第34話
「意外と良いスタートだよな?」
「ミーティアにしては、ね。他の馬だったら巻き返すのは難しいんだよ?」
出遅れたと言っても、後方の馬から3、4馬身程度だ。すぐに麗華は後方の馬の真後ろに付けようと追い始めた。
『さあ、先頭を窺うのは3番バンジロウペイン。外から5番グスターボワイも行きます。3馬身ほど離れまして12番ツンベルギア、8番ハチヤマノシタエルなどが追走』
「このメンバーなら実力では負けないだろうけど、あとは麗華の腕とミーティアの気分次第かな」
「気分って……ほぼ運ゲーじゃねえかよ」
「ハハハ! なんかロマンがあって面白いじゃん!」
運ゲー要素がプンプンするミーティアのレースをイオはかなり面白がっているようだった。
まあお前が乗ってるわけじゃないから面白がれるのかもしれないけどな。ミーティアにもきっちり稼いでもらわないと、牧場を繁栄させていくのは難しい。今は所有馬が少ないからな。
『……1馬身ほど空きまして10番インジウムモココ、その直後に1番ミヤビミーティアです。今回もミヤビミーティアは最後尾。ここからどのような競馬を見せるのでしょうか。先頭は残り1600メートルのハロン棒を通過したところです』
「よし……なんとか大人しく走ってくれてるな」
「イオの言う通り、他の馬の真後ろに付けてたら集中して走ってくれてるみたいだね……イオもよくそんなところに気が付いたよね?」
「へへへ……これでもトップジョッキーの端くれだからね」
麗華はイオのアドバイス通りにレースを進めていた。ミーティアも珍しく真面目に走ってくれているので、今のところ安心してレースを観戦できていた。
『先頭は5番グスターボワイ、その直後に3番バンジロウペインです。先行集団とのリードは3馬身から4馬身ほど………』
座席に設けられているモニターでレースを観戦していた俺は、あることに気が付いた。
「そういえば中森ジョッキーとか、そういう一流ジョッキーはこういうレースに騎乗しないのか?」
重賞レースで見たことのあるジョッキーはこのレースに騎乗していなかったのだ。
「そりゃトップジョッキーは重賞レースに出るだけで忙しいからね。同じ時間帯にいくつものレースが開催されるから、こういう下のクラスで騎乗することは滅多にないかな」
「賞金を稼ぐためにはレースの取捨選択を行うのが当たり前なのか……って、そういやイオはこんなところで観戦していて良いのか? 別に時間が空いているなら他の馬に乗ることは構わないんだぞ?」
「ウチはただ楽しむためにDHOをやってるだけだからねー。お金をとことん稼ぎたいなら他の人みたいにたくさんレースで騎乗しないといけないんだろうけど、生憎お金には困ってないからね」
「そんなセリフ言ってみてえわ!」
何なのお金に困ってないって? フリーターの俺はヒイヒイ言いながら毎月その場しのぎの生活をしているというのに。
俺がイオのような能力を持っているなら、睡眠時間を削ってでもレースに出るだろう。
「まあイオが良いっていうなら俺はとやかくいう気はないけど……イオに乗って欲しいっていう馬主や調教師も多いんじゃないか?」
「気が向いたら騎乗依頼を受けるから大丈夫だよー」
そうして話していると、先頭の馬は残り800メートルのハロン棒を通過していた。
『さあ、そろそろ後続も動き始めるころでしょうか。後方インジウムモココも位置取りを徐々に上げてきました。それに続くようにミヤビミーティアも上がってくる!』
「イオの考えだと、ああやって他の馬の後ろに付くのはいつまでだ?」
「できればゴールギリギリまで他の馬の後ろに付けていたいんだよね……集中が切れると何をしでかすか分からないでしょ?」
「確かにな……あいつ、何考えてるかわからないし」
俺とイオがミーティアの位置取りについて話していると、愛子はミーティアの癖について補足説明をしてくれる。
「先頭に立って周りに馬がいなくなると集中が切れる癖を『ソラ』って言うんだよ。ソラを使って差された、みたいに使うかな」
「へえ……その癖って結構珍しいのか?」
「DHOだとそんなに珍しくもないかな……だからこそ、ジョッキーの仕掛けるタイミングもそういう点を考慮しないといけないんだって」
『さあ、先頭集団が最後の直線に向いた! 残りおよそ500メートル! ミヤビミーティアはまだ仕掛けないか! インジウムモココの後ろでじっと脚を溜めています! 先頭はグスターボワイ、バンジロウペインの叩き合い! そこに8番ハチヤマノシタエルや12番ツンベルギアもやってきている!』
先頭が最後の直線に向いたタイミングで、各馬は一斉に仕掛け始めた。
麗華はインジウムモココの後ろにピッタリとついていくような競馬をしている。
「どこで仕掛けるんだ……? 見てるとハラハラしてくるぞ」
「そう焦らないでよー。ウチのアドバイス通りに麗華が乗ってくれたら負ける訳がないレースなんだから」
イオは自信満々にそう言ったが、直線を向いても仕掛ける様子がない麗華を見ていると、馬主の俺としては不安になってくるのだ。
『後ろから18番ミーピリア、さらには10番インジウムモココもやってきた! 1番人気ミヤビミーティアもようやくそれに続くように位置取りを上げてきました! 残りおよそ300メートル! しかし先頭まではまだ距離がある! 後ろの馬は届くか!?』
「……来るよ」
イオがそう呟いたと同時に、麗華の手が少し動いた。おそらく、400メートルから350メートルあたりで仕掛ける作戦だったのだろう。
まだ本格的に追い始めていないと言うのに、他の馬を置き去るようにスーっと先行集団に近づいていく。
「よし! 来た!」
その様子を見て、俺は興奮気味にガッツポーズした。真面目に走れば勝利は間違いないはずだ。
『馬群の中央から1番ミヤビミーティアがすごい加速でやってきた! あっという間に先行集団に追いつきました! 残り200メートルですが、この加速があれば十分でしょう!』
馬場の中央を突き抜けるような加速に、レースを見ていた観客たちからざわめきが起こっていた。
麗華はまだ本格的に追う様子は見せていない。手綱を持ったまま、悠々とミーティアを走らせていた。
「あまり追いすぎると早めに抜いちゃうのか?」
「そういうこと。下のグレードのレースだとそのあたりの調整が難しそうだね」
『残り100メートル! ここでミヤビミーティアが先頭に並んで……あっという間に差し切りました! まさに殿一気! ミヤビミーティア、今1着でゴールイン!』
2歳1勝クラスというあまり格式の高くないレースだったが、ミーティアと麗華のコンビとしては、今までで1番という出来のレースを見せてくれた。
うまぬし! フルダイブ型競馬シミュレーションゲーム『DHO』で最強オーナーを目指す! まぐな @arstagram_125
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