第28話 噂
オットーリオは、声を潜めて言った。
「アレッシアと今の司祭は、折り合いが悪い。本来なら、司祭が神聖魔術を教授するらしいんだが、あれやこれやと文句を言ってアレッシアに教えようとしないらしいだ」
「それは、大変だ」
つまり、勉強する機会が与えられなかったということだ。うかつなことを言わないで良かった。
「まあ、みんな大変だ。もしアレッシアがどうしても神聖魔術を学びたいなら、今の司祭が交代するまで我慢するか、おもいきって違う教会へ行くことを願い出るか」
「アレッシアの仕事に神聖魔術がどうしても必要なのかなあ。今でも十分、立派に働いているように見えるけど」
「やっぱり、信者の見る目が違うさ。どんなに初級の神聖魔術でも使えれば、なっ、信用したくもなるのが人情だろう」
まだ若いのに、老人みたいな事を言う。
「それにアレッシアには、教会の司祭や司教になって多くの人を救ってもらいてえ。そんで、あんなフィロンの馬鹿司祭なんて追い出してほしい」
「おっと、穏やかじゃないね」
「だから、だれにも言うな。そんなのがばれたら、何をされるかしれたもんじゃない」
「教会に立ち入り禁止とか」
「まさか、それぐらいで済めば良いよ。噂では、トリリオンっていうヤクザ者集団に襲われるっていう噂だ」
トリリオンはカネさえ払えばどんな仕事でもこなすという噂も確かにあるようだ。冒険ギルドとして取り締まらないのだろうか。
「前の司教様は良かった。優しく思いやりのある御方だったが、あれは駄目だ」
「そうはいっても、毎日一番前で司祭の話を聞いているじゃない」
「聞いてねえよ。オラは、光の女神様と一対一で話してえんだ。どうして、あんなカネの亡者と話す必要がある」
「ケチなのか」
「ケチだし、強欲だ。あんなのと話したって天国に行けるわけねえよ。だから早い内にフィロン司祭がいなくなってくれたほうが、アレッシアもうれしいはずだし、オラもうれしい。それにな、フィロン司祭は、元は司教だったそうだ。それも大司教に近い地位にいたらしい」
「ほう、面白い」
「中央で政治っていうのか、そういう争いに負けて、いっこ下の位に落ちて、こんな田舎に押し込められちまったらしい」
左遷人事ということか。その腹いせに、町の人をいじめるとはホントに嫌なヤツだ。
「オラ達にしたら、災難だ。神聖教会は、でっけえ組織だからさ、領主様さえ、あまり意見できねえ。やりたい放題さ」
「そんじゃ、ますます早くアレッシアに司祭になってほしいわけだ」
「まあ、アレッシアでなくてもいいけどな。まあ、早く替わってほしいというのが本音だ」
「どうやったら司祭になれるんだ」
「詩唱官、守門官、退魔官の三官が主要な地位で、この教会には退魔官はいねえが、三つをすべてを務めあげて、みんなに認められれば、助祭に上がれる。それから、司祭、司教、大司教、枢機卿、教皇と上り詰めていくわけだ。ただ、やっぱり神聖魔術を会得しなければ、助祭にはなれねえらしい」
「リースは、たしか守門官だったか」
「そうだ。司祭様の護衛、警護をする武官だ。なんでも、リースは、フィロンがへまをしてなければ、今頃は、助祭になっていたということだ」
「それは、つまり神聖魔術が使えるということじゃないか」
「だから、あの人を怒らさねえ方がいいぞ。ブロンズのおめえなんか、一発で、ブハーっだ」
オットーリオは、鼻から鼻血が吹き出すジェスチャーをした。
「そうかもな。でも、それならリースに神聖魔術を教われば良いんじゃないか」
「無理だ。リースは、司祭様の子飼いだ。教える訳ねえ。もし教えると言ったら、とんでもなく、高くつくに決まっている」
「いろいろ、教会で働くのも大変だな」
「そりゃあ、そうさ。だから、オラは、海で働いて、ちょっと教会に顔を出して、天国に連れて行ってもらうのが得だとおもってんだ」
「現金だな」
「そりゃあ、オメエ、みんな現金だろう」
俺とオットーリオはお互いの顔を見合って笑った。
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