第24話 神聖教会
俺は、うれしそうに言った。
「ありがとう。その薪割りでお願いします」
コンソラータが、残念そうな表情を浮かべて俺を見た。
「余計なお世話ですけど、ホイットさんもご存じですよね、この依頼、割に合わないので皆さん引き受けないんです」
「まあな。でもウチのリーダーがやるというなら、やるさ」
まあ、コンソラータが残念がる気持ちはわかる。一番階級の高いホイットが一番階級の低い仕事に甘んじなければならない残念さは理解できる。俺は、コンソラータににっこり微笑んで「すみません」といった。
折角ここまで来たんだから、仕事は受けたい。ブロンズクラスの俺が引き受けられるのが、これしかないなら引き受けるしかない。
薪割りの依頼主は、グランツル教会の司祭だ。毎年、この時期になると冬を越すための依頼をだすらしい。不人気な理由は、料金の安さと人使いの荒さらしい。
ギルドを出て、教会に向かう。漁師達が、朝の荷揚げを終えたのだろう、酒と食事を出す食堂に向かう者たちや広場で数人ずつグループを作り酒のビンをもって楽しそうにたむろしていたりしている。
依頼主である教会の建物は、ヨーロッパの各地にあるような石造りの立派なものだった。入り口の前に、門番らしき男がドアの脇で腕を組んで壁に寄りかかっていた。
「ギルドから依頼を受けたものですが」
門番らしき男は、ギロリと俺たちをにらみ、ここで待っていろと言って、ドアの中に入っていった。男は、戻ってくると「ついて来い」と言って教会の中に入って行った。
案内された場所は、教会の裏庭だ。かつては花や野菜など植えていたのだろう。今は、その名残が残っているだけで、雑草だけが生い茂っていた。
敷地の隅に納屋があり、その扉は開かれたままで、かつて使われていた畑仕事の道具やら肥料やらがほぼ朽ち果てた状態で捨て置かれていた。その納屋の脇に薪が山積みされていた。背の高さよりも高い。
「これ全部。1日では終わらないですよ」
「これだけじゃねえ。まだ運び切れない薪がジジェット村で積まれたままだから、それも運び入れて割ってもらわねえと」
「ちょっと話が違う。薪割りとは聞いているが、薪の搬入とかは依頼されていない」
「それは、そっちの手違いじゃねえか。こちらは、そういう依頼をしていたんだ。シノゴの言わずやれ。ちなみに去年は、7、8日ぐらい掛かっていたな」
男は、ニヤリと微笑んだ。嫌みな野郎だ。
「ああ、そうそう、あの掘っ建て小屋で寝泊まりして良いぞ。それと、教会の飯で良ければ、朝昼晩、三食は出す。俺は守門官のリース。あんたらの飯は、詩唱官のアレッシアが手配してくれるはずだ」
そう言うとリースは、「よろしくな」と言って去っていった。俺は空を仰いだ。
「なるほど、これでは、依頼を受ける人がいないわけだ」
ホイットが腕まくりをした。
「さあ、やろう」
白い二の腕が艶やかしい。斧が一丁だけ薪割り台に突き刺さっていた。俺は斧を抜き取った。ホイットが、薪を薪割り台にセットしてくる。俺は、思いっきり斧を振り下ろす。
一時間ほどで汗だくになり、背中と腰が悲鳴を上げた。薪の山はほとんど減っていない。
「交代しよう」
ホイットは、テンポよく薪を割っていく。汗ひとつかかず、涼しい顔のまま一時間が過ぎた。薪をセットする俺の方が声を上げた。
「どうして、どうしてそんなに、早く」
「私の魔術は、身体強化だというのを忘れたの」
背後から突然声をかけられた。
「ご苦労様です」
ホイットは察していたようで、平然とした態度で、「こんにちは」と挨拶を返した。教会建物の裏庭に出る扉のところに女性が立っていた。薄灰黒のワンピースに、薄灰黒のベールをかぶった20歳後半とおぼしき清楚な美人だ。
「私は、詩唱官をしておりますアレッシアです。皆様の食事と寝るところなどお世話をするようにとのことですので、何かお困りの事がありましたら、どうぞお申し付けください」
「ありがとうございます。寝るところは、自分たちで確保しますから大丈夫です」
ちょっと周りをみると、雑草は生い茂っているが軽バン一台を駐車しておけるスペースはある。はっきり言ってあの納屋で休むより、ポイントは掛かってもワンルームで寝た方がいい。ただし、食事は御相伴にあずかろう。
「ところで、ジジェット村は、どの辺にある村でしょうか。残りの薪が集められているそうですが、」
「はい、ジジェット村は、ここから、南東に少しいったところにある7世帯が住む小さな村です。牧畜と農業が主な産業で、森に囲まれた村なので、自然は綺麗です。この春、子羊が8頭、仔牛も3頭も生まれて、今頃大騒ぎしているでしょうね。皆さん気の優しく、すこしおっとりした人たちなんです。荷馬車でいけば2日で到着できるでしょう。荷馬車は、こちらで用意できますので、準備が出来たらお声をかけてください」
「大丈夫です。荷馬車もこちらで準備しますので、お気遣いなく」
「でも、それじゃ、持ち出しになってしまいませんか」
「気にしないでください。そのほうが簡単なんですよ」
「そう、ですか」
「それにしても、村についてずいぶんとお詳しいのですね」
「あ、ええ。私の生まれ故郷なんです。村長は私の父でして」
そういうとアレッシアは、照れ笑いを浮かべた。
「村からこちらに出てこられて、教会に入ったのですか」
「ええ、そうです。教会で働くのが夢でした。このあたりで教会と言えば、この教会しかありませんし、ここで働けるのは、一つ夢が叶ったようなものなのです」
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