第18話 パリィ・スケイル
【十六日目 夜】
ゴンゴルは、わざわざ一度学校を出た後に、誰もいなくなったのを見計らって教室に戻ってくる。
その間の時間は、どこかで座ったり寝っ転がったりして時間を潰してるらしい。
ゴーゴンという種は恐れられているので、そんな風にダラダラしてても誰も襲ってこないらしい。
安全なのはいいが、それはそれで、なんだか少し寂しい話だなと思った。
で、暗くなって教室に戻ってきたゴンゴルに檻の鍵を開けてもらうと、オレは昼間に鑑定した「黒板消し」を手に取った。
「え、フィードさん……?」
うん、白くてふにふにした手のひらサイズの鱗。
それに木を削って作った持ち手を、なにか粘着物質で貼り付けてある。
ちょうど指四本を通して持てるようになっている。
鱗を指で押してみる。
ぷにぃ……。
ぐぐぐっとめりこんだ指が。
ぽよんっ。
弾き返される。
すごい反発力だ。
爪で軽く引っ掻いてみても傷がつく様子はない。
「なぁ、ゴンゴル。この黒板消しってなんなの?」
「……さぁ? 黒板消しは黒板消しじゃないんですか?」
そうだよな。普通、黒板消しの材質なんて気にしないもんな。
くるっ。
持ち手が手のひらに収まるように作られてるということは。
ひっくり返せば、手の甲にぴったり収まるということだ。
「ゴンゴル、ちょっとここ殴ってみて」
「え? はい。えいっ!」
ぽよ~ん!
「わっ! わわっ! 弾き返されました!」
うん、いい感じ。
打撃中心で来ることが予想されるオーガには十分に使えそう。
「これ、スケルトンドラゴンの鱗で出来てるらしんだけど、ゴンゴル知ってる?」
「ええっ!? スケルトンドラゴンの鱗って喉のところにしかない超希少部位なんですよっ? そんな高価なものだったんですか、これ……」
おお、そんな希少なものなんだ。
と、そんなやり取りをしていたら。
ガラガラッ。
窓からリサと狼男が入ってきた。
「下僕! 私が来たわよっ! って、なに二人でイチャイチャしてるのよ! 離れて! はいはい、距離をもっと開ける!」
「あうぅ……は、はい……すみません……」
「アオ~ン! リサちゃん! オレも来たぜ! 今日もモフモフさせる、いや、モフモフしていただくぜ~!」
うん、ちょうどいい。
黒板消しシールドを実戦で試してみよう。
さっそく、オレは狼男とスパーリングに取りかかる。
「はい、じゃあ、かかってきて」
「グワぁ! リサしゃまの、リサしゃまの今日一発目のモフモフぅ~~~!」
【
□ 左上段のフェイント
□ 左膝蹴り
視えた「未来の軌道」に沿って態勢を整え──。
「ここだっ!」
左膝の来る位置に黒板消しを合わせて受ける。
ドッ──。
狼男のヒザを受けた黒板消しはぐぐぐ……っとめり込むと。
ぽよ~ん、と跳ね返した。
「うおっ!?」
予想外の反動に態勢を崩す狼男。
吸収しきれなかった勢いでオレも少しよろけるが、それは想定済みだ。
【
狼男の後ろに回り込むと、膝の裏に蹴りを一発。
スパンっ!
「ぐおっ──!」
続けて体が崩れ落ちてる時に。
【
殺しちゃわないように、弱め、弱~めで。
アゴに。
PUNCHっ!
ピッ──。
それだけの微かな音を残し、狼男は。
ドス~ン。
白目を剥いてぶっ倒れた。
「すごぉ~~~~い! 下僕! なになに!? なにやったの!?」
オレは黒板消しをリサに説明する。
「黒板消しっ!? それがスケルトンドラゴンの鱗!? はぁ~、あんたってほんっと変なこと思いつくわね……。黒板消しが盾だなんて……。で、その盾の名前はどうするの?」
「ん? 名前?」
「ええ、名前。名前は大事よ。自分のものだって実感できるうえに愛着も湧くから、性能も上がるわ」
へぇ~、性能が上がるってのは眉唾だけど、名前かぁ。
あんまりそういうの気にしたことなかったな。
でも、言われてみればそうかもしれない。
冒険者──って、装備品を使い捨てみたいに扱ってたから、リサみたいな考え方は新鮮だ。
うん、いいかもしれない。
つけよう、名前。
「なにがいいかな? 黒板消しだから『黒板消シールド』とか?」
「はぁ? 馬っ鹿じゃないの? 下僕ってたまにすごいことするけど、ネームングのセンスはゼロねっ! 私が最高に素晴らしく気高い名前をつけてあげるわっ!」
ということで。
しばしのおやつもぐもぐ会議の結果。
黒板消シールド──ならぬ、黒板消し盾の名前が決まった。
「じゃあ、名前は──」
「はい、パリィ・スケイル……です」
ゴンゴルが、おずおずと言う。
「む~……なんで私のじゃないのよ……」
「いや、長いから。リサのは長すぎて愛着とか持てないから」
「なんでよ! ドラゴン・ボーン・ネクロ・スケルター・バッシュ・シールド・シャドウ・ストライカー・エターナル・ブレイカーでいいじゃないの!」
「いや、最後剣みたいになってるし、そこまで大げさな感じじゃないから……。ほら、これ、ただの黒板消しだし」
「むむむぅ~!」
「あ、でもありがとう。リサのおかげで、愛着が持てそうだよ、こいつにも」
そう言って黒板消し、ならぬパリィ・スケイルを掲げてみせる。
「ふ、ふんっ! わ、わかればいいのよ、わかれば! 下僕も私に感謝することねっ! あ、あとルゥにも……」
「ルゥ?」
「ゴンゴルのことよ。ゴンゴルの『ル』で『ルゥ』。ほら、ゴンゴルって名前、なんか堅苦しくて言いにくいじゃない?」
「ルゥか……。いいな。かわいいし」
ボンッ!
「かかかか、かわいいいいぃ……!? ひゃっ、そんな、あにゃっ……!?」
ゴンゴルは、ベールの上からでもわかるくらい顔を赤らめてる。
「あ、ごめん、ゴンゴルが嫌だったらやめるけど……」
「いえ、いえいえいえ、あの……その、急に『かわいい』とか言われてびっくりしただけで……はい、名前は、あの、嬉しいです……はい……」
「そうか! じゃあ、ルゥ! これからもよろしくな!」
「え、ええ……。えへへ……」
まるで大悪魔かのように眉をしかめたリサがポツリと漏らす。
「下僕……あんた、マジでジゴロね……」
◆◇◆
その後、ノビてる狼男を教室に残したまま、オレたちは大悪魔シス・メザリアの家に忍び込もうとしていた。
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