第117話 祝勝会
「フィード!」
「フィードさん!」
ルゥとリサがボクに飛びつく。
「おっと……」
ぐらりと少しよろめきながら、ボクは二人を受け止める。
「みんな大丈夫だった?」
「うん、壁の中にいた人もみんな避難させた!」
「おかげで怪我人も出ませんでした」
「そうか、二人ともありがとう」
「うむ、それに今は『フィード』ではなくて『ルード』だぞ」
そう言いながらテクテクとそばにやって来たテスの猫の毛のような細い金髪の頭を優しく撫でる。
「テスもありがとうな、魔鋭刀も役に立ったよ」
「ふわぁ……! わ、わがはいを子供扱いするでない!」
壁に頭から突っ込んで気を失っていたワイバーン、ウインガラニア。
彼が気絶している階層まで下りたボクは、その背中に隠された逆鱗をハンマー状の魔鋭刀で砕いていた。
ボクが彼の子供──ウイングシアに、そうしたように。
「そういえば
手渡された魔鋭刀をお花のピンに変え、髪に差し込みながらテスが照れ隠しのようにつぶやく。
「ああ、でもギリギリでどうにかなった。彼らのおかげでね」
そう言って、背後のD&Dへと視線を向ける。
「えへへ……」
「あ、あはは……」
ドミー&ディーが気まずそうにはにかむ。
なぜ、ボクが彼らを壁の上に残して一緒に戦ったか。
それは、ここは彼らの戦場だからだ。
結果的にボクが倒しちゃったわけではあるんだけど、人様の住んでる場所で勝手に部外者同士が戦うってのもどうかと思ったわけで。
おまけに二人はここの兵舎にいた兵士の元締めと、この町のボスときてる。
二人には戦う理由──いや、責任があると思った。
いくら、この
そして、事実。
己の欲を優先して生きてきた二人は、最後の最後にボクを助けてくれたわけで。
「なぁ~るほどですわぁ! 我らがルードは物理的に壁を壊すだけではなく、この二人を竜殺しの英雄として持ち上げてこの
セレアナがわざとらしく周りに聞こえるかのような芝居がかった大声で説明する。
「まぁ、そうなる……かな?」
結果的に、って部分が大きいけどね。
ま、これを機に、この壁が正常に機能するように変貌していけばいいなと思ってはいる。
「やはりルードは思慮深く勇気もあって決断力と力を兼ね備えた、この世を統べる『王』に最も近い存在だと、
「……は? 王って……ちょっとセレアナなに言って……」
「ええ、わかっていますわぁ! これ以上ヤボなことは言いいませんわぁ。それよりも、まずは新たな英雄の存在を周知させることのほうが先ですわね」
セレアナはただでさえ大きな胸にいっぱいに息を吸い込んで、さらに大きくさせた。
「メダニアの町の住民、兵士の皆さまぁ~! 壁を襲ってきたワイバーンはたった今、無事に退治されましたわぁ~! 倒したのは、勇敢なるメダニアの兵士ドミー・ボウガン! そして、みなもご存知、この町を守り続けてきた女神ディー! この二人の英雄によって皆の命は無事に守られましたわぁ! 新たなる絶壁の英雄D&D!
お、おぉ……。
セレアナ、相変わらず絶好調だな……。
めちゃめちゃ魔力も声に乗ってるし……。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
すぐに街中から歓喜の声が巻き起こってきた。
「ワイバーンをやったってマジか!?」
「俺達が……やった……?」
「人類で竜を倒した奴なんて伝承の中でしか聞いたことねぇぞ!」
「ガチ英雄じゃねぇか!」
「俺達の仕事は無駄じゃなかったんだ!」
「すげぇよ! オレたちの仲間から竜殺しが出てくるだなんて!」
「ディーさんって、やっぱすげえんだな!」
「さすがはこの町の女神!」
「ドミー! ドミー! ドミー・ボウガン!」
「ディー! ディー! ディー!」
『絶壁の英雄D&D!
その声はこだまとなり、壁を伝ってどんどんと遠くまで
そして始まった。
壁の北から南まで続く、長い長い宴の夜が。
「しっかし、ほんとにお人好しよね~! ルードは」
ジョッキを手にしたリサが舌足らずな口調で告げる。
「ワイバーンを倒したのはルードなわけでしょ? なら、みんなルードを褒め称えるべきなのよ! なによ、みんな口を揃えてD&Dって!」
「あはは……って、リサ? もしかして酔ってる?」
「……ひっくっ! 酔ってにゃ~わよ、あにょにぃぇ~、フィードぉ? わらし……わらしは……」
次第に
「ああ、リサったら! 目を離した隙に!」
ルゥが慌てて駆けつける。
「らぁ~ってぇ~……飲め飲めって勧められたんらものぉ……ひっく! これくらいの安酒……こんな麦酒……シュワシュワ……ごくっ、んぱぁ~! こぉんにゃ人間の
もはや自分の名前すら言えないくらいに
「あらあら、リサったらよっぽどフィードさんが無事で嬉しかったんですね。はい、ここに頭置いてください」
「むにゃむにゃ……」
コテンとルゥの柔らかそうな太ももの上に頭を乗せたリサは、高潔たるバンパイアとはまるで思えない緩みまくった顔をしている。
「うふふ、リサかわいいですね」
「ああ、そうだな。その白いワンピースによだれが垂れなきゃいいけど」
学校でもチョロかったリサ、人間界でも相変わらずチョロすぎる。
「よだれ……。ええ、よだれもかわいいですよね……。ああ、リサ……なんて可愛いんでしょう……うふふ……うふふふふふふ……」
「え、ルゥ?」
「うふふふふふふふふ……!」
太ももの上のリサの顔をペタペタと撫で回すルゥ。
なにか様子がおかしい。
そう思った瞬間、ルゥの座った椅子の後ろに置かれた空のジョッキが目に入った。
「もしかしてルゥも酔ってる!?」
「酔ってましぇん、じぇんじぇん酔ってなんかいましぇんよ……? こぉ~んなぶどうジュースの一杯や二杯くらいで……って、あれ……? これ、ジュースだと思って飲んでたんでしゅけど……ありゃりゃ? おしゃけ……? おしゃ……? ふぇ、ルードちゃん、私、
自分が酔ってることに気づいたルゥ。
気付いたが最後、どんどん酔いが回っていっている様子。
(あらら……頭の緑のクセっ毛が全部蛇だった頃なら、それも全部酔っ払ってたのかな?)
なんて思いながら、次第にふにゃふにゃになっていくルゥへの対処に手を焼いていると。
【
通りすがりの男性がスキルで二人を眠らせてくれた。
「嬢ちゃんたち、子どもだろ? 今日は大変だったね。酒なんか飲んで変なやつに
「あ、はい、近くに大人の知り合いいるんで大丈夫です! ありがとうございます!」
兵士っぽくない格好。
体つきも細身だ。
喋り方も都会風。
行商人の人とかなのかな?
にしても、今の声。
なんとなく聞き覚えがあるような……?
なんてことを思っていると、通りすがりの人はいつの間にか姿を消していた。
(ありゃ、行っちゃった。魔力が残ってたら鑑定で名前を視て、後からまた改めてお礼とか言えたんだけどな……)
ま、いいか。
それよりも今は二人を教会に連れて行って寝かしつける方が優先だ。
「お~い、セレアナ~! ラルクく~ん! 二人をおぶるのに手を貸してくれ~!」
上機嫌で歌を披露してるセレアナと、なにかと小間使いを押し付けられてバタバタしている二人にボクは声をかけた。
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