第9話 「透明人間 - 透明 = ?」
【十一日目 朝】
倒れた狼男はリサが抱えて連れて帰った。
その辺に捨てとくそうだ。
抱えられた狼男の顔が嬉しそうだったのは、きっと気のせいだろう。
朝。
檻の中に血が飛び散っていようと、魔物たちは気にも留めない。
というのも、元々めちゃくちゃ汚れていたからだ。
女子たちのディフェンスの隙を縫って仕掛けられていたミノタウロス&オーガの嫌がらせによって。
「……おはようございます。って、え? あれ? もしかして夜、なにかありました?」
毎日朝一番に投稿してくるのはゴーゴン。
オレにフィード・オファリングと名付けた
頭から葬式の時のような黒いベールを被っている。
その目元まで覆われた濃いベールによって彼女の目は見えないが、スキル【
『ゴーゴンの目を見ると石にされる』
人間たちの間では、それが常識だからだ。
「いや、なにもなかったけど?」
適当にはぐらかす。
この子だけは、魔物の中でも妙に察しがいいので要注意だ。
そして、その石化能力。
奪い取った
その後に登校して来る順序は、大体決まっている。
青銅人間のタロス。
植物人間のアルラウネ。
この二人は比較的早い。
タロスは真面目で、アルラウネは日光浴が生きがいなので朝早いらしい。
それに、アルラウネはオレたちが吐く息が美味しいらしく、この息で満たされた「教室」という密閉空間は、彼女にとっては天国のようなところなんだそうだ。
まぁ、こっちとしてもアルラウネがいると空気が美味しくなる気がするから、共存共栄だね。
で、次は空を飛ぶ魔物たちが登校して来る。
目立ちたがりのセイレーンとスキュラのコンビはいつも授業開始の十分前。
イキリ番長のミノタウロスとオーガ、そして女ヤンキーのメデューサは、決まって授業開始ギリギリだ。
最近は、めっきり朝、昼、夕方の空き時間にクラスの女子~ズ(オレが女子たちのことを心の中でそう呼んでる)が、オレの檻の周りでダベるのが習慣になっている。
ダベリの内容は、どこのチョコンボ(魔界に生息するらしいチョコ味の鳥。驚かしながら狩れば狩るほど、甘くなるらしい)が美味しいとか、どこの森林浴スポットが魔力が濃くてお肌にいいとか、そういったどうでもいい話だ。
ただ、その輪に加わらない女子も二人。
一人は、いじめられっ子気質のゴーゴン。
もう一人は、ヤンキー気質のメデューサ。
ヤンキーと言っても、メデューサはミノタウロスたちとはつるんでおらず、孤高の女番長といった感じだ。
なので、檻の周りに集まってくる女子~ズは、大体多くても八人。
中心人物は、当然セイレーン。
なので、話の内容も彼女の興味のあるものになることが多い。
セイレーンたちがいない時は、サキュバスが最近の
まぁ、そういう話をされてる時は、できるだけ耳に入れないようにしてるんだが、どうしても目の前で話をされてるので聞こえてしまう。しかも、チラチラこっちを
下半身が蛇のラミアなんかは、これみよがしに舌をチロチロさせてくる。エロい気分になるどころか、食べられそうな気分になっておっかない。
でもサキュバスは、ボスのセイレーンに気を遣ってか、直接オレに【
助かる。
リサの人間を惑わす甘い香りには、意志の力で耐えられるんだけど、洗脳系のスキルに耐えられるかどうかわからないからだ。
もしスキルで洗脳されて。
オレがスキルを奪えること。
スキルを奪った結果、オチューとレッドキャップが死んだこと。
そのへんがバレてしまった場合、三十日目を待つことなく殺されてしまうだろう。
だから、そういった危険性のある【
けど、サキュバスの話を聞く限り、どうやら毎晩いろんな種族のオスにスキルを使っているらしい。
なので、もし奪ったら確実にバレる。
う~ん、悩ましいところだ……。
と、ここで現在どのスキルが残っているかを一旦整理してみよう。
「●」がスキルを奪った印。
「×」が死亡した印。
1 アルラウネ 【
2 インビジブル・ストーカー 【
3 オーガ 【
4 オーク 【
●5×オチュー 【
6 ガーゴイル 【
7 キマイラ 【
8 ケルピー 【
9 ケルベロス 【
●10 ケンタウロス 【
11 コカトリス 【
12 ゴーゴン 【
13 サキュバス 【
14 スキュラ 【
15 セイレーン 【
16 タロス 【
●17 デーモン 【
18 デュラハン 【
19 ドッペルゲンガー 【
20 バンパイア 【
●21 ホブゴブリン 【
●22 マンドレイク 【
●23 ミノタウロス 【
24 ミミック 【
25 メデューサ 【
26 ラスト・モンスター 【
27 ラミア 【
●28×レッドキャップ 【
29 ローパー 【
30 ワイバーン 【不明】
奪ってもバレなさそうなものは、すでに
残りの中で絶対に欲しいのは。
【
【
【
この三つ。
大勢を相手する際に絶対に役に立つ一撃必殺のスキルだからだ。
それに、防御を高める【
あと、ここから逃げ出した後のことも考えて。
【
【
【
【
【
【
この辺も確保しておきたい。
「不眠」があれば寝ずに行動できるし、「潜水」があれば水の中にも逃げ込める。
「植物知識」があれば食べられるものも見分けることが出来るだろうし。
「透明」に関しては言わずもがな。
「変身」と「擬態」は、どう違うのかよくわかってない。どちらか一つだけでいいかもしれない。
それに、大悪魔の【
これは絶対に役に立つだろうから奪っておきたい。
ってことで、最低限11は吸収のストックを貯めたい。
今、ストックが4だから、あと七日は時間を稼ぎたいところ。
それと、未だ姿を見せないワイバーン。
一体どんなスキルを持っているのか。
竜族のスキルなんて見たことないから非常に気になるところだ。
早く確かめてみたい。
【十一日目 夕方】
さて、今日も何事もなく学校が終わった。
魔物たちは全員下校し、教室には誰も残っていない。
いつもならここでリサが来るまで仮眠するところなんだが、今日はスキルの実験をしてみることにする。
オレがスキルを奪えることは、リサも知らない。
だから彼女の前で実験は出来ない。
となると、実験できるのは自ずと朝か夕方に限られる。
監禁されてるわりに、意外とあんまり一人っきりになれる時間がないのって不思議。
ま、ということで時間は大切に使おう。
よし、まずは昨日狼男から奪ったスキルからだ。
【
……昨日は怒りに我を忘れてたから気づかなかったけど、これだけ静かな環境だとはっきりとわかる。
自分の体の筋肉が。
骨が。
とてつもない高密度、高強度になっている。
シュシュッ!
昨夜、狼男を一発でノシた時のことを思い出して拳を二発、宙に打ってみる。
うん、いいパンチだ。
全身が強化されて、しっかりとした土台から放たれるブレのない鋭いパンチ。
体幹も強くなってる。次の動作への移行も
そこから生じるエネルギーが、ヒザから背中を伝い、ロスなく拳に届けられる。
シュッ! シュシュシュッ!
調子が出てきて、そのまま何度かパンチを宙に打っていると──。
ガタッ──。
物音がした。
「──!?」
しまった、誰かいたのかっ!?
音の方を向くと、そこは──。
インビジブル・ストーカー。透明人間の席だ。
(まさか──!)
【
鑑定眼ならば見えなくても、もし本当にそこに「いる」のならば「鑑定」出来る。
インビジブル・ストーカー 212 【
なんてこった!
いる!
見られた!
どうする!?
言いくるめるか!?
いや、オレが使ったのは【
外から見ただけじゃ、使っていることがわからないスキルだ。
どうにか口先だけで誤魔化せないか?
実はオレ、運動神経がいいんだよ~、あはは~? とか。
そんなの通用するか?
ダメだ。
そんな危険な橋は渡れない。
もし、誰かに「あいつ、様子がおかしかった」なんて言いふらされでもしたら危険だ。
それに、魔界に鑑定スキルを持った魔物がいないとも限らない。
くそっ、こんなことになるなら早く【
ああ、もうっ! とりあえず、これ頼みだっ!
【
焦っていた気持ちがスッと落ち着く。
いくつかの選択肢が頭に浮かんでくる。
その中で、最も危険度の低そうなもの。
それを選ぶ。
…………。
これ、か。
そうだな、うん。
まずは、奪わせてもらう。
そこから先のことは、奪った後に考える。
この状況において一番厄介なのは、相手が透明であることだ。
まず、そこから対処していく。
【
オレの左目に見えない青い炎が宿る。
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
よし、無事に【
さぁ──どうなる?
透明人間から【
魔物の根幹となるようなスキルを奪ったら、魔物はどうなるんだ?
さぁ、見せてみろ、インビジブル・ストーカー。
間をおかず、オレの目の前に一人の裸の男が現れた。
「??」
戸惑っている様子の痩せた男。
もちろん裸だ。
透明だからか、普段から身だしなみに気をつける習慣がないのだろう。
髪はボサボサで、顔は目やにだらけ。捨て猫みたいだ。
とはいえ、オレも十日以上体を洗ってない。
汚れた体の男二人が無言で向き合ってる。
なんだ、この状態?
とはいえ。
透明人間から「透明」を奪ったら、透明じゃなくなった。
さてさて、これは一体どういう状態なんだ?
これを「鑑定」すると、どうなる?
透明じゃなくなっても、お前は透明人間なのか?
【
オレの右目に赤い炎が宿る。
人間 2 【スキルなし】
! ──ッ!?
人間──だとっ!?
魔物から、その根幹となるスキルを奪ったら人間になる!?
そのあまりに予想外な展開に固まっていると、元インビジブル・ストーカー──痩せた捨て猫のような男は、教室の外へ向かってよたよたと歩き出していた。
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アベル(フィード・オファリング)
現在所持スキル数 11
吸収ストック数 2
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