ジジェット村
第34話 銀翼
薪割りをすべて終わらせ代金を受け取り、海上に出て末社、中社まで設置した。体は、疲れ果てていたが目は冴えていた。ジジェット村に向けてハンドルを切った時、ロラが報告してきた。
「おいコラ、喜べ。感謝ポイントが120MP 入ったっぺ」
「どうして、誰が」
「そんなことは知んねえ。誰かが、オメエさんが今日したことに対して感謝してんだよ。多分ひとりじゃねえ」
「誰だかはわかんないんだ」
「それは、女神様だけが知ってっぺ。なんだ、不満か、この野郎」
「いいや、不満じゃないけど、俺のほかにもオットーリオの死を悼んでくれているんだな」
ホイットが心配そうに声をかけてきた。
「何をニヤけてるの」
「オットーリオが死んだのに、ニヤけているなんて不謹慎だし、司祭の野郎はクソだし、魔海龍なんてヤツが現れて、まったくろくでもないけど、まあ良いところもあるなって思って」
「ふうん」
「それより、ホイット。ジジェット村に司祭がちょっかいを出す理由。心当たりはない」
「ない。全くない。だって、田舎よ。あの牧草地の下にかつて盗賊たちが金銀財宝を埋めていったっていうなら別だけど。そんな伝説さえないって。出身者のヨハンに聞いたから間違いない」
疑問が頭に引っかかったまま村についた。入口付近でたき火を囲みヨハンと村の若者一人が不寝の番をしていた。車を降りて挨拶をする。
「ご苦労様です」
俺は、ヨハンの手を握った。続いて若者と握手を交わすと「ちょっと酒とつまみでも調達してきます」と言って若者は席を立った。俺は、空いている椅子に座った。
「ヨハンさん、例の印に関してはどういう考えですか」
「ずいぶん率直な言い方だね」
ヨハンは、焚き火の炎を見ながら苦笑いを浮かべた。
「神聖教会は、全世界に信者をもつ巨大で最大の宗教団体だ。あまりうかつなことを言って敵にまわすのは、賢いやり方じゃない」
「でも、きっとまた同じような方法で嫌がらせをしてくるかもしれません。今回は、ヨハンさんたちがいたから良いようなものですが」
俺の後ろに立っていたホイットが咳払いをした。
「こんなもんしかないですけど」
若者がガラスビンと皿を持って戻ってきた。皿には野菜の煮物と漬物が盛られていた。ガラスビンには、白濁した液体が入っている。微発泡なのか、ビンの内側の表面には、泡がついていた。どぶろくのように見える。
「タルキーノ、今日は寝て良いぞ。不寝の番は俺が引き受けた」
「良いんですか」
「もちろんだ」
「それじゃあ、すみません」
若者は、あくびをかみ殺しながら、去って行った。ホイットは、若者が座っていた場所に腰を下ろした。ヨハンがホイットに酒をついだ。
ホイットは、酒が大好物で、水のように呑む。それでいて酔ったところを見たことがない。それどころか逆に酒を飲めば飲むほど、元気になる体質らしい。
ホイットが酒をほしがれば、若者が持ってきたビンで3,4本は一気に飲み干してしまうだろう。ただし、自分から酒をほしがることはないのが不思議だ。だから、アルコール依存症というわけではない。ホイットが一気に酒を飲み干すと、ヨハンがうれしそうにおかわりを注いだ。
「ヨハンさん、」
ホイットは、酒をつがれながら、言った。
「司祭が、この村にわざわざやってきて何やら予言を残したというのは、ほんとうですか」
「さすが、有能なシーカーだな、耳が早い」
「たしかに、あの強欲司祭が、わざわざここの村までやってきたことがあるらしい」
「それは、興味深いですね」
「そんで、この村に昔から伝わるジジェ様を見て、不吉だからすぐに処分するように告げたんだ」
「どうして」
「さあ。ただの苔むした石の神様だ。ジジェ様と呼ばれているが、由来も伝わってないし、何の神様かも知らない。先祖代々の村の守り神という認識しかない。もちろん村人は、全員、神聖教会に帰依していて、光の女神様を信じている」
「じゃあ、ジジェ様はうち捨てられている?」
「ジジェ様を村の守り神として大切にはしているが、目くじらを立てることとは思えない。たまたま、司祭の機嫌が悪かったので、言いがかりつけたのではないかと思う」
「念のため、ちょっと見てこよう」
ホイットが手にたいまつを持ち、席をたった。
「この道をまっすぐ行くと」
ヨハンの言葉を遮り、「しっ」とホイットが言った。しばらくして現れたのは、綺麗というよりかわいいと言った方が似合っている寝ぼけ目の女子だった。ヨハンが立ち上がって女子を迎え入れた。年齢はナオと同じぐらいだろうか。
「フラン様、どうされたのですか」
「目が覚めた」
ヨハンに対してぶっきら棒な物言いだ。
「こちらは、バルサのケンとホイットさん。この方はちょっとした理由で銀翼に参加しているフラン様だ」
「ヨハン。様付けは無用と言っている」
言葉遣いは、冒険者というより、お嬢様だ。
「私にもその酒をついで」
「フラン様の口には合わないかと思いますが」
「いいから注いで」
仕方なさそうにヨハンが酒を注いだ。それを一口飲むとフランは、「薄い」と言った。
まるでその物言いが酒を飲んだことのないナオが酒を講釈していることを妄想させたので俺は、ふっと笑ってしまった。
フランが俺を睨んだ。馬鹿にされたと勘違いしたのかもしれない。じっとこちらをにらんでいるので、俺は頭を下げた。
「すみません」
フランは、「ふん」と鼻を鳴らし酒を一気に飲みほした。
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