第5話 四つ目のスキル
【一日目 夜】
吸血鬼リサの持ってきたパンとワインで、どうにか気力と体力を回復できた。
それから、リサの話によってかなりの情報も得ることが出来た。
まず、ここは魔界の奥にあるエリート専門の学校らしい。
通ってるのは、上位種の子どもたちや、下位種ながらも優れた個体と認められた者たち。
上位種だとバンパイア、メデューサ、デュラハン、ケルベロス。
下位種だとオーク、ホブゴブリン、ガーゴイルといったところだ。
あと、大きすぎて教室に入れないから来てないけど、ワイバーンなんてのもいるらしい。
それから、目に見えないインビジブル・ストーカー──いわゆる「透明人間」なんてのも。
教室は、この一室のみ。
建物自体は大きいけど、クラスはここだけらしい。
教師も大悪魔の一人だけ。
たしかに昼間、全部の授業を大悪魔がやってたな、と思い出す。
つまり、ここは学校というよりも「学校を模した大悪魔の私塾」といったところのようだ。
檻から脱出した後のことが不安だったが、これでかなり気が楽になった。
だってさ、教室内の魔物さえ、どうにかしちゃえばいいってことだからね。
オレはクラスの魔物たち一人ひとりの情報をリサから聞き出すと、じっくりと頭の中に書き留めていった。
ちなみに、魔物たちには出席番号なんてものもあるらしい。
それから、リサの本名は「ラ・リサリサ・ホーホウ・バルトハルト・ヴィ・ルージュリア・レッドグラム・ローデンベルグ」という長ったらしい名前らしい。心底どうでもいい。脱出する際に、この子も殺すことになるかもしれないんだから、名前を覚える必要なんて──ない、よね。うん。
やがて地平線が明るくなってくると、リサは食事の器を持って「明日また来るわ」と言って去っていった。それから「そ、その代わり、明日もまた飲ませてよねっ! そ、その……血」とも、しっかり言い残して。
【二日目 朝】
登校して来る魔物たちを見ながら、リサから仕入れた情報と頭の中で照らし合わせていく。
魔物たちは、オレに手を振っていくものもあれば、無視するもの、
やがてチャイムが鳴り、大悪魔が入ってきた。
大悪魔は抑揚のない口調で挨拶をすると、出席を取り始めた。
どうやら出席番号は、種族名の五十音順のようだ。
教室内の席数は三十。
横三列、縦十列に並んでいる。
空席は三つ。
夜しか活動できないリサ。
大きすぎて入れないワイバーン。
そして、透明で見えないインビジブル・ストーカーの分だろう。
出欠確認の返事の位置から、透明人間インビジブル・ストーカーの席の位置を特定することができた。
そして、そこに「いる」ことさえわかれば、オレの【
何も分からなかった昨日からしたら、驚くほどの
だって昨日は透明人間がいることすら知らなかったんだから。
これも、リサから情報を得たおかげだな。
よし……これで昨日の分の出遅れを、かなり取り戻せたぞ。
ということで、以下が、オレの頭の中で作成した魔物たちの一覧表。
「●」がついてるのは、オレがスキルを奪った魔物。
ワイバーンは、まだ実際に見ていないのでスキルは不明。
1 アルラウネ 【
2 インビジブル・ストーカー 【
3 オーガ 【
4 オーク 【
5 オチュー 【
6 ガーゴイル 【
7 キマイラ 【
8 ケルピー 【
9 ケルベロス 【
10 ケンタウロス 【
11 コカトリス 【
12 ゴーゴン 【
13 サキュバス 【
14 スキュラ 【
15 セイレーン 【
16 タロス 【
●17 デーモン 【
18 デュラハン 【
19 ドッペルゲンガー 【
20 バンパイア 【
21 ホブゴブリン 【
22 マンドレイク 【
23 ミノタウロス 【
24 ミミック 【
25 メデューサ 【
26 ラスト・モンスター 【
27 ラミア 【
28 レッドキャップ 【
29 ローパー 【
30 ワイバーン 【不明】
これが、このクラスのエリート魔物たち三十匹。
オレがここに来て、すでに二日目。
残されたリミットは、あと二十九日。
その間に、この魔物たちをどうにかしなくちゃいけない。
ってことで、まずは頼みの綱【
授業を受けている適当な魔物に意識を集中させて──。
【
ドッ
クン。
全身が脈打つ。
きたッ! この感覚は──ッ!
出席番号5番の魔物、オチュー。
まん丸な草の塊。
真ん中に巨大な口が開いている。
そして、たくさんの触手を持つ森の魔物。
オレは、そのオチューのスキル──。
【
を奪い取ることが出来た。
出来た! 出来た! 打ち止めじゃなかった!
【
すぐにもう一度、別の魔物のスキルを奪おうとしたが、そっちは不発。奪えなかった。でも、これで憶測の幅は、かなり狭まった。
おそらく──この【
一日一回か。それとも二回か。
そうであると願おう。
この二発で打ち止めなんてことがないことを祈って。
で、スキルを奪ったはいいんだけど、これって実際に使ってみないと、どんな効果かはわからないんだよね。
スキル名だけでなんとなく想像はつくけど……。
う~ん。
【
名前だけじゃ、どんなスキルなのか、はっきりわからない。
あまりいいスキルじゃなさそうな気もする。
下手に発動して、変なものしか食べられなくなったりしたら嫌だなぁ。
夜にリサが来たら、オチューがどういう魔物なのか聞いてみよう。
それまで、このスキルを試すのはお預けだ。
【二日目 昼】
昼休みになると、昨日と同じくミノタウロス、オーガ、セイレーン、スキュラが寄ってきたが、今日は無視した。
もう、こいつらから情報を引き出す必要はない。
夜にリサから聞けばいいだけだからね。
反応がないからつまらなかったのか、しばらくするとみんな飽きて立ち去っていった。
今日もホブゴブリンが毒皿を持ってきたが、これも無視。
【二日目 夕方】
帰っていく魔物たちに【
回数制限があるとしたら、やはり一日一回か。
今日を除くと、もう残り二十八日。
一日一回吸収できるとして、スキルを所持してる魔物は残り二十八匹。それに大悪魔を加えると二十九匹。
日数をフルに使っても全部吸収するには間に合わない。
どれかを捨てないと。
取捨選択を迫られる。
それと。
どのスキルを、どの順番で奪うか。
それも大事だ。
例えば、インビジブル・ストーカーの【
このあたりは奪ったら一発でバレるだろう。
だって、透明じゃなくなったり、石じゃなくなったりしそうだから。
そうなったら、騒ぎになること間違いなし。
そんな事態は
ってことで、この辺のスキルは奪うとしても最後の方かな。
見た目で判断できないスキルでも、アルラウネの【
このあたりも厳しい。
普段から賢い奴が、急に馬鹿になったら騒ぎになりそうだからだ。
ってことで、この辺も奪うなら最後の方。
う~ん、こうやって考えてみると意外と難しい。
しかも、スキルを奪えるのは一日一回。
これは相当考えて挑まないと、一つ間違えただけで命取りになりそうだ。
それにしても、最初に奪った【
これは、本当にちょうどいい吸収対象だった。
だって、デーモン一匹、狡猾じゃなくなった程度じゃ誰も気にかけないもんね。
これだけは本当に運がよかったとしか言いようがない。
不幸中の幸いってやつだ。
にしても、その「不幸」部分があまりに大きすぎるけど……。
さらに──ひとつだけ気がかりなことがある。
【
ほら、頭が冴えて、普通の人間では到底思いつかないことが思いついちゃうから。
例えば、本当に悪魔的な考えとか。
もし、これから先、オレがそういう発想に慣れていったらと思うと……。
ま、そんなことを気にするのも、まずはここを脱出してからだ。
脱出するまでは、神の力でも悪魔の力でもなんでも使わせてもらうとしよう。
そこでオレは一旦考えるのをやめ、リサが来るまで仮眠を取ることにした。
【二日目 夜】
リサの持ってきた食事を食べながら、オチューの情報を聞き出す。
なんでも、オチューは「ゴミを食べる魔物」らしい。
ゴ、ゴミを……?
……飢え死にしそうな時以外は使う機会のないスキルかもしれない。
その後、リサに血を与えて、色々とたわいない話をする。
リサは「あ、明日はもっとマシな食事持ってくるから!」と言って帰っていった。
【三日目 朝】
さ、今日もスキルを吸収できるか試すぞ! と思ってたら。
誰も来なかった。
一日中。
ずっと。
檻の中で一人ぼっちだった。
え、なにこれ?
なんで?
【三日目 夜】
リサに聞くと、どうやらオチューが死んだので臨時休校だったらしい。
死因は食中毒。
あ、オレが【
なるほど、こいういう魔物の始末の仕方もある……というわけか。
そしてオチューのスキルの効果の正体も、これで大体わかった。
これは、おそらく有害物質を消化できるスキルだ。
ということは、つまり。
オレは、あの毒まみれの昼飯を食えるようになったのだ。
うん……あまり嬉しくないね……。
ともあれ、ここに来て三日が過ぎた時点で、オレの奪ったスキルは二つになった。
残る魔物たちは、大悪魔を含めて三十匹。
そしてオレが食われる期限まで──。
あと、二十七日。
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アベル(フィード・オファリング)
現在所持スキル 4
【
【
【
【
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