【開かずのプレゼント】3
次の日、朝一番といったように依頼人である彼女が来店された。
店の看板が『close』になっているにもかかわらず堂々とこちらに向かってくる。
「おはようございます。パズル解けましたよ。」
「マジ?助かるわーマジありがとー!」
朝からよくそんな大声を出せるなと思いながら私は彼女にパズルを渡す。
「最後にそこを押せばパズルは解かれます。私は中身を見ていませんので何が出るかはわかりませんが。」
「え、それだいじょぶ?開かなかったりしないよね?」
「はい、おそらくは……それにプレゼントはもらった人が開けないと楽しみが減ってしまいますので。」
「うわー、店員さんマジ優しいじゃん。じゃ、開けさしてもらうねー。」
彼女が最後の一手を押し入れると箱は四角の形に戻り鍵が外れるようなカチリという音がした。
開かずのプレゼントが開かれ、そこから彼女が一枚の紙を取り出したのが見てとれた。
おそらくは手紙だろう、彼女の顔つきは笑顔から真剣なものへと変化していた。
「ごめん店員さん。私、行かないと。」
またしても、彼女はこちらの返答など聞く耳など持たず店の扉を勢いよく開け走り去っていった。
残された私はただ見送ることしかできずにしばらく扉のほうを見つめていた。
――――――――――――――――
後日、二人の男女が店へ来店される。見覚えのある女性とその彼氏だった。
話によるとあの箱が開いたことがきっかけで結婚することになったらしい。
どうやら彼氏の方には夢がありそれに近づくために海外に飛ぼうとしていたのがあの日。
彼女を置いて夢を追うか、夢を諦めここに残るか、それを決断できずにあの箱を用意したのだと。
開けられれば自分は夢を諦める、開けられなければ海外へ飛ぶ。そんな重要な選択を彼女の誕生日プレゼントに託したのだとか。
なんとも身勝手な話であるが今のふたりはそれを感じさせないくらいには幸せそうだった。
なんでも結婚式の招待状までこちらへ送ってくれるらしい。
行くか行かないかはまた今度決めることにしよう。
たくさんの感謝の言葉を押し付けられながら、いちゃつきを見せられ私のお腹はいっぱいだ。
ちなみにあの紙には一言だけ、こう書かれていたらしい。
『結婚しよう。』
古美術堂ミズキ ~道具の声が聞こえる彼女は人の心を結んでいく~ 色彩 絵筆 @rasuku0120
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