第33話
時間は進んで8時を少しまわった頃。
グレイスの三冠レース2戦目、ダロメザゴンステークスの観戦を終えて俺たち4人は柏原厩舎に集まっていた。
「これで新馬戦から7連勝……グレイスってかなりの化け物なんじゃないか?」
ラグーズ競馬場で行われたGⅡシャカメトカップ、GⅠドルプヘガルト賞を完勝したグレイスは、先ほど行われたダロメザゴンステークスでも圧巻の走りを見せて連勝記録をどんどん伸ばしたのだった。
「やっぱりウチの騎乗技術が光ってたでしょ?」
「さあ? 俺にはよくわからん」
「そこは素直に褒めてよ!?」
そんなこと言ったって他のジョッキーとどう違うのか、素人の俺からするとよく分からないというのが現実だ。
まあ、コース取りや騎乗が上手だからこうやってグレイスの連勝記録を伸ばせているということだろうか。
「ほら、麗華も頑張らないとだよ?」
「分かってるよ。今回から1勝クラスでしょ? きちんと走らせれば負けることはないはずだから頑張るよ」
麗華はメラメラと闘志を燃やすような、やる気に満ち溢れた表情をしていた。イオとグレイスのレースに感化されたのだろう。
そんな麗華の様子を見て、イオは色々アドバイスを伝えた。
「昨日のレースで気になったんだけど、他の馬の真後ろを走っている時は集中している感じがしなかった?」
「え……? よく覚えていないけど……たしかに、新馬戦の時はポツンと1頭で走っていたよね……。それに比べたら昨日は割と走ってくれたかも」
「ちょっとした暴走はあったけどな」
昨日のオープン戦、フィンタワーステークスでは、レース途中でかかってしまい位置取りを勝手に上げてしまった。ただ、最後の直線でわずかに発生したスペースをなんとかこじ開けようとする姿からしても、意外と勝利に対する気持ちは強いのかもしれない。
暴れん坊な性格はどうにかしてほしいところだけどな。
「スタートは少し遅れても良いから、すぐに他の馬の後ろに入るイメージで良いと思うよ?」
「分かった! よし、今回こそは真面目に走らせられるように頑張る!」
イオのアドバイスを受けた麗華は一足先に競馬場に移動していった。
「麗華のやる気が戻って良かったな」
「本当だよ。昨日のレースで落馬してから若干落ち込み気味だったからね」
「俺たちもそのやる気に応えて応援しないとな」
そうして俺たちは2歳1勝クラスのレースが行われるドノティス競馬場に向かうことになった。
◇◇◇
『ドノティス競馬場、2歳1勝クラス芝2000メートルは間もなく出走です。1番人気は1枠1番ミヤビミーティア。前走のオープン戦ではゴール前の落馬がありました。今回こそ、勝利を積み重ねたいというところでしょう』
「また1番人気なんだな。人気に応えて欲しいけど……」
「麗華もやる気満々だったしきっと大丈夫でしょ」
俺はゲート前でスタートの準備が行われている間、愛子やイオとそんな話をしていた。
「コーナーは直線に入る前に一つしかないし、意外と集中して走るんじゃないかなー?」
「もしイオがミーティアに乗ることになったら、乗りこなす自信はあるか?」
「うーんどうだろ? 乗って見なきゃ分からないけど……何? ウチが乗れって話?」
「違うよ。あんな暴れん坊でもジョッキーによっては真面目に走ってくれるものなのかと思ってな」
「大事なのはミーティアと走った経験じゃないかなー。多分、違うジョッキーに乗り替わりになっても、初回からまともに走らせることが出来る人はほとんどいないと思うよ?」
それ以前に、あんな馬に乗りたがるジョッキーが果たしているのかどうかだよな。
その後、出走を合図するファンファーレが場内に鳴り響いた。
ドノティス競馬場は三又のような形をしている競馬場なので、スタンド前を馬が走るのは最後の競り合いしかない。
この直線に向いた時、はたしてミーティアがどの位置取りでレースを進めているかがカギになりそうだ。
『2歳1勝クラス、1枠1番のミヤビミーティアが少しゲートインを拒むような仕草を見せています。これは少々時間がかかるでしょうか……』
「……おい。ゲートの練習ってさせていないのか?」
「いや、設定している調教の8割がゲート練習なんだからね? 私もあんな性格の子を預かるのは初めてだから試行錯誤なんだから」
ゲートインを嫌がるミーティアを見て、昨日の新馬戦で大きく出遅れたことを思い出す。
調教師の愛子としても、ミーティアはなかなか苦労する馬らしい。
『ようやくミヤビミーティアがゲートに入りました。そのほかの馬も着々とゲートインを済ませていきます』
「あれ? 意外と嫌がる時間が短かったな」
「調教の成果が出たなら良いんだけどね……」
『さあ、大外枠18番ミーピリアがゲートに収まって態勢完了! ゲートが開いてスタートしました! やはり1番ミヤビミーティア、少しスタートが遅れてしまいました』
ミーティアのゲート練習は、まだまだ必要なようだった。
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