第16話 こいねがう




 未亜は小粒抹茶チョコを、崇は三個入りの小さなシュワシュワサイダー飴を、晴城はサラダ味のスナック菓子を駄菓子屋で買って、駄菓子屋の奥の部屋、交流場になっている畳部屋で三人が向かい合って座ると、早速それぞれ買った駄菓子を三等分にして食べながら学校や家のことを話す中、未亜は夢の話をしようかどうしようか、迷った。


 ただの夢の話だ。

 けれど、悲しい夢の話だ。




 吸血鬼を救うために、九尾の妖狐はほとんどの妖力を、人魚は泡になる時に流すという涙をそれぞれあの方に差し出して、離れ離れになってしまった、悲しい夢。


 出会えたのだろうか。

 未亜は出会えていたらいいと願った。

 そして今度こそ、悲しい結末ではなく、幸せな結末であってほしかった。

 吸血鬼も九尾の妖狐も人魚も。

 みんなみんな幸せになる結末。




(んーでも私は。私も。あの方と同じで、運命の人は一人だって考えで。もし、吸血鬼、九尾の妖狐、人魚の中で誰かが、その考えだったら、みんなが幸せにはなれない。の、か、なあ)


 例えば。

 例えばの話だ。

 私が兄さんにも晴城さんにも恋をしたら。


「未亜。どうしたんですか?」

「伊藤さん、思い出し笑いかい?」

「ん。んーうん。そう」


 未亜は立ち上がると、今度は意識して笑ってお店の方へと向かった。

 わたがしを買って三人で食べようと思ったのだが、気付けばトマトジュースを買っていたのだ。あれっと首を傾げつつも健康的でいいかと思い直して、紙コップに三等分して三人で飲んだのであった。










 もし。

 もしも。

 私が兄さんにも晴城さんにも恋をしたら。

 だから?

 恋をしたからってどうした?


 兄さんと晴城さんが恋人になれるようにいっぱい応援するだろう。

 助けてくれた、からじゃなくて。

 大切だから。

 恋をした人だから。

 めいっぱい幸せになってほしい。

 めいっぱい甘えてほしい。


(甘え下手の兄さんが選んだんだもの。晴城さんを運命の相手だって)


 だから、応援する、の一択。

 これが私の恋の成就方法だったのに。






 私も運命の相手だなんて、言わないでよ。











(2023.5.21)



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碧桜~兄からホストを引き離したいのですが!?~ 藤泉都理 @fujitori

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