世の中は色々とめんどくさい

 周囲で見守っていたクガネ氏をはじめとする面々は驚愕の表情を浮かべていた。というかドン引きだ。


「さて」

 とりあえず魔王様をぶん殴って元の姿に戻させた。カナタは俺の後ろに隠れて震えている。


「うーん、怖がらせちゃったかな……」

「一応聞いとくが、どっちが本性だ?」

「こっちよー。大丈夫、カナタが幸せならそれでいいのさー」

 にへらと笑みを浮かべる幼女は威圧感の欠片もない。それでもこの場にいる俺以外の全員を一撃で消し飛ばせる。なんなら俺も危ないくらいだ。


「さて、とりあえずですが……アイリーン殿はアカツキさんのクランに所属されるということで間違いない?」

 クガネ氏の問いかけにアイリーンは満面の笑みで答えた。

「うん!」

「おいまて、俺そもそもクランを設立すらしてないんだがね?」

「今この時点で受理いたします。金沢ギルドとして」


 この野郎、俺たちを体よく自分の指揮下の戦力にしやがった。


「それは良いんだけども。俺たち、カナタを入れて3人だぞ?」

「戦力的には日本最強と思いますけどね。まあ、あれです。ギリシャからの追及は何とかして見せますよ。それをもって貸し借りになしにしてくれませんかねえ?」


 ギリシャは魔法使いの多い国だ。そのルーツは魔女メディアに由来すると言われている。そうした中で、アイリーンは魔王と称されるほどの魔力を持つ。ギリシャでもトップクラスの強者だ。そう、トップではないのだ。

 故にある程度の軋轢はあるが、国際問題になるとは言えないというわけだ。それでも日本の地方のギルド独力で対抗できるかと言われれば疑問符が付く。

 クガネ氏はおそらく俺の力をバックに交渉を進めるのだろう。なんというかいい意味でのギブアンドテイクができそうだった。


 いろいろと曲折はあったが、ようやく最初の話に戻ることになる。そう、九頭竜川を支配する龍王との戦いだ。

 金沢ギルドが中心となって戦力をかき集めている。龍王ミズチは数千のマーマンを従える一大勢力だ。それゆえに大手のギルドやクランが動員される見通しだった。

 

 準備に右往左往するクガネ氏と金沢ギルドのスタッフを尻目に俺たちはのんびりと過ごしていた。


「んでマスター、いつあたしを眷属にしてくれるのかニャ―?」

「ご主人様じゃねえ。言っておくが、いっぺんそれやったら戻れないんだぞ?」

「わかってるよー、カナタの心臓にガッツリ食い込んでるあれでしょ?」

「そうだ、俺の魔力回路を形作る……」

「機械兵器を埋め込むってわけね。しかもあんたと融合してるから魔力を扱えると。けどねー、あたしが機械の力を使えるようになれば、いい戦力になるよー?」

「わかってるさ、俺に異論はない。ただ世の中ってのは根回しが大事でなあ」

「ぷー、めんどくさいねえ」

「俺たちも一応「ヒト」だからな。社会のワクからは逃れられんってことさ」


『力ずくで何とでもできそうですけどねえ』

「それは言いっこなし」

 俺たちのやり取りを聞いていたカナタがやれやれとばかりに肩をすくめる。

 

「むうううう、ずるいー。あたしもそこに混ぜてえええ!」

 俺の腰にしがみついて駄々をこねるアイリーン。絵面は実によろしくない。


 そうこうしているうちに金沢入りする冒険者が増えてきた。忍者寺所属の冒険者たちが先行して偵察を担っている。ミズチの眷属たちは最近勢力を広げ、手取川付近を勢力下においている。

 まずはそこに集った戦力を撃破することが当面の目標だ。


 キサラギ家の御曹司が手勢を率いて金沢に向かっているそうだ。

 その話を聞いてカナタがびくっと身を震わせた。俺のクランに所属した時点でキサラギ家の所属から抜けることを宣言しているが、どうもあちらさんはそれを認めたくはないらしい。

 曰く、名門の一員として迎えてやったのに恩知らずが、だそうだ。


「迎えてやったって、それまで孤児暮らしで一切援助も何もなかったんだけどねえ」

 真顔でそう告げるカナタの声は俺には普通に見えたが、アイリーンは若干びくついていた。


「カナタを怒らせると怖いんだよ……」

 過去に何かやらかしたようだがあえてそこは聞かずに置いた。


 キサラギ家の配下にあるいくつかのクランも続々と入ってきている。そういう意味ではクガネ氏の思惑以上に戦力が集まっているようだった。


「むーん、困りましたねえ」

「戦力が増えるのは良いことでは?」

「それはそうなのですがね。キサラギ家の影響力が強くなりすぎるのですよ」

「手柄を持っていかれると?」

「どうですかねえ? かのお坊ちゃんは魔力は強いです。それに英才教育を受けているだけあって部下の指揮も執れます。問題は……」

 言いたいことは何となくわかった。「お坊ちゃん」の一言にすべてが集約されているということなのだろう。

 そうして先ぶれが来てから数時間後、どでかい旗印を掲げた100人ほどの部隊がやってきた。

 希少金属を使った金ぴかのプレートアーマーを装備したイケメンを先頭にして。

 金沢の街は歓声に沸いた。

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その底辺冒険者は国家公務員になって年金生活を夢見る 響恭也 @k_hibiki

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