第16話 夜のスパーリング
【十五日目 夜】
決闘は承認された。
期日はオレの命の期限、三十日目の朝。
決闘というよりは、手間の省けた公開処刑とでもいった感覚なんだろう。
場所は校庭。
雨天決行。
武器は自由。
第一戦目はオーガ。
次にミノタウロス。
もし二人を倒すことが出来れば、条件次第でオレを解放してもいいということだった。
その「条件」は直前まで明かせないとのこと。
まぁ、いい。どうせ期待はしていない。
どのみち、オレは全員を殺してでもここから脱出するつもりだ。
■ 校庭。
■ 拘束されてない状態。
■ 健康も保証された状態。
■ スキルを奪う対象の全員が揃っている。
これ以上ないベストな条件だ。
まさに理想に近い。
オレの頭の中では──すでに脱出の絵図が出来ている。
けど。
夜中にオレの元に集まってきている二人にとっては、そうでもないようで。
「げげげ下僕!? ああああんた、けけけ決闘って! 一体なに考えてんのよ!」
「そうですよ、フィードさん! 死んじゃいますよ!」
目ん玉をぐるぐる回しながらリサが。
おろおろと汗を飛ばしながらゴンゴル(ゴーゴンの名前はゴンゴルというらしい)が。
両サイドから詰め寄ってくる。
「あ、ああ、まぁまぁ。放っといても、どうせ死ぬわけだし? それなら、最後に頑張りたいかな~って……」
適当にいなしておこう。
そう思ったが、予想以上に噛みつかれた。
「馬鹿じゃないの!? 死ぬにしても、私は下僕が無惨に殺されるところなんか見たくないの! まぁ、朝だからバンパイアの私には見れないんだけど……。と、とにかく! ダメ! そんな自殺行為は許せないわっ!」
「そ、そうです! そんな酷い目に遭うフィードさん、見たくないです!」
えぇ……要するに殺され方が気に食わないってこと?
そもそもオレは殺される気なんか全くないから、このやり取り自体が無駄にしか感じないんだよなぁ……。
「ま、まぁ、これに勝ったらオレ、解放されるらしいし……?」
「そんなの口先だけよ! あの大悪魔が素直に人間を喜ばせると思う!? あいつら、人間のことを実験動物くらいにしか思ってないわよ!?」
「あの……人間の体はとても弱いので……その、言いにくいんですが、相当難しいかと……」
二人はオレがスキルを吸収できることを知らない。
だからこの反応も当然だ。
スキルを吸収出来ることをバラさずに二人を説得する方法……。
う~ん、こんなことくらいで使いたくはないんだけど。
【
「う……ううぅ……!」
スキル「狡猾」の選んだ選択は。
「オレだって……オレだっで怖いんだよ!」
──泣き落とし。
「で、でもっ! オレ、オレは最後まで諦めたくないんだ……! それに……」
はい、とどめの一言。
「オレのせいで殺されたホープくんのためにも……せめて一撃入れてやらないと……浮かばれないよ、オレもホープくんも!」
全然思ってないけどね。
一撃どころか、百撃くらい入れて出ていくつもりだし。
「げ、下僕……! あ、あんた、そんなに……そこまで……!」
「フィードさん……! 私、応援します!」
はぁ。なんだこれ。
ちょっと泣くだけでめっちゃ話スッと飲み込んでくれるじゃん。
なんで泣くと話を飲み込んでくれるのかは全くわかんないけど、相変わらずスゴいな「狡猾」の効果は。
「下僕、必要なものがあったらなんでも言いなさい! 私が用意してあげるわ!」
「あ、そう? それなら──」
「はっ? ハァ!? なんでオレ──?」
夜のスパーリングパートナー。
その相手として、狼男に来てもらうことになった。
決して「スキルがないことがわかってるから、ちょうどよかった」とは言えない。
狼男はマフィアのボスの一人息子。
だから、自分の弱みを他人に晒したりしないだろう。
そう思ったんだけど、どうやら、その予感は当たってたみたいだ。
檻の鍵はトイレに行けるようになった時から、魔物であれば比較的自由に使えるようになっていた。ってことで、ゴンゴルに鍵を開けてもらってオレは檻から出てる。
「いや、ほら。キミ、リサと一緒にいたいんでしょ?」
「あ~、いやぁ……まぁ、いたいのは、いたいけどよぅ……」
「じゃあ、オレのスパーリングパートナーを務めてくれたら、リサと一緒にいられるわけだね」
「まぁ、そうだけど……。なんっか気に食わねぇ~なぁ……」
たしかに。
狼男目線からしたら、オレは十年間片思いしてた相手を奪い取った間男。
その間男からスパーリングパートナーを頼まれてるんだ。
しかも「好きな女と一緒にいられるんだからいいだろ?」的なことを言われて。
う~ん、なんだっけ? こういうのって「寝取り」っていうんだっけ?
いやはや、なかなかに鬼畜なことしてるな、オレも……。
「あ~、もう! さっきから、ぐちぐちぐちぐちウルサイわね! 嫌ならさっさと帰ればいいでしょ! どうせ遠くから私達のことを覗いてるだけの負け犬のくせに!」
「わわわ、わかったよぉ、リサちゃん、そんなに怒鳴らないでくれよ……あ、いや、もっと怒鳴ってくれよぉ~。ほら、もっと、もっと
「………………きもっ」
心底嫌悪した目で吐き捨てるリサ。
小声なのが、マジでリアルだぞ。
なんだかんだ、リサの説得で狼男がスパークリングをしてくれることになった。
「チッ、リサちゃんの頼みとなれば仕方ね~なぁ。殺しても知らね~ぞ?」
「あ、スキルの使用は禁止してもらってもいいかな? スキルを使われちゃったら、オレは
ホッとした表情を見せる狼男。
そうだよね、「使わない」んじゃなくて「使えない」んだもんね。
オレが奪ったから。
でも、オレはそれを使っちゃう。
う~ん、鬼畜?
さぁ、スパーリングの開始だ。
トントトトンっ。
両足を小刻みに揺らしながらリズムを取る。
教室の机を端にどけてスペースを作ってるけど、周りはさほど広くない。
まずは、相手の攻撃を
トイレで死にかけた反省を活かす。
絶対に攻撃を食らわない。
一撃も食らわずに倒す。
そのための力を身に着けるんだ。
【
狼男 1025
魔力が大幅に激減してる。
前は一万を超えていたはずだ。
オレにスキルを奪われたのと、満月ではないことが原因かな。
まぁ、要するにちょうどいいスパーリングの相手ってことだ。
「どうした? 打ってこいよ」
「なァにを人間ごときが生意気に……!」
【
□ 右上段、大ぶり
スキルによって攻撃の「未来の軌道」が視える。
トンっと、軽く跳んで射程圏外へと逃れる。
ブンッ!
狼男の爪の一撃が空を切る。
「くっそ、テメェ!」
【
□ タックル
走り込んでくる狼男を横に交わして、くるりと回り背後を取ると──。
【
脇腹に一発!
ズドンッ──!
「うおっ──っ!」
(よし、綺麗に決まったっ!)
流れるように炸裂したカウンター。
一瞬、勝負あったかと思って二人とも固まったが、すぐに狼男はオレに飛びかかってきた。
「グアー! テメェ! ビビったじゃねぇか!」
「うわああああぁあ、ちょっと! ストップ、ストップ! スト~~~ップ!」
●
『オレから一本取ったらリサから撫でてもらえる』
それが狼男の提示した条件。
オレが頼みこんでリサは渋々引き受けたが、はたして、間男的な存在のオレのおかげで好きな子から撫でてもらえる状況ってのは素直に喜べるものなんだろうか……と思っていたら。
「うひゃひゃひゃ! リサしゃま! 撫でて! もっと撫でてぇ~! ほら、ここ! あごの下ワシャワシャ~ってしてぇ~!」
存分に満喫しているようだ。
それにしても。
スキルを使っても、パンチじゃ魔物にダメージが通らない。
前に狼男を倒した時みたいにアゴを打ち抜ければいけるだろうけど、決闘においてそれは現実的じゃない。
残された期間は、たったの二週間。
──武器がいる。
とはいえ、オレは鑑定士。
重い武器は持てない。
スキルを使って体を強化すれば持てるかもしれないが、常時スキルを発動させとくわけにもいかない。
ということで、なにか軽くて、丈夫で、様々なスキルを使った際に応用の効くもの──。
う~ん、この教室の中とかになにか使えそうなものないかな?
あと、生徒が持ってきてるものとか。
よし、明日の授業中に色々アイテムを鑑定してみることにしよう。
「リサしゃま! リサしゃま! もっと! もっと、もふもふしてぇ~!」
「ああ~、もう鬱陶しいのよ! この変態~!」
それから二週間。
学校には毎夜、謎の喘ぎ声が響き渡ったという。
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