114 カナリア無双
残念ながら、ヴァロはマリーにまだ告白できてない。デートすら誘えてなかった。
白状させられたヴァロは呆れ顔のエスコにムッとしてる。
「お前みたいに気軽にナンパできるかっての」
「俺のは数打ちゃ当たる方式だからなぁ」
「エスコは最初、僕にも声を掛けたもんね?」
「え、カナリアを女の子と間違えたってこと?」
サムエルが驚く。その純粋な視線に、エスコはたじたじだ。
「おい、止めろ。あれは俺の中で唯一の汚点だ」
「唯一なんだ?」
「カナリア、お前~」
「ヴァロをからかうからだよ」
「なんだよ、ヴァロのためにやり返したのか? お前ら仲が良いな」
「ふふん。僕はヴァロのプロデュースをしているからね」
「あぁ?」
「服屋さんと協力して、イケてる傭兵モデルを作ってるんだ~。万人にモテなくてもいい。ここぞって時や大事な人にモテるのが大事なんだよ。ヴァロは渋い系で攻めるんだ」
「俺はカナリアが何を言っているのかが分からん」
エスコが頭を振った。
サムエルは苦笑いだ。
「普段は口数の少ない渋い男が、照れた感じでデートに誘うと女の子はきゅんとくるらしいよ」
「なんでそんなこと知ってるんだよ。本当か?」
「リサーチしたもん」
「カナリア、あの子たちと仲良さげに話してると思ったら、そんなこと聞いてたのか。デートに誘ってるんじゃないかって、ミックがハラハラしてたぞ」
「ていうか、仲の良い女の子がいるくせに恋愛めいた話がないのかよ。枯れてんなぁ」
「サムエルだってお店情報聞き出してたもん。リサーチしてたのは僕だけじゃない」
エスコは溜息を吐いて、ヴァロを見た。
「お子様たちはまだまだだな。俺らがちょいと良いところを見せないと」
「良いところって、なんだよ」
「恋人がいると人生が素晴らしいってところだよ」
「偉そうに言うが、エスコもいないだろうが」
「俺はいつだって作れる。ただ、一人に絞れないんだ。みんなが俺を放っておかないのさ」
ヴァロは「けっ」と悪態をついた。分かる。エスコはキザだよね。
僕は手を叩いた。
「ヴァロを焚き付けるの禁止。順調に進んでるんだからね。邪魔したら怒るよ」
「お、おう」
「カナリアって強いよな。エスコさんって仮にも先輩だろ?」
「仮じゃねぇんだわ」
「先輩でも、僕は止めるよ」
「カナリアは怖いものナシだからな」
ヴァロが思い出したように言う。サムエルが首を傾げると、ヴァロは肩を竦めた。
「こいつ、王侯貴族関係なく説教するからな。詳しくは言えねぇけど、滅茶苦茶だよ。外交官の奴等が尊敬のまなざしで見てたしよ。なぁ、あれ、最後は勧誘されてただろ?」
「『文官から成り上がってみないか?』とは言われたね」
「ほらな。それに、あの女騎士」
「女性の騎士ね」
「そうそう。最初はカナリアを睨んでいたのに、王城で別れる時には『素晴らしい手腕だった』と褒めていただろ」
「おうじょ、じゃなくて、上司のお守りが大変だったみたい。旅の後半で愚痴られた」
ヴェルナ様を護衛していた女性騎士は、最初は僕の自由さに腹を立て、そのうち王女様を上手にいなす様子を見て羨ましくなったそう。
なんだかんだで最後は仲良くなった。彼女、実は可愛いもの好きだったのだ。今度、互いの休みの日に買い物へ行こうと約束している。
「垣根を越えてんだよ。怖いものナシはこれだからな」
「傭兵ギルドに来た時もそうだったな~」
「お、何の話だ?」
マヌおじさんがやってきた。レニタさんは呆れ顔で笑ってる。居酒屋でもこんな感じなんだろうな。
結局、話があっちこっちへ飛んで、みんなでワイワイと過ごした。
大変なはずの引っ越しは、楽しい一日となった。
そして改築はあっという間に始まり、何故か四階の部屋にも階段が付けられた。
レニタさんが「部屋が埋まりそうな気がする」と言い出したからだ。ルグさんは気前よく作ってしまった。
僕が彼の作品を愛用していると知って嬉しかったみたい。費用もすごく安くしてくれた。もちろん僕も手伝った。マヌおじさんもだ。レニタさんと二人きりにしてなるものかと、目論んだのかもしれない。
その後、庭の整備も手伝ってもらった。チロロの小屋は立派になった。最初は仮設テントだったからね。草花も植えて綺麗にすると愛着もわく。時々レニタさんが裏路地から庭に入って眺めているようだ。
そのうち、一階のお店からも出られるよう扉が作られるかもしれない。
女性騎士と可愛いもの巡りもした。それを知ったヴェルナ様が悔しさをアイナ様に語ったらしく、僕はまたも家にお呼ばれした。ヴェルナ様が待ち構えていて、なんだかんだと話を楽しんだ。
ヴェルナ様自身は可愛いものはあまり好きじゃないようだ。
盛り上がる僕とアイナ様を笑って見ているだけだった。
そのうち庭に出て騎鳥と遊ぼうってことになると途端に元気になる。
二人は王族と公爵家の子供だから気軽には乗れない。結局、僕がまた曲芸飛行を見せることになった。
ヴェルナ様は第一隊の近衛騎士たちにも覚えさせたいようで「たまにでいいから、指導に来てくれないか」と言い出す。
恐ろしい。
ライニオ団長に話を通すって言うけど、止めてください。
「あまり無茶を申してはカナリアが可哀想ですわ」
「む、そうか」
「アイナ様、さすが! ありがとうございます!」
「うふふ。わたくしたちのカナリアを取られるかもしれませんからね」
「え?」
「それはいけない。諦めるとしよう」
「ええ。ですから、カナリア?」
「あ、はい」
僕はよく分からないまま返事をした。アイナ様はにっこり笑顔だ。
「わたくしたちとも遊んでくださいね。先日も『マヌおじさんと森で遊ぶ約束があるので』と断りましたでしょう?」
「あー、はい。ヴァロと一緒に訓練がてら森に行ってました」
「サムエルさんともお出かけなさるとか」
「合同デートなら緊張しないって、友人のミックが言うもので」
「まあ、デートですの?」
「そうらしいですね。でも、女の子たちはオシャレなカフェに行きたくて誘いに乗ったんですよ。女の子だけだと不安らしくて。男はいいとこ見せたいから、ちょうどいいんじゃないのかな」
「他人事のようだが、カナリアには好きな
「いませんね~。ヴェルナ様は、って聞いていいのかな、これ」
アイナ様は苦笑い。ヴェルナ様の方は平然としてる。
「わたくしは国のために生きるゆえ、好きだなんだというのはない」
「そんなものですかー。でもどうせなら婚約者を好きになれるといいですね」
「ふむ。同志になれればよいと思っていたが、嫌いであるよりはよいのか」
「そうそう。互いに歩み寄る姿勢も大事です」
「お二人とも、達観してらっしゃいますのね。わたくしはできれば恋愛がしてみたいです」
「アイナであれば、相手を選べるであろう? 祖父殿の選んだ中からということになりそうだが」
「それが問題なのです」
頬に手をやり溜息を吐く。元公爵のお爺さんは孫ラブなのでいろいろと煩そう。
そういう意味では僕も、父さんが何か言いそうだ。母さんは「カナリアが好きになったのなら」とあっさり認めてくれる気がする。父さんはダメだね。
そういや、マヌおじさんに頼んで送った「若気の至り」である過去の魔道具が届いた時に「そっちに行こうかな」と連絡してきたっけ。母さんに呆れられたのかな。怒られたのかもしれない。
僕は首を振った。
アイナ様がお爺さんの過保護を愚痴っていたので、僕は提案してみた。
「これは絶対に譲れないってところを考えておくのはどうでしょう」
「たとえば、どのような?」
「アイナ様は騎鳥がお好きでしょう? 結婚しても騎鳥に乗っていいと言ってくれるような相手なら、楽に生きられると思いませんか」
アイナ様の目が輝いた。ヴェルナ様も目を見開く。
「素敵な考えだわ」
「わたくしも質問を考えるか。試金石としよう」
それから気分が上がったらしいアイナ様が僕に「面白い飛び方はありませんか」とリクエストした。
「あ、それなら、ヴァロが驚いた飛び方を披露します。マヌおじさんもビックリしたんですよ」
「まあ、伝説のアウェス乗りが!」
「それはすごい」
メイドさんや護衛たちもワクワク顔で見守る中、僕はチロロと空高く飛んだ。
そして急降下。互いの体が斜めに傾く。
地面すれすれを羽と手で触れて平行移動、からの急上昇だ。
わっと歓声が上がった。
「あれほど、まんまるなのに素早く飛べるなんて!」
「ああ。本当に素晴らしい騎鳥と乗り手だ」
二人の声が僕にも届いた。
僕は王都で小鳥ライダーと呼ばれるようになった。まんまるチロロは大人気で、人形やお菓子が作られるほどだ。ニーチェは滅多に顔を出さないからか、幸運の生き物扱い。
僕の可愛いもの好きも相変わらず知られている。
見回り中、紹介してもらえるぐらいにはね。
そして、どうにもならないような空に関わる事件が起きたら「小鳥ライダーに頼め」が合い言葉になった。
報酬にプラスして「可愛いもの」が付いてくる。
そのうちに父さんみたいな二つ名が付けられるんじゃないかって、ヴァロたちには言われてる。
すでに小鳥ライダーって言われてるのに、それ以上は嫌だよ。
でも最近なんだか「可愛い小鳥ライダー」と声を掛けられることが増えたような。
中二病じゃないからいっか。
とりあえず、僕は都会でなんとか暮らしてる。
望んだとおりの可愛いものに囲まれてね!
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ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
今の作業が落ち着いたら番外編を書くつもりです
可愛い小物の話やニーチェの冒険的な話もいいなと思ってます
よろしくお願いします
次の更新予定
毎週 火曜日 12:05 予定は変更される可能性があります
小鳥ライダーは都会で暮らしたい 小鳥屋エム @m_kotoriya
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