第38話 へっぽこ神官ラクル

「とうとう、こんな僻地にまで追いやられちゃいました……」


 ボクの名前は、ラクル。

 神官です。

 とは言っても、世界の果ての果て──魔界との間を区切る大壁。

 そのそばにある僻地の街メダニアのボロ教会に、今日赴任してきたばかり。

 赴任してきたというか──「追いやられた」と言ったほうが正しい、いわゆる「へっぽこ神官」なのですが……。


「うぅ……本当にこれでよかったのでしょうか……」


 凡庸なボクが神職にいて授かったスキル【啓示リヴェレーション】。

 たまに聞こえてくる神の声に従った結果、ボクはこんなペンペン草も生えないような恐ろしいところに……。


「グゥオオオオオン!」


 ひぃぃ……! 壁の向こうから恐ろしい魔物の鳴き声が……。

 はぁぁ……ほんとによかったんでしょうか……ボクの選んだ、この選択は……。


 神の声が聞こえてきたのは、今まで三度だけ。

 一度目は──。



『聖女見習いの回復師ソラノに、啓示リヴェレーションを得たことを相談せよ』



 というものでした。

 で、話しかけてみたら。



「はぁ? 啓示リヴェレーション!? あんた、それ、ほんっとクソみたいなスキルね! 絶対誰にも言わないほうがいいわよ! 恥かくだけだからね! あ~、かわいそ! ぷぷぷのぷぅ~☆」



 なんて馬鹿にされて、翌日には王都から追い出されて、田舎に赴任することに。

 後から人づてに聞いた話によると、ソラノさんが、ボクのあることないことを吹聴ふいちょうして、『都落ちさせるように』と強く訴えていたらしいです。

 なんで……ひどい……どうして……。


 で、実際に都落ちすることになったボクに届いた二度目の啓示は──。



『領主の後頭部を、ホウキで思いっきりぶん殴れ』



 というものでした。


 えぇ……? と思いながらも、この「啓示リヴェレーション」スキルの他には、何一つ取り合えのないボク──おまけに「神は絶対である」と教育を受けてきたボクが、神の声に逆らえるはずもなく……。



 バッコーン!



 ええ、やりました。

 やりましたとも。

 啓示リヴェレーションの結果だと言っても信じてもらえず……。

 とうとう人類の住んでる最果て──このメダニアの街へと追いやられてきたんです。


 そして今、人っ子一人いない朽ちた教会に着いた瞬間。



 ああ、三度目の啓示が──。



『教会の裏庭に穴を掘れ』



 う~ん……?

 教会の裏庭って……ここですよねぇ……?

 

 ほぼ廃墟化している教会の裏手にぐるりと回ったボクは、呆然とします。

 なぜなら、裏庭の広さは猫の額ほどなうえ、魔界を隔てる壁がバッキバキに立っている、その真下だったからです。


 要するに、裏庭と言うよりは、壁と教会の間の隙間? みたいな感じです。

 日当たりも、めちゃめちゃ悪い。

 空気も、なんだかどんよりとよどんでいます。

 見たこともないような邪悪な色をした雑草も、ぼうぼうとい茂っています。


 えっと……こんなとこ掘ったら、壁の向こう側──つまり魔界と繋がっちゃいそうなんですが……。

 え……実は、この頭の中に聞こえてくるのって……悪魔の声、とかじゃないですよね……?

 魔物に体を差し出すために、ここまで追いやられたてきたとか……?


 いやいや……悪魔が、そんなまどろっこしいことしますかね?

 でも、今までの啓示の結果を見るに、ボクをここに連れてくるのが目的だったようにも感じますし……。



 う~ん……。



 数日後。



 ザクッ、ザクッ──。


 結局、ボクは庭いじりを装いながら土を掘り返していました。


 え? なんで掘るのかって?


 だって、ほら──ボクの唯一の取り柄ですし、このスキル。

 ほら、なんか聖遺物? とか出てきて、その功績が認められて、教会内で出世できるかもしれないですし。


 うん、何が出てくるのかわかんないけど……世渡りも下手で、他になんの取り柄もない、へっぽこなボクの唯一のスキルですからね。

 何が起きても、自分だけは自分のスキルを信じてあげようって。


「グゥオオオオオン!」


 ひぃぃぃ……!

 と、時折ときおり聞こえる魔物の声は怖いけど、が、頑張ります……。


 ザクッ、ザクッ──。


(うぅ……でもこれ、いつまで掘ればいいんだろう……)

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