ました。


「あ、おはようフィー……じゃなかった、ルード」


「え、あ、おはよう」


 意外と寝起きのいいリサ。

 そういえば地下ダンジョンの中でもわりとキビキビしてたような気がする。


「あ、ごめ……」


 先手を打って胸を触っていることを謝ろうとする。


「え、なにが?」


「いや、だから、その、胸……」


「ああ、これね。別にいいんじゃない? 触りたかったんでしょ?」


「へ? いや、触りたかったっていうかベッドの上が狭くて仕方なく……」


「はいはい! いいわよ、そんな言い訳しなくても! そもそも今はフィードじゃなくてルードなんでしょ? 女の子同士別に気にしないわよ。ルゥとも仲良しだし、そんな感じなんでしょ? ってことで……」


 リサの目が光る。


「え?」


 続けてルゥの目もキラーンと光る。


「そうですね……」


「え? なに?」


 両手をモミモミと動かしながら笑顔でにじり寄ってくる二人。


「私たちにも触らせなさぁ~い!」


「ええ~~~~!?」


 飛びかかってきてボクの全身をまさぐる二人。


「うひゃ……! なに、なんかゾワゾワする……! ちょ、やめ……やめてって……! んん~……っ!」


 なにこの感覚!

 ヤバい! なんかヤバいんだけど!

 ゾワワワワワ~!

 ううっ~~~~~……!


 と、三人でくんずほぐれつしていると。


「はぁ、アンタたち、朝っぱらから元気ねぇ」

「おっと、こりゃ眼福ッスね」


 絶壁の英雄D&Dが、呆れた顔でボクらを見つめていた。

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