深い夢を見ていた。

 大好きだったあの人の夢。

 彼と手をつなぎながら、布団の中で横になっていた。

 彼の顔は見ていないけれど、手触りだけでわかる。

 ああ、あの人の手だと。

 目が覚めると、隣に彼はいるはずがなくて、窓の外は雨だった。

 少し寒い。

 この人と肌寄せ合ってずっと眠っていたい、雨の朝の日をこの人と共に過ごしたい、と思っていたあの日から数十年。

 そんな日もあったなあ。

 今はもう熱も冷め、窓の外の長雨のような、そんな静かな郷愁が胸を満たす。

 彼は今頃何をしているだろうか。

 私と同じく外の長雨を眺めているのだろうか。

 私は彼の息遣いが隣で聞こえないことに少し寂しさを覚えながら、陶然と雨に沈む街並みを私は眺めていた。

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300字の恋物語。 ことはたびひと @Kotoha-Tabihito

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