第27話 オットーリオ

 朝練は、しばらく中止となった。 ヨハンの提案をホイットにすると、盗賊を探しに行ってくると、飛び出していってしまったからだ。ホイットは、かなり仕事熱心だ。休むとか手を抜くという考えは思い浮かばないらしい。それだから、シーカー3位まで上り詰めることができるのかもしれない。


 俺は、コツコツと、かつ計画的に薪割りに精を出すことにした。1日のノルマの半分が終わったところで汗を拭いて、一息いれる。


 練気言祝、縦拳、足払い、正拳。


 近くで薪割りを見ていたオットーリオが拍手した。ホイットと入れ替わりで、近頃はオットーリオが、たむろするようになっていた。新鮮な魚介類を差し入れしてくれるので、断る理由もない。


「おおすげえな、最後のをもらったら死んじまいそうだ」


 確かに、さっきの正拳は、手応えがあった。漁師の目から見ても、わかるぐらいの違いがあるということか。


「オットーリオは、漁師仲間と一緒にいなくていいのか」


「構わねえ。おらは、漁師たちと馬鹿話しているより教会にいるほうがゆったりできる」


 話ながらも練気言祝を唱える。すかさず、縦拳、縦拳、前蹴り。


「なんじゃい、そんな蛙が伸びちまった時のような蹴りは」


「前蹴りだ。相手の腹を蹴るようにするんだ。相手との距離を取りやすくする」


 オットーリオは他の漁師よりも若い。だから周りと話があわないのだろうか。


「それに、俺は、こう見えてりょうの腕がええ。だから短い時間で仕事が終わっちまう。才能だな。まあ、うまくやって、祈りの時間を増やしてえわけだ」


 練気言祝、掌底、掌底、足払い。すぐさま、地面を転がり相手との距離をとる。


「どうして、祈りの時間を増やしたいんだ」


「オラには、夢があってな」


「夢、か」


「天国にさ、行ってみてえのよ」


「一回行ったら戻ってこれないだろうに」


「だから、地獄さは困る」


 たしかに。俺も思わず微笑む。練気言祝、縦拳、縦拳、肘打ち。


「今の肘打ちは、当たったら痛そうだ」


 最後の肘打ちは、当たっていればクリーンヒットだろう。踏み込んだ時の足の音が違った。左足がズッキーンと痛んだ。うまくいくと、すぐこれだ。この痛みだ。すこし、休憩して仕事にもどろう。俺は、シャツの裾で汗を拭った。


「ところで、ケンの夢はなんだ」


「夢はない」


「一つもか」


「夢は見ない主義なんだ。ところで、この教会は、どんな神様なんだ」


「おめえ、そんなことも知らねえのか」


「知らんよ」


「ったくよ、どこの田舎者だ。光の女神様に決まってんだろ。まさかオメエ、教会に一度も行ったことがねえとか言わねえよな」


「一回、行ったけど、気持ち悪くなった」


「悔い改めろ。そんでねえと、地獄行きだぞ」


「神様は、一人?」


「当たり前だ。神様が一人じゃなかったら、世界は、二つ以上に分裂しちまうじゃねえか」


「でも光の神なら、闇の神がいてもおかしくないだろう」


「そういう風に信じている信者もいるらしいけど、オラは眉唾だと思うね」


「どうして」


「闇の神様と光の女神様は、コインの裏表だ。だから、一人で問題ねえのよ」


 なるほど、それは面白い解釈だ。


「教会のことはずいぶんと詳しいんだな」


「まあ、それなりに詳しいぞ。アレッシアの受け売りだけどな」


 まんざらでもないという顔をして笑った。


「アレッシアさんの詩唱官って、どういう仕事なんだ」


「なんだ、おめえ、アレッシアさんに惚れたか」


「いやいや、惚れたとかじゃなく、詩唱官という役職が何なのか興味がわいたんで」


「詩唱官ってのはな、神聖教会の説教で使う音楽や詩を奏で、朗読する官職のことだ。アレッシアさんも勉強さえできれば神聖魔術が使えるようになるとオラは睨んでいるんだ」


 勉強さえできれば、という表現は、勉強する機会がないのか、それとも学習する才能がないのか、どっちだろう。さすがに才能がないのかとは聞けないので、話題を変えよう。


「神聖魔術って見たことある」


「あるさ。昔、大怪我を負った冒険者が担ぎ込まれてきて、司教様が呪文を唱えると、みるみる傷口が塞がっていって、それまで精気のない顔に、血の気がもどってきたんだ。まあ、あれが奇跡っていうんだな。ただな。ここだけの話だがな」


 オットーリオが、悪そうな顔をして近くに来いと手招きした。



****


 ここまでで新しく覚えた技。


 前蹴り 

蹴り技の一つ。

相手の攻撃の出鼻をくじくのに有効。

相手との間合いを切るのにも有効。

比較的与えるダメージは小さい。

外部破壊。


 足払い

蹴り技の一つ。

相手の体勢を崩すのに有効。

与えるダメージは小さい。

外部破壊

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