第20話 十九日目まで
昨夜のことを思い返す。
まず、黒板消しシールドの『パリィ・スケイル』。
これは、朝には元通り黒板のところに戻しておいた。
絶対失いたくない装備なんだけど、まぁ、ないと授業が困るだろうし、それに誰かが盗んだりもしないだろう。きっと。
続いて、大悪魔の持っていた万年筆。
これは何にでも姿を変えることが出来る万能物質だった。
ただし、大きさはペンや短剣程度のものに限られる。オレの手のひらサイズってとこだ。
あれから教室に戻ってきてノビてた狼男を叩き起こして軽くスパーリングしてみたんだが──。
あまりに切れ味の鋭さに、狼男はビビって逃げ出していっちゃった。もっと検証を続けてみる必要はあるけど、おそらく武器と防具はこれで問題なさそうだ。
あ、ちなみに短剣の名前は『
これもルゥ命名。
ってことで装備問題が解決したオレは、ストックの貯蓄とスキル奪取について本格的に集中することにした。
【十七日目 朝】
現在の吸収ストック数7。
所持スキルの数は12だ。
決闘の日まで残り13日。
最終的に20までストックを貯められる。
まだスキルを奪っていないクラスの魔物の数は、大悪魔含めて22。
二つを残して、残りは全部奪うことが出来る。
そして、オレは32のスキルを持って、ここから脱出するんだ。
ただ、一点。
気になるのは、オレが魔物たちと距離が近くなりすぎていることだ。
おそらく決闘の日は、一瞬の油断が生死を分けることになる。
少しの
だから──魔物との距離が近すぎるのは危険だ。
特に、リサとルゥ。
この二人のスキルは決闘前夜に奪うと決めている。
オレがスキルを奪ったら、二人は多分人間になる。
だが、この魔界において人間になった彼女たちに待ち受けている運命は──。
死だ。
仕方ない。
オレが生きるためだ。
オレは被害者なんだ。
奴ら魔物は、オレへの悪行のしっぺ返しを受けるだけなんだ。
オレの命を
ただ、それだけのことだ。
残り十三日。
オレが決闘の日まで生きられることは、すでに保証されている。
今までみたいに生き延びるために下手に出る必要もない。
心を黒く染めるんだ。
これは魔物への復讐なんだ。
冷酷になれ。
でないと、こちらが命を落とすぞ。
オレは心を冷たく、冷たく、冷やしていく。
キーンコーンカーンコーン。
今日も朝礼が始まる。
大悪魔は、奪われたものとは別の万年筆を使っているが、別段おかしな様子は見受けられない。
どうやら昨夜の【
「あれ? せんせぇ~、ペン変えたっ!?」
頭が三つある犬、ケルベロスがいらないことを聞く。
(バ、バカッ……! あいつ、余計なことを……!)
大悪魔は、一瞬固まった後に。
「ん……? ペン? ああ、そういえば変えたな。なんで変えたんだっけ?」
と、首を傾げた。
「おいおい、先生ですら知らないことあるって珍しいな! ボケが始まってんじゃないの! ギャハハ!」
豚人間の魔物、オークが野次を飛ばす。
鬼のオーガ、牛人間のミノタウロスがいない今、オークがクラスの中で最もガラの悪い生徒になっていた。
(頼むから、あんまりヒヤヒヤさせないでくれ……)
その後は、特にペンの話題に触れることもなく、無事に朝礼は終わった。
そして、今日もいつもと変わらない一日が始まる。
女子〜ズのチアガールの練習。
そして、オレへの着せ替え遊びタイム。
どちらも異様な光景ではある。
が、オレにとっては、もはや日常になりつつあるただの風景だ。
やるべきことを淡々とこなしていく。
どうせ、こんなふざけた生活も、あと十三日で終りなんだ。
ちなみに。
これまでにオレが着せ替えられてきた服は。
初日、もこもこパジャマ。
二日目、水夫風。
三日目、葉っぱまみれの妖精風。
四日目、獣の皮の原始人風。
五日目、カジュアルな大きめシルエットの麻の服。
ときて。
今日は、色味が可愛いフェミニン風だった。
こんな目がくらむ色で体に張り付いてくるような服を着るのは、かなり恥ずかしい。
とはいえ、裸じゃ心細い。
なので、着るしかない。
こんなものでも裸よりはマシだ。
「あ、そうだ。服も嬉しいんだけどさ、アクセサリーとかもあったら嬉しいな。黒いブレスレットとか。安物でいいからさ」
ダメ元で頼んでみる。
今、短剣の
おそらくバレることはないと思うが、万が一、誰かに見られでもして「大悪魔の万年筆じゃん!」なんて言われたら面倒だ。
もし黒いブレスレットを貰えるんなら、それに変形させて常に身につけておける。
バレないし、安心だ。
「まぁ! チビの人間のくせに一丁前に私達に指定するだなんて! いい度胸じゃなぁい、フィード・オファリングぅ? その意気に免じて、特別に私の私物を明日持ってきてあげさしあげますわぁ!」
セイレーンが嬉しそうに、アーンド、見下したように言う。
よし、これで残りの期間は武器を身につけたまま過ごせそうだ。
【十七日目 昼】
珍しく男子たちから「サッカー」というものに誘われた。
なんでも足で球を蹴って相手陣地に持っていくゲームらしい。
魔物らしい野蛮なゲームだ。
魔物には「職業や職業特性を鍛え上げる」という概念がない。
そもそも魔物は職業を得られない。
なので、生涯をかけてスキルや技術を
まったく
こういうところに魔物の
しかし、今回は魔物たちの様子を確認するために参加してみた。
奴らのスキルも詳しく把握することが出来るかもしれないしね。
実際に参加してみて、まず目についたのはオークの【
どうやら部位ごとの強化が可能らしく、強化した足から放たれる豪快な蹴りで、球を敵陣に飛ばしていた。
ガーゴイルは、魔物たちの放った強烈なシュートを【
それぞれの魔物が、自分の特性を活かしてサッカーに取り組んでいた。
しかし、オレがスキルを奪ったケンタウロスは今まで視えていた「未来の軌道」が見えなくなったせいか空振りを連発し、【
どうか残りの期間、この二人がスキルを奪われたことに気づくことなく過ごしてくれますように。
【十七日目 夜】
パリィ・スケイルと
尻込みしながらも結局やってきた狼男を相手に、
棒にはチョークの粉をはたいてるので、狼男の体に見事チョークの跡をつければオレの勝ち。
結果。
オレの全勝。
こっちは攻撃の軌道が予想できるんだから当然だ。
おまけにパリィ・スケイルも、柔らか
すぐに体に馴染んで、自分の手足のように動いてくれた。
次からは「避けようがない攻撃」を食らった時の対処を練習したいな。
リサにも訓練に参加してもらおう。
【十八日目 朝】
セイレーンのセレアナが黒いブレスレットを持ってきた。大喜びで身につけると、セレアナは自慢げな表情を見せていた。
これで、夜になればルゥに持ってもらってる
【十八日目 昼】
変身能力を持つドッペルゲンガーに変身してもらう。
オレが人間ってことで、ドッペルゲンガーは黒髪ロングの超絶美少女に変身した。
なんでも二百年前に先祖が見た人間の美少女で、職業は「アイドル」という踊り子らしい。
アイドル?
そんな職業あったっけ?
いや、それにしても──たしかに美人だ。
中身が、ドロドロした不気味な魔物だとわかっていても、思わずハッと
白い肌、純朴かつ
艷やかな黒髪は異国情緒を漂わせ、全身のスタイルも黄金比に近い絶妙なバランスを保っている。
どうやらドッペルゲンガーは『自分の目で直接見た生き物にしか変身できない』らしい。ってことで、こういったレアな人間の姿なんかは、一族で共有して子々孫々まで語り継いでいるそうだ。
なるほど。
じゃあ、オレは今、この黒髪美少女を見たから、ドッペルゲンガーからスキルを奪えば、この子に変身出来るってわけだね。
女子~ズたちからの冷ややかな視線を背中でシャットアウトしつつ、オレは微かに鼻息を荒くしながらそんなことを思った。
【十八日目 夜】
セレアナにもらったブレスレットの形に
うん、ちょうど同じような形に出来た。
これで、左手には『パリィ・スケイル』、右手首にはブレスレットに変形した『
どっちも着けたまま寝られるし、ここを脱出して魔界を逃げる時にも役に立ちそう。
なにより、コンパクトでいい。
旅をするなら、取り回しのしやすさが一番だよね。
よし、これで魔界脱出への希望が少し持てるようになってきたぞ。
その後は、狼男とリサの二人を相手取ったスパーリングを行った。
二人相手だと、スキルで軌道を予測してもかなり厳しい。
小柄で直線的なリサと、大柄で裏をかいてこようとする狼男のコンビネーションはなかなか厄介で、この日は八:二といったところで負け越してしまった。
心ゆくまでリサに撫でられて満足げな狼男の遠吠えが月夜に響いていた。
【十九日目 昼】
これまで一度も学校に姿を見せなかった魔物。
ワイバーン。
ついに──そいつが、オレの前に姿を現した。
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