フィードパート

第100話 「誘拐→拉致→玩具」のコンボ

 【天界 天霄てんしよう神殿アストラル】



 ってててぇ~……。

 ったく……なんだぁ?

 なんか知らんが、アベルのやつが頭の中からいなくなったから、気分よく自由を謳歌してたってのに……。


 は?


 いきなり空間から巨大な手が生えてきて連れ去られたんだが?

 いつから人間界ってのは、こんな何でもありのわけわからん場所になったんだ?

 まだ魔界のほうがまともじゃねぇか。


 っていうか。

 どこだ、ここ?

 うわっ、あたり一面真っ白……って。


 ぐらっ──。


 やべっ、なんか遠近感が狂う……。


 頭を押さえて立ちくらみをこらえる。

 膝をついた足元はボコボコとした白い地面。

 それが目の届く限り、ず~っと先まで伸びていっている。


 いや……岩? ……というか丘?

 ところどころ盛り上がった白い塊。

 いや、これ──雲、か?

 叩いてみる。


 コンッ、コンッ。


 固い。

 空を見上げる。

 空にも雲はあるが、地上から見るほどの量はない。

 乾いて、かすれてる薄ぼらけた雲ばかり。

 太陽の光が肌に刺さる。

 地底から出てきたばかりの体にはつらい。

 とかごちゃごちゃ考える前に──。



 【狡猾モア・カニング



 さっさとスキルを発動。

 意味不明な状況に陥るのは、これで三度目だ。

 一度目は魔界の学園に捕らわれて。

 二度目はあのクソダンジョン。

 そして今回。


 だが、今のオレは以前までとは違う。

 有り余る無敵のスキルを持ってる!

 ってことで、こんな意味不明なとこからは、さっさと脱出だ。

 そして『狡猾モア・カニング』が導き出した答え。

 ああ、だよな。

 さっさとこれを使えってな話だよな。

 このスキルで答えを聞いて、はい終了ってなもんだ。



 【一日一全アムニシャンス・ア・デ……】



 あれ……?

 なんかおかしい。

 もう一回。



 【一日一全アムニシャンス・ア・デ……】



 言えない。


 な ん で ?


 ハッ──!



 【鑑定眼アプレイザル・アイズ



 すかさず己を鑑定する。



 名前:フィード・オファリング

 種族:人間

 職業:なし

 レベル:20

 体力:104

 魔力:362

 職業特性:なし

 スキル:【鑑定眼アプレイザル・アイズ】【吸収眼アブソプション・アイズ】【狡猾モア・カニング】【軌道予測プレディクション】【斧旋風アックス・ストーム】【身体強化フィジカル・バースト】【魅了エンチャント】【投触手ピッチ・テンタクル】【一日一念ワールド・トーク



 スキル激減……!

 名前からアベルの文字が消滅。

 鑑定士でもなくなってる。

 ただの人間。

 やっぱ、消えたアベルの精神の方が本体ってことか、クソっ!

 レベルも体力も魔力も減ってる。

 この辺の数値は、肉体に依存してる感じか。

 にしても……。


 残ってるスキルは、魔界でよく使ったものばかり。

 ようするに「体に染み付いてるスキルだけが残った」ってことか。

 ただ、『一日一念ワールド・トーク』。

 これだけは一度しか使ってないのに残ってて助かった。

 ここがどこにしろ、これで外部と連絡を取ることが可能ってことだ。


 さてさて、それじゃあオレ自身に関してザッとわかったところで、次はここについて調べていくとしましょうかね。

 そう思って周囲を鑑定しようとした時。



「ぬわっーはっはっはぁ~!」



 馬鹿みたいな笑い声が聞こえてきた。

 声の方を向くと、そばにあった大きな雲の丘からうさんくさいジジイが出てきてる。



「お~、かかっとる、かかっとるぅ! これが今回の鑑定士むしけらかぁ!」



 ……むしけら、だと?

 しかも「今回の」?

 まるで、オレをゲームの「コマ」だとぬかしてた、あの魔神のクソ野郎みたいじゃねぇか。



 【鑑定眼アプレイザル・アイズ!】



 間髪入れずに鑑定だ、こんな怪しいやつ。

 こいつが、オレをここに連れ去ったやつだとしら即刻殺して脱出だ。




 名前:ゼウス

 種族:神

 職業:頂上神

 レベル:∞

 体力:∞

 魔力:∞

 職業特性:【天啓ゴッド・リベレーション

 スキル:【勧善懲悪プロモート・ゴッズ




 ……ん?

 ………………は?


 ゼウス?


 頂上神?


 いや、ちょっと待て。

 

 ステータス値「∞」になってるし、これ魔神サタンと同じだろ。

 スキルもサタンとついになってるっぽい。

 ってことは……。





 本物!





 オレを、アベルを、鑑定士をゲームのコマにして何千年も、何万年ももてあそんできた諸悪の根源じゃねぇかっ!

 今、ここで死ねっ!

 まずは──。




 【吸収眼アブソプション・アイズ!!】




 おらぁ!

 魔神のスキルも奪ったオレの『吸収眼アブソプション・アイズ』を喰らいやが……。


 あれ?



 ぱしゅっ。


 

 なんか、スキルが途中で阻まれて消えた感覚。

 この意味不明な状況で『狡猾モア・カニング』の下した結論は──。



 けん



 つまり、様子見。

 すっかり囚われ慣れたオレの頭が状況を整理する。


 魔神サタンとゲームを行ってると思われるゼウスがオレを攫った?

 攫ったからには目的があるはず。

 目的は何だ?

 決まってる、ゲームのコマとしてオレを使うためだ。

 どういう目的で使う?

 大悪魔みたいにオレを食べる?

 それとも、二千年前の鑑定士みたいに魔界に攻め込ませる?

 なんにしろ、すぐに殺されるって可能性は低そうだ。

 アベルが急に消えた理由も気になる。

 そもそも、オレはサタンとの戦いで傷ついてまだ完全に癒えてねぇ。

 さっき放った『吸収眼アブソプション・アイズ』が不発だった理由も知っておいた方がいい。

 

 となると──。


 ああ、演じてやるさ。


 弱者を。


 そして、頂上神ゼウス。


 貴様の目的を引き出してから。


 隙を見て──。





 殺す。


 



 アベルじゃねぇ、この。


 フィード様がな。


 そして、このくだらねぇ鑑定士奪い合いゲームを終わらせて。


 本当の、自由の身になるんだ。



────────────


 【あとがき】


 ちょうど大晦日に100話目。しかも1話を踏襲したようなタイトルの回になりました。

 今年は、この作品をみなさんに読んでいただけたおかげで、こうして書き続けることが出来ました。

 何卒、来年も引き続きよろしくお願いいたします。

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