第46話 第二形態
「後ろは任せろっ! パルは全力で次のポイントまで走れっ! オルク、左右の警戒を怠るなっ! リサ、ルゥは自分の正面に集中! とにかくパルを見失わないように!」
「ええ!」
「はいっ!」
「ウゥ……!」
暗闇の中を進み、ローパーのパルの示す壁を斬り裂き、また現れた新たな真っ暗な道の中を進む。
どれほどの時間、それを繰り返してきたのだろう。
数度かの休憩を挟み、体感でおよそ八時間。
次第に激化してくる
終わりの見えない暗闇の道。
壁を切り開くごとに訪れる「また暗闇道か……」という落胆。
それらが度重なり、オレたちは肉体も精神も消耗を強いられていた。
【
【
【
ズバシュッ────!
返す刀で、魔鋭刀を斧に変形させ──。
【
ザシュッ!
オレは、周囲の蟻たちに斬撃を叩き込むと、闇の中に蠢いている後続の蟻に向かって続けざまにスキルを放つ。
【
【
ブオォォォォ!
動きの止まった蟻の集団を、灼熱の炎が容赦なく燃やし尽くす。
「ハァ、ハァ……」
炎に照らされて、周囲の様子が見えるようになる。
大量の蟻が。
モゾモゾと。
壁、天井、床一面から出てこようとしてる。
「おいおい、キリがないな……」
でも、見えるってことは……これが使えるわけだ!
【
ビキビキ──ッ!
周囲の肉壁から出てこようとしてる蟻。
それを壁ごと全て石化させる。
再び、視界は闇に覆われる。
オレはポケットから、土ごと持ってきた
もう、微かな光しか放っていない。
【
今にも消えそうな光を頼りに低空飛行し、オレはパルの元へとたどり着く。
さわさわさわ。
パルは次に破るべき壁を触手で撫でている。
ルゥ、リサも満身創痍だ。
オルクも暗闇に慣れなかったのか最初は挙動不審だったが、必死に槍を振るってここまで駆け抜けてきていた。
「よし、次はここなんだな?」
ふるふると光る触手が揺れる。
【
ズバッシュ──!
触手の光に
(また、真っ暗な通路か……)
そう思った瞬間。
「フィードさん、光ってます! この先、
生気を取り戻したルゥの声。
壁の向こう側を覗き込むと、群生してる一面の
「これでやっと休めるわね……」
「ゥウ……」
久々に明るい場所で見るみんなの顔は、想像以上に疲労の色が濃かった。
「よしっ……! じゃあ、みんなで焼き触手パーティーだ!」
「ふふっ……お腹も空きましたよね」
「パ、パーティーと聞いては参加しないわけにはいかないわねっ!」
「今度は食い意地張って食べすぎるなよ?」
「だ、だれが食い意地張ってなんか……!」
ふるふるふる。
「ゥウ……」
微妙に嫌そうな表情を見せているオルク。
触手は、もう食べ飽きたんだろうか。
見た目にそぐわずグルメなやつだ。
「やっとノビノビと横になれるわ~!」
オレたちは宿営ポイントを決めると、それぞれの休憩作業へと取り掛かった。
●●●
ダンジョン。
次の大悪魔を生み、育てるもの。
ダンジョンの膨大な肉体は、全て大悪魔を成長させるための消化器官である。
いわば、
生物の本体は、腸である。
すべての動物系の生物の体は、まず腸から作られる。
なぜなら、栄養を吸収できなくては生きていけないからだ。
つまり、腸こそが生物の核なのだ。
しかし、核とは
核は、あまり多くのことを考えない。
『大悪魔の本体が危険だ』
そう思ったら、そればかりに気を取られてしまう。
さらに、本体を捉えてるもの以外の糧たちも手強い。
いくら蟻を送り込んでも返り討ちにされてしまう。
そう繰り返し心の中で呟くダンジョンだったが、ふとした瞬間に見つけた。
死んでいるワイバーンを。
いいぞいいぞ、これはいい栄養になる。
これだけの上位種を吸収することが出来れば、本体も一気に育つだろう。
きっと、歴代の中でも高位の力を秘めた大悪魔が生まれるに違いない。
おお、さらに近くにミノタウロスとオーガの死体十体を発見。
なんだなんだ、いるではないか。
生き餌ほどの吸収効率ではないが、吸収可能な糧たちが。
そこから先のことは──。
大悪魔が育ってから考えよう──。
ワイバーンが。
ミノタウロスが。
オーガが。
ぬめぬめと
◯◯◯
「ぷはぁ~! ひっさしぶりの焼き触手の味は格別ねっ!」
「また
「ああ、他にもありそうだ。希望が持てるな」
「それに、みなさんも怪我がなくてよかったです」
「フィードのおかげね! フィードがいなかったら絶対に全滅してたわよ!」
「いや、二人も頑張ってくれたおかげだよ。それから、パルも」
手の中に触手をにゅるんと出して、パルに差し出す。
ふるふるふる!
美味しそうに、その触手を吸収するパル。
うん、触手を吸収……。
一体どうなってるんだろ……。
あまりに謎の多すぎるローパー。
無事にここから脱出できたら、ローパーについて詳しく調べてみるのもいいかもしれない。
「あっ、そうだ」
「どうしたの?」
「いや、みんなのステータスを確認しておこうと思って」
「ステータス?」
「ああ、能力値のことね。なにか言いやすい言葉ないかと思って」
「ステータス、ステータスね……。まぁ、いいわ。魔力の残量は私たちの命にも関わるし、しっかり把握しておきましょう」
「ああ」
名前:アベル・フィード・オファリング
種族:人間(?)
職業:鑑定士
レベル:108
体力:702
魔力:7816
職業特性:【超遅速レベルアップ】【倍算レベルアップ】【スキル進化】【スキル覚醒】
スキル:【
「レベル変わってないのね」
「ああ、何十匹も
「やっぱり【超遅速レベルアップ】ってのが関係してるんでしょうか?」
「レベルは上がりにくいけど、上がる時は【倍算レベルアップ】で一気に上がるってことかな?」
「フィードって昔から成長速度が遅かったんでしょ? なら、これが関係してるのかもね。つまり、かなりの強敵を倒して、たくさんの戦闘経験を得ないとレベルアップしないとか?」
「強敵かぁ~。こんなおぞましいダンジョンの中で強敵とか勘弁願いたいなぁ」
「ねぇ、そういえば私は!? 私は強くなってない!?」
名前:ラ・リサリサ・ホーホウ・バルトハルト・ヴィ・ルージュリア・レッドグラム・ローデンベルグ
種族:人間
職業:無職
レベル:14
体力:38
魔力:11
職業特性:なし
スキル:なし
「キャー! 上がってるわ! レベル二つ! 魔力は一個しか上がってないけど、体力が八も上がってるじゃないの!」
「うん、リサは、やっぱり魔法的なものよりも肉体を使ったことの方が得意そうだね」
「そうなのね! この調子で蟻を倒していけば、きっと人間の体でもすごい戦士になれちゃうに違いないわ~! さすが私ね!」
「だね。元々、馬鹿力だったもんね」
「はいぃ? だぁ~れぇ~がぁ~
「いや……いやいや、言い方が悪かった! リサは力が強かったもんね! え、えっ~と……それでルゥは、っと……!」
「ふんっ!」
名前:ルゥ
種族:人間
職業:無職
レベル:10
体力:22
魔力:97
職業特性:なし
スキル:なし
「魔力が十三上がってますねぇ」
「そうだね。ルゥは肉体を使うより、魔術的なサポートの方が向いてそうだ。リサとコンビを組めば、弱点を補い合った、いいバディになりそうだね」
「はぁ……バディですか……」
「私達はバディの前に親友なの。バランスがよかろうが悪かろうが、一生離れられない仲なのよ。あの……その、フィードも、ね……」
「はい、そうですね。親友です」
素直じゃないリサと、全てを優しく包み込むルゥ。
夜の教室で三人で過ごしてた時の、あの空気が不意に蘇る。
ああ、わずか一日前のことなのに、もう懐かしく感じる。
一緒に過ごしたウェルリン──彼もダンジョンに飲み込まれていたけど、大丈夫だろうか。
オレがスキルを奪ってしまったことで、死んだりしてないといいんだが……。
ふるふるふる。
パルが、まるで嫉妬するかのようにオレたちの間に割り込んでくる。
「お、ごめんな、パルもちゃんと信頼してるぞ。ここまで道案内してくれてありがとうな」
ふるふる。
「え、っとパルのステータスは……」
名前:プリンセス・パル
種族:ローパー
レベル:26
体力:5382
魔力:3217
スキル:なし
「え、めっちゃ上がってる……。たしか、前はレベル23だったはずなのに……」
「レベル22じゃなかった?」
「そうだっけ? 仮眠の時に
「前ってどれくらいの数値だったっけ?」
「さぁ……四桁になると覚えづらくて、はっきり覚えてないんだよな……」
ぷるぷるぷる!
まぁ、パルは喜んでるみたいだから、いいかな、とりあえず……。
「えっと、じゃあ次はオルク……」
ゴロゴロゴロ……!
なぜか地面を転がるオルク。
「? あんた、なにしてんの? 童心に返るのもほどほどにしときなさいよ」
オルクはチラッとこっちを見ると、再びゴロゴロ右へ左へと転がり続ける。
「ちょ、ちょっと! 動かれたら
すると、オルクは体操座りの状態でピタッと座った。
「ん、それじゃ鑑定するね。え~っと……」
名前:オルク(憑
「ぶわぁ~~~~っくしょ~~~~~~い!!」
突然のオルクの大くしゃみ。
唾やら食べかすやら砂ぼこりやら、いろんなものが、オレたちの通ってきた暗がり通路の方に向かって飛んでいく。
「うわっ! びっくりした! なんだよ、急に!」
「? あれ? ここは……?」
とぼけたように言うオルク。
「はぁ? 何言ってんの、あんた? っていうか、くしゃみしたくて、あんなに転げ回ってたわけ? あんたってほんっと馬鹿ね。馬鹿で、豚ね」
「は!? なんだよ、テメェ! オレ様を豚呼ばわりしてんじゃねぇ!」
売り言葉に買い言葉で、リサと口喧嘩を始めるオルク。
うん、さっきまで調子悪そうだったけど、どうやらいつもの調子を取り戻したようだ。
ステータスの方は、っと……。
名前:オルク
種族:オーク
レベル:7
体力:2394
魔力:1021
スキル:なし
ん? 一個も上がってないな。
一匹も
まぁ、調子も悪そうだったし、そういうこともあるか。
っていうか、さっき鑑定した時、一瞬なんか変だったような気がしたんだけど、あれは気のせいだったのかな。
そう思いながら振り向くと。
「パ、パル──!? そ、それ────!?」
パルが触手に絡め取っている大きさ十センチほどの目玉ナメクジ、ミニ大悪魔。
その体の周りに、赤黒い邪悪なオーラが漂っている。
ぶる……ぶるぶるぶるぶるぶる……!
ミニ大悪魔は激しく痙攣すると。
ボゴォッ!
という音を立てて、肉壁と似た色の肉の塊になる。
その肉塊は、少しずつ形を変えていき────。
直径三十センチほどの。
小さなワイバーンへと変化した。
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