第17話 女子~ズ・チアーズ

 【十六日目 朝】



「じゃじゃ~ん!」


 登校してきた女子~ズから横断幕が贈られた。幕には。


『♡打倒! ミノル & オガラ!♡』


 と書いてある。

 どうやら応援してくれるらしい。

 元々、ミノタウロス達への反発としてオレの世話を始めた女子~ズ。

 今回は、全面的にオレをバックアップするようだ。


 また、オレの「決闘宣言」は、意外にもクラスから好意的に受け止められたらしく、今まで話したことなかった男子たちまで応援の言葉をかけてきた。

 あの一匹狼のスケバン、メデューサさえも「なにかあったらアタイに言いな。力を貸すからさ」なんて言ってきたくらいだ。


 つまるところ。

 結局こいつらは魔物。

 戦い、殺し合いが大好きな連中なのだ。

 特に血沸き、肉踊るような戦いが。


(そういうところは冒険者と似てるな)


 もしくは、ミノタウロスたちが本当に嫌われていただけなのかもしれない。

 理由はともあれ、昨日の決闘宣言から、オレの置かれた状況は一変した。


「フレー! フレー! フィーイードッ!」


 女子~ズがチアガール? とかいうものの練習を始めた。聞くと、魔界で流行ってるラグビーとかいう野蛮な競技の合間に踊ったりするものなのだそうだ。


 短いスカートを履いて足を上げたり下げたりしてるが、そもそもが下半身が魚やタコだったりするので、なんか微妙な感じだ。


 なんて思ってると。


「ああっ! やっぱり、この姿じゃさまになりませんわぁ!」


 と言って、人型に変異した。


「…………は? 人の姿になれるの?」


 健康的な二本足の生えたセイレーンが、馬鹿にしたような口調で答える。


「は? なれますけどぉ? あら、もしかしてフィードは、そ~んなことも知らなかったのかしらぁ? ま、人化は高位の魔物にしか出来ませんからねぇ」


 子分のスキュラが後に続ける。こっちも足は生えてるけど、肌の色は紫のままだから、ちょっと不気味だ。


「っていうか! そもそも人間の姿なんてみっともないもんに進んでなろうとは誰も思いませんからね、セレアナ様っ!」


 魔物の価値観だと、人間の造形はみっともないらしい。

 なんか、元から人型の魔物に対して彼女たちは今すごく失礼なことを言ってるような気もすんだけど、そこはどうなんだろう。

 そんなどうでもいいことが気にかかる。


 ということで、改めて女子~ズ。


 元から人型。


 サキュバス。


 人化できる魔物。


 アルラウネ。

 スキュラ。

 セイレーン。

 ラミア。


 人化出来ない魔物。


 ケルピー。

 ローパー。


 ということで。

 今、檻の前では五人の人型チアガールがオレに向かって足を上げたり下げたりしている。


「フレー! フレー! フィーイードッ!」


 その五人の端では。

 ほぼ馬のケルピー。

 触手だらけのローパー。

 の二人が、少し寂しそうに前脚や触手をフリフリしてた。

 人に変異できない低位の魔物ってことなんだろうね。

 ちょっと可哀想。


 ま、そんなチア女子~ズは、おいとくとして。


 ゴンゴルに声をかけて、二人の魔物を檻の前に連れてきてもらう。

 一人は青銅人間のタロス。

 もう一人は、宝箱モンスターのミミック。


「なんか、オレに使えそうな武器ないかな?」


 武器探し。


 青銅系モンスターのタロスなら青銅の武器に詳しそうだし。

 ミミックなら言わずもがなだ。


「武器? 私が知ってるのは青銅製しかないが、いいだろうか?」


「ああ、構わない」


「ふむ、キミが使うなら短剣、もしくはショートスピアだな。片手が空くので小型の盾を持ってもいいと思う。ただし──」


「ミノルたちには通用しない……か」


「そうだな。青銅製の武器では彼らの皮膚を切り裂けず、青銅製の盾では粉々に打ち砕かれるだろう」


「そうか、そうだよな……。わかった、ありがとう」


「いや、力になれなくてすまない。なにか魔力の付与されたマジックウエポンでもあればよかったんだが……」


 マジックウエポンかぁ~。

 そんなの王城の宝物庫くらいにしかないんじゃないか?

 一介の冒険者が簡単にお目にかかれるようなもんじゃなさそう。


「グギ、グギギ」


 ミミック。

 なんて言ってるかわからない。

 魔物たちの中には、言葉が通じないものもいる。

 ローパー。

 マンドレイク。

 そして、このミミック。


 通じないというより、発声器官がないため、声を出すことが出来ないだけで、こちらの言っていることは理解できてるらしい。

 なので、身振り手振りや雰囲気で、なんとなく相手の言ってることを察していく。


「ギギグギギィ……」


 ダンジョン奥深くになら背の低いオレ向けの武器があるかもしれないけど、あと二週間で取ってくることは難しい、といった感じの内容だった。


 そうかぁ。

 やっぱりそんな簡単に見つからないかぁ。

 魔力1000程度の狼男にすら、完璧なタイミングで叩き込んだパンチが微塵も効かなかったもんなぁ。

 こりゃ生半可な武器を探すより、回避に特化してスキルで倒す方向でいった方がいいかもなぁ。


 とはいえ、オレは鑑定士。

 使えそうなものがないか、そこらへんのあらゆるものを鑑定だ。


【えんぴつ(HB)】

【ノート(メーメー羊皮)】

【大容量バッグ(人食い大葉産)】

【教科書(大悪魔製手書き)】

【キラキラバッグ(北妖海白銀真珠付き)】

【ケンタウロス弓矢(ケンタウロス専用装備)】

耐錆たいさび蹄鉄ていてつ(ケルピー専用装備)】


 う~ん、ろくなものがないし、あっても種族専用装備とかかぁ。

 続けて見てみる。


【家具木製机】

【家具木製椅子】


 家具木?

 そういえば、ちょうどいい家具の形に育つ「家具木」とかいうものが魔界にはあるってリサが言ってた気がする。

 高級家具木の苗は交易品として超上位種族の間にしか出回ってないとか。

 ま、今回は関係ないか。

 他にも見ていく。


【石造り天井】

【石造り壁】

【石造り床】


 うん、あまり見るものもなくなってきたぞ。

 それに、鑑定の連続使用で魔力の消費も激しい。

 次にあのへんを見たらやめるか……。


【黒曜石黒板】

【チョーク(石灰石)】

【黒板消し(スケルトンドラゴンの鱗)】


 はぁ、やっぱり、そんな都合よく強い武器なんか……。


 ……んっ?


 スケルトンドラゴンの鱗?

 なんだそれ?

 しかも黒板消し?


 スケルトンドラゴンって骨だけのドラゴンでは?

 それの鱗ってどういうこと?

 夜になったら詳しく見てみよう。


 キーンコーンカーンコーン。


 一日の終り、終業の合図。

 大悪魔が相変わらずの仏頂面ぶっちょうづらで、日誌かなにかにペンで書き込んでいる。


 あ~、ペンかぁ……。ペン。ペンって武器かぁ? ん~、もうあんまり魔力も残ってないけど、一応あのペンも鑑定してみるか……。



 【鑑定眼アプレイザル・アイズ



【永久万年筆(魔王の爪産。千年モノ。レジェンド級ワールドマジックアイテム)】


 ハァ……やっぱり、ただの万年筆か……って、え?


 …………えええ?


 えええええええええええ!?


 魔王の爪!??


 レジェンド級ワールドマジックアイテム!???


 なんか最後にスゴそうなものを引き当てたっぽい!

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