第8話 下僕争い!?
「
リサは、いつも軽くあしらわれている自分のプライドを保つためか、いつからかオレのことを
言われた通り、オレは檻の後方へと下がる。
いくらスキルが増えてきたとはいえ、こんなバケモノ同士の戦いに巻き込まれたらひとたまりもない。
【
とりあえず、スキルを発動させておく。
さっそく起きたイレギュラーな事態。
これから何が起きようが、最適な行動を取れるように備える。
狼男 10274 【
リサ 10086 【
満月の効果だろうか、魔力では狼男が上回っている。
そして、身体能力や格闘能力。
リサは力こそ強いが、戦いにおいて相手の裏を読むようなタイプじゃない。
しかも、狼男のスキルは【
細身で小柄なリサと違って、狼男は大柄で手足も長い。
肉弾戦闘においての体格の差、というものはかなり大きい。
単純に遠くから安全に攻撃できるうえに、頑丈だ。
(リサの勝ち目は薄い)
可能性があるとすれば、リサが狼男に噛み付いて
もしくは、どうにかして完全に隙を突くか。
「ぐるるる……ぐわぁ!」
窓枠の上に立っていた狼男が、リサに飛びかかる。
ズザッ──!
リサは黒いワンピースをひるがえし、スライディングで狼男の股下をくぐり抜けた。
「──ったく、ほんっとなんなのよ、あんた! 私と下僕の大事な時間を邪魔しないで!」
「ぐぐぐ……がぁぁあああ!!」
ガシぃっ!
大きな口を開け、リサへと掴みかかる狼男。
リサはガッチリと両手で、その腕を押さえている。
「ほんとに、ほんとに、ほんっとに──前からしつこいのよ、あんたはぁぁぁぁあ!」
そう言って、リサは狼男の両手にぶら下がると腹にドロップキックをかました。
ドウッ──!
ん? 『前から』しつこい?
「リサ? もしかして、そいつ……」
「知り合いよ! ずっと私につきまとってるストーカー!」
えぇ……ストーカーとかあるんだ、魔物の世界にも……。
っていうか、バンパイアと狼男って天敵同士じゃなかったの?
なんでストーカーなんか……。
「ぐああああ! なんでだよ! 吸ってくれよ! 血ィ! オレの血を吸って、吸って、吸いまくってぇぇぇえ! お前の眷属にしてくれよぉぉぉぉお! アオーーーーーン!」
ん? この狼男、眷属になりたいのか?
「うっさいのよっ! いっつも、いっつも、人の後をコソコソ付け回して! あんたなんか眷属にしないって何回も言ってるでしょ!!」
「なんでだよ! いいじゃねぇかよ! ほら、オレこんなに強い! 見てくれよ、わざわざ満月になるのを待って来てやったんだからよぅ! きっと、お前の役に立つからさ! ね、だからオレを眷属に、奴隷にしてくれよぉぉぉ! その足で踏んでくれよ、オレのことをさぁぁぁぁあ!」
え、そういう性癖?
「だからキモいっつってんでしょ! 眷属はバンパイアが一生に一人だけ作れる大切なパートナーなの! 敵対組織のあんたなんかを眷属にするわけないでしょ!」
「じゃあ、オレが組織を抜ければいいのか!? それなら眷属に……」
「するわけないでしょ! 魔界の二大マフィアの子孫、しかもお互い一人っ子同士が眷属なんかになったら魔界は終わりよ!」
二大マフィア?
一人っ子同士?
え、もしかしてこれ、禁じられたラブロマンスを見せられてる?
といっても狼男の一方的なロマンスだけど。
「じゃあ、オレがマフィアじゃなければ……」
「あんたがマフィアの息子じゃなくてもお断りよ! 私は、あなたが嫌いなの! シンプルに! いち、魔物として!」
「なんでだよ! 眷属が無理ならせめて奴隷くらい……」
「イヤ~! もうやめて! 無理なの! あんたが! 生理的に! 私のことを毎晩毎晩付け回してるところとか! その時に鼻息がめちゃくちゃ荒いこととか! 私が飛んでる時に必死こいて走ってついてこようとするくせに、すぐ挫折して、これみよがしに遠吠えするところとか! 全てが無理なの! っていうか奴隷ってなにっ!? シンプルにキモいんだけどっ!」
おい……リサ、それはちょっと言い過ぎじゃないか……?
いくら相手が倒錯した特殊性癖の持ち主だからって……。
「じゃあ、あいつは何なんだよっ!」
鋭い爪がオレを指差す。
「……へ? オレ?」
「ああ、テメェだよ。毎晩毎晩毎晩毎晩、ここんとこリサちゃんの様子がおかしいと思ったら、お前んとこだ。で、なんだ? 手作りクッキーぃ? 手料理ぃ? ステーキだぁ? 知ってるか? リサちゃん、めちゃくちゃ頑張ってアナコンダ倒してたんだぞ? お前なんかのためにだ! で、なんだ? 挙句の果てには『下僕』なんて呼んでもらってるじゃねーか、テメェ! 許せるか? 許せねーよなぁ!? あ!? しかも裸で! 羨ましい限りじゃねーか、この野郎! あぁん!?」
うわ、最悪。矛先こっち向いてきた。
っていうか、めちゃめちゃオレたちを盗み見てるな、こいつ。
「リサちゃぁ~ん。なぁ? もしかして、こいつなのか……? ねぇ……まさか、こいつ? ねぇ、こいつ眷属にするの? な、わけねーよなぁ……? アハハ……まだ、こいつとは会って十日だろ……? そんなやつを眷属にするとか……ね~よ、なぁ……?」
情けない声を上げてリサにすり寄ろうとする狼男。
「え、あ、いや……別にぃ……?」
ん? なんだ、その微妙なリアクション?
急にモジモジするリサ。
「ほ、ほらっ! 下僕は下僕として……? まぁ、下僕がどうしてもって言うなら? ね、考えてあげないこともないけど……? って! あ、いやっ! 下僕がどうしてもって言うならね! 言うなら!」
顔を赤くしてバタバタと手を振るリサ。
反面、真っ青に青ざめていく狼男。
「ハ、ハハッ……。こいつが……こいつがいるからなんだな……? こいつがいるから、オレはリサちゃんに眷属にしてもらえない……。じゃあ? こいつを消したら? こいつを消したら、十年間ずっと見守ってたオレがリサちゃんの眷属にぃぃぃ!」
ドンッ!
狼男が地面を蹴ってこちらに跳んできた。
【
狼男の仕掛けてくる攻撃の「未来の軌道」を読む。
□ 檻の間に突っ込んできた腕。
□ 関節を外した腕が伸びて。
□ オレの顔を捉える。
なるほど、スキルで身体能力を強化してるから無茶が出来るってわけか!
じゃあ、そのスキルを奪って……いや、間に合わない!
今は避けることだけに集中しろっ!
「くっ──!」
ブウォンッ!
間一髪。
のけぞって狼男の爪の一撃をかわすと、風圧がオレの前髪を乱暴にかき上げた。
かすった前髪が数本、チリチリと宙を舞う。
(おいおい、こんなの食らったら死ぬぞ!)
しかし、肝を冷やしたのもつかの間。
【
反撃だ。
この隙に反撃しろ。
やられたらやり返せ。
仕掛けるチャンスは、そうそうないぞ。
オレはのけぞったまま、食事に使っていたフォークを掴む。
【
【
回転しながら、狼男の伸び切った右腕を。
斬り上げる。
ジュバッ──!
狼男の右腕。
その脇の下から肘にかけてザックリとえぐり取った。
「ぐおっ──! テ、メ、ェ……!」
暗殺可能な条件が揃ってないし、手に持っているのは斧じゃなくてフォークだ。
でも、それなりに効果はあった。
体も自然と反応出来た。
「ぶっ殺してやるっ──!」
狼男が力を込めると右腕の筋肉が収縮し、吹き出していた血が止まる。
(マジかよ、ヤバいな【
「下僕っ!」
狼男の背後から、リサが駆けてくるのが見える。
「オレを……オレ以外を、下僕と呼ぶんじゃねぇぇぇえ!」
狼男が左手の拳を握る。
リサに向かって裏拳を放つつもりだ。
【
視える。
□ 関節を外した狼男の裏拳が。
□ リサのアゴにヒットする。
その「未来の軌道」が。
「リサ! 防げ!」
「え?」
ブゥぉんっ──!
ダメだ、間に合わない!
(クソっ──! 予定外だが、奪うしかッ!)
【
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
奪ったぞ──貴様の【
ほぼ同時に狼男の放った裏拳がリサにヒットする。
「ぐっ──!」
予測した通りの軌道で裏拳をアゴに食らったリサは、ぐらりとよろける。
瞬間、自分の中に信じられない感情が沸いてきた。
それは、まさかの感情──。
怒り。
【
奪ったばかりのスキルを発動させると、後ろに気が逸れている狼男のアゴめがけてパンチを一発。
スパンっ──!
「……? ……えっ?」
ドシン──っ。
狼男は、そのまま床に倒れ込むと、あっさりと意識を失った。
「……は? え、あれ? 下僕っ! 大丈夫っ!?」
頭を押さえながらリサが立ち上がろうとする。
「ああ、大丈夫だ」
オレは笑顔でリサに答える。
「
オレが食われる期限まで──。
あと、二十日。
どうやら、今日はまだオレが脱出する日じゃなかったようだ。
────────────────────
アベル(フィード・オファリング)
現在所持スキル数 10
吸収ストック数 2
【
【
【
【
【
【
【
【
【
【
────────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます