第23話 はじめての依頼

 軽バンの上では、腕組をしてあぐらを掻いているホイットが遠くを見ていた。これは危険があれば、俺に知らせるというフォーメーションだ。


「よし、これで、中社2つ目の設置が完了だ」


 俺は、ホイットを見つめた。俺の心には二つの疑問が膨れ上がっていた。一つは、もしも、俺がこの世界の住人でないと知ったらホイットは、俺の事をどう思うだろうか。


 俺の本当を知ってほしいという思いと、知ってほしくないという思いが交差した。正直に言えば、異世界の人間だと言った瞬間、幽霊、宇宙人、神や悪魔を見るような目に変わってしまうのが怖かった。尊敬や崇拝の対象もごめんだし、害をなす者として迫害され命を狙われるのはもってのほかだ。


 二つ目は、俺が今どこにいるのか、知りたいということだ。地図は作っているが、今いる場所が、大陸なのか、半島なのか、島なのかさえ知らない。だが、ここで問題なのは、一つ目の疑問だ。今いる場所を知らないと告白することは、この世界の住人でないということを告白することとイコールではないだろうか。


 地図を作ってます、という人間が、ここがどこかも知らずに地図を作り始めるだろうか? すくなくとも自分の知っている土地、生まれ故郷を起点にするのではないだろうか。

 それでも、俺は勇気をだしてホイットに現在位置を尋ねた。


「バリースエイトといういくつかの島々からなる国の主要な島、本島だ」


 何の疑問も差し挟まずそれ以上何も聞いてこなかった。俺の氏素姓に関心はないようだ。二人の会話は、それ以上まったく弾まなかった。取りようによっては気まずい雰囲気になったようなものだったが、ホイットのこの返答に何故かほっとした。


 異世界の人間であることがばれなかったというおもいと、今いる場所、この世界で俺が冒険に出発した場所が勝手なイメージだがフィリピンみたいな国の島であることがわかったからだ。


「おーい、ホイット。助手席に乗って」


「どうした、ケン。今日は、もう仕事終わり」


 まだ、日は中天に差し掛かったぐらいだ。これまでなら昼食をとってから午後も仕事を続ける時間帯だ。俺は、かねてから決めていた計画を実行することにした。


「グランツルの冒険者ギルドに向かおうと思う」


 中社を設置できるようになると、生活に余裕が生まれた。


「冒険者ギルドの依頼を受けようと思う」


 もちろん、冒険者ギルドの依頼を受ける目的は、感謝ポイントをもらうためだ。ギルドの報酬と合わせて2重取りだ。俺はアクセルを踏みこんだ。


「まあ、ギルドの仕事を受けることは、いい選択だと思う」


「ただし、ブロンズクラスでは、きっとがっかりするような地味な仕事しかない」


「報酬はたしかに多いほうがいいけど、時間は掛けたくないんだ。地図を作るのが本業で、ギルドの仕事は、いうなれば副業だから」


「そうか、それなら良いが」


 すこし心配なのは、トリリオンの存在だ。あの夜以来、俺たちにちょっかいを出してくることはなかったが、グランツルに戻れば、何かしらの問題が再燃しないとも限らない。俺も、少しずつ腕を上げていると思うが、実戦経験はないし、できれば冒険者どうしのいざこざは避けたい。


 ホイットの意見を聞いてみると、窓の外の流れる景色を見て、微笑みながら「ほっとけば」と言った。余裕なのか、無頓着なのか。


 何れにせよ、この近くにある冒険者ギルドの施設は、グランツルにしかない。最悪の場合を想定しながらも夜通し走って、グランツルに戻ってきた。


 朝もやの立ち込めるなか、軽バンを途中で降り、歩いて、グランツルに入った。冒険者ギルドの建物を目指す。今回は、完全白衣は着ないことにした。あれは、悪目立ちしすぎる。少なくとも街の中では無用と判断した。ホイットもいる。そのかわり、矛盾グローブと無重力シューズはレンタルした。


 矛盾グローブとは、手首まで覆うタイプの革の手袋だ。外から強い力が加わると、鉄のように硬化する。衝撃はあるていど伝わってくるが、だいぶ軽減されるらしい。さらに受けた衝撃を蓄積しておいて、好きなタイミングで手の平から放出できるという機能がある。まさしく攻防一体のグッズだ。ただし、指先まで革なので、細かい作業をするのには向かない仕様だ。


 無重力シューズは、足首まで固定できるハイカットタイプの登山靴のような見た目だ。つま先は鉄板でも入っているようで硬く、靴底も厚い。それでいて履くと軽い。まったく見た目と使用感が真逆なのだ。垂直の壁に立つことが出来るらしいが、その吸着効果はまだ試していない。


 ギルドに入ると、受付にコンソラータが座って書類を読んでいた。ギルドの中には、俺たち以外まだだれもやってきていなかった。ホイットが、コンソラータに話しかけると、コンソラータは、顔を上げ、はっとした表情をして、左右を見回した。


「久しぶりね、コンソラータ」


「心配しましたよ、ホイットさん」


「どうして?」


「だって、あの夜、トリリオンに襲われたって、噂が立っていますよ」


「ああ、たしかに襲われた。だが、トリリオンかどうかは確認していない」


「ギルド長がカンカンで」


「私達が悪いわけじゃない」


「当たり前です。トリリオンにカンカンなんですよ」


「ところで。私達にできる仕事を回してほしい」


 コンソラータは、俺の顔を初めて見て、ため息をついた。


「ギルドの決まりでブロンズの仕事しか斡旋できませんよ」


「もちろん知っている。それを頼む」


「本気ですか、プラチナのホイットさんが、」


「コンソラータ、」


 ホイットが、笑顔でコンソラータを睨んだ。


「すみません、言い過ぎました」


 コンソラータは、掲示板のところに近づいて、そこに掲示されている用紙をむしり取った。


「今、紹介できるのは、薪割りしかありません」といって、その用紙を俺に差し出した。



****


 ここまでで新しく覚えた技。


 寸勁 

打ち技の一つ。接触からの攻撃。

気防御透過、内外破壊。

クリーンヒットで大ダメージ


 肘打ち 

打ち技の一つ。至近距離からの打ち技。

比較的威力は高い。

内部破壊


 払い 

相手の攻撃を払い防御する技。

カウンターで決まると、相手にも少量の

ダメージを与えることができる。

内外破壊

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