第7話 女子たちのおもちゃ
【八日目 昼】
夜に持ってくるバンパイア、リサの食事。
昨日は、とうとうステーキだった。
連日少しずつ豪勢になっていってるなとは思ってたが、とうとうステーキ。
しかも、巨大蛇アナコンダの。
自分で獲ってきたらしい。
やりすぎだ。
しかも、今、オレの目の前に置かれてる昼食。
そら豆のスープに黒パン。それに半分にカットされたザクロまでついてきてる。
こっちまで豪勢になりつつある。
昼食を持ってきたホブゴブリンがヘラヘラと笑っている。
こいつの手料理らしい。
ホブゴブリンは、オレにスキル【
にしても。
こんな檻に閉じ込められた環境で、そんな歪んだ善意を押し付けられても気持ちが悪いばかりだ。
ほんとうの善意なら、オレをここから逃してくれるはずなんだが?
まぁ、結局「格下の存在に
そして、そういった善意を不快に感じるものも、魔物たちの中にはいるわけで。
「オラァ! 人間が、な~に一丁前に飯なんか食ってんだァ!? あぁんっ!?」
はい、例によってミノタウロスとオーガの番長コンビ。
いや、
だって、クラスの魔物たちの魔力量は、もう把握しちゃったんだもん。
はい、これが生徒たちの魔力が高い順トップ5ね。
バンパイアのリサ 10086
メデューサ 8474
ゴーゴン 8473
デュラハン 6852
アルラウネ 6011
で。
ミノタウロス 2392
オーガ 2284
と、こんな感じ。
ミノタウロスもオーガも腕力は強いかもしれないけど、魔力としては低い方。
だから、こうして腕力をアピールして、周りを
ほら、弱い犬ほどよく吠えるっていうでしょ?
しかも、ミノタウロスは、すでにスキルをオレに奪われているからね。
そんな状態でイキってるんだから、もはやただの間抜けにしか見えない。
ガチャン!
オーガがスープをひっくり返す。
「オラ、舐めとれよ人間! ギャハハハっ! 生意気に飯なんか食ってんじゃねーぞ!」
鬱陶しいな。
いっそのこと殺してやろうか。
【
【
どちらでも使えば、お前たちを殺せるんだぞ。
オレの目つきが気に食わなかったのか、ミノタウロスたちは、さらに
「ああ!? なんだその目!? 喧嘩売ってんのかぁ!?」
ひっくり返された皿を手に取って、投げつけてくる。
──ッ!
【
ケンタウロスから奪ったスキルを発動させると、飛んでくる皿の未来の軌道が見えた。
スッ。
頭を振って、その軌道から避けると──。
パリンっ!
皿は後ろの壁に当たって砕け散った。
「こ、こいつ──!」
ムキになったミノタウロスとオーガが、周囲にあった様々なものを手当たりしだいに投げつけてくる。
なかには、オレの昼食だったザクロや、魔物たちが使ってるペン、石やバケツに入れられた水なんかも。
いくら軌道を予測出来たとしても、同時に投げつけられたんじゃ避けきれない。
ましてや水なんか避けようがない。
致命的なものだけはどうにか避けつつも、オレはボロボロの濡れ
「ちょっとぉ! やめなさいよ、男子ぃ!」
意外にも、オレを
初日に、子分のスキュラに毒触手で毒飯をオレの口に突っ込ませた、あのスクールカーストトップ系のセイレーン。
「なにやってんのよぉ! ちょっとやりすぎじゃなぁい!? 可哀想でしょ、こんなにボロボロになるまで! これじゃ死んじゃうわよぉ!」
「は? 別にいいだろ、人間の一匹や二匹死んだところでなんてこたねぇよ」
「はぁ? 本気で言ってるのぉ? あなた、脳みそまで筋肉で出来てるんじゃないかしらぁ? まったく! これだから下級種族は、お話になりませんわぁ!」
え、なんか喧嘩し始めたんだけど。
「あ? テメェだって大した違いねぇだろうが、薄汚い塩水女が!」
「あらぁ、誰が『塩水女』ですってぇ? あなた、今、海に生きる魔物全てを敵に回しましてよ!?」
スキュラも毒触手を出し、ミノタウロスも斧を手にしている。
一触即発の臨戦態勢。
お、もしかして殺し合ってくれたりする?
オレの吸収眼ストックは今日で二回分貯まってるぞ。
もし戦って死んでくれたなら、バレることなくスキルを奪い取ることが出来る。
そう思って成り行きを見守っていたら、またまた意外な言葉がセイレーンの口から放たれた。
「今日から、この子は私達が面倒を見ますわぁ!」
………………えっ?
この日が潮目となって。
オレの監禁生活は変わっていった。
具体的に言うと、オレは女子たちのおもちゃになった。
と言っても、別に卑猥な意味じゃない。
あまりにオレが悲惨な目に遭い続けてたから、きっと母性本能でも働いたのだろう。
それに「やんちゃな男子に反抗する気の強い女子」なんて、どこの学校にでもありそうな話だ。
そう、オレは要するに「粗暴な男子に対する当てつけの道具」として女子から守られるようになったのだ。
しかも、オレはあと三週間で死ぬことになってる人間。
後腐れもなくて、ちょうどよかったんだろう。
さて、今まで魔物の性別なんて気にしたことなかったんだけど、なんと、このクラスに女子は十匹もいるらしい。
1 アルラウネ 【
8 ケルピー 【
12 ゴーゴン 【
13 サキュバス 【
14 スキュラ 【
15 セイレーン 【
20 バンパイア 【
25 メデューサ 【
27 ラミア 【
29 ローパー 【
の十匹。
あ、頭の番号は出席番号ね。
女子──とは言っても。
アルラウネは下半身が植物。
ケルピーは下半身が魚で、上半身は馬。
スキュラは下半身がタコ。
セイレーンは下半身が魚。
ゴーゴン、メデューサは髪の毛が蛇。
ラミアは下半身が蛇。
ローパーに至っては触手だらけ。
と、まともな人型なのはサキュバスと、バンパイアのリサくらい。
正直、あまり嬉しくはない。
っていうか、ローパーにメスなんているんだって思った。
いや、まぁ、いるか。
いなきゃ繁殖できないもんね。
まぁ、とりあえず、オレはこうして。
昼間は、女モンスター九匹に。
夜は、バンパイアのリサに。
それぞれ世話をされ、わりと不自由のない生活を送るようになっていった。
リサは、自分以外の女がオレの世話をしてると聞くと、めちゃくちゃ怒ってセイレーンの机をボコボコにしていた。
いやいや、
スキルの吸収は、一旦やめることにした。
ストックを貯める方向で行く。
なるべくこのまま、生きて最終日近くまで過ごし、一気にスキルを奪って脱出する計画だ。
それに、いつイレギュラーな事態が起こるかわからない。
いざという時に備えて昼はイメトレ、夜は筋トレに励む日々を送っていた。
【十日目 夜】
そして、迎えた監禁生活十日目、夜。
いつものようにリサの他愛もない話に適当に相槌を打ちながら筋トレをしていると、開けっ放しにしていた窓から音もなく
「ぐるるる……」
ギラギラと目を光らせ、口からはダラダラと涎を垂らした、そいつは──。
狼男。
バンパイアの天敵と言われる魔物だ。
オレは、ふと窓の外──差し込んでくる明かりの方を見た。
満月。
なんてこった。
今夜は──狼男の力が一番高まる日じゃないか。
オレは、すかさず狼男の魔力を鑑定する。
【
狼男 10274 【
魔力10274。
リサより──上だ。
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アベル(フィード・オファリング)
現在所持スキル数 9
吸収ストック数 3
【
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