第7話 ミステリー系youtuber
【大正時代中頃】
江戸時代初期から続く、とある旅館は今と同じぐらいの大きさに成長していて、沢山の人が従業員として働いてました。この旅館は繋がりを大事にしているのでどんなに不景気だろうと本人の意思でない限り解雇という事はしてこなかったんです。
ある日、旅館に盗人が入りました。
盗まれたのは主人が大事にしている骨董品のお皿十枚の内の一枚。
盗みが入った翌朝、部屋の掃除にやってきた仲居さんがお皿が一枚足りない事を発見して大騒ぎになります。
残念な事に発見した仲居さんが疑われてしまったのです。さらに別の仲居さんが、風呂敷に包んだ粉々になったお皿の破片を持ってきたのです。
「私はやっていません」と何度も訴えている仲居さんを、主人は割ってしまった物は仕方ないと、お咎めは無かったのですが、主人を慕っている従業員達からは冷たい視線が向けられ続け、耐えられなくなり、ある日を境にその仲居さんは姿を消したのです。
そこからは満月の翌日、座布団が一枚・食器が一つ・サンダルが一足など、何かが一つ減っている事が続きました。
「その仲居さんがまた盗んでるんだ」「疑われた嫌がらせだ」と皆で交代して見張っている日が続きました。何も無くなっていない日には誰かが喧嘩して仕事どころではなくなったり。
主人が「気にしていない」とその仲居さんと会って話をしようと街中を皆で探し始めますが見つかりません。
ある日、旅館に使っていない井戸がある事を思い出した誰かが、まさかと思い、蓋を開けて中を覗くと・・・
その事を聞いた主人は仲居さんの葬式を盛大に、供養の為に残りの皿9枚を井戸に捨てて成仏を願いました。しかし、毎度満月の日に被害は続きました。そのまま時は経ち、知っている人達はいなくなり、噂程度になっていきました。
綺麗な風景・家族の思い出を記録に残そうと高価なカメラを買った人もたくさんいらっしゃると思います。
月日が経った頃に『懐かしい‼』とか、DVDやビデオテープにして遠くのおじいちゃん、おばあちゃんになんて事も。
今は誰もが持っていると言ってもいい携帯電話で気軽に写真や動画を撮影して、そのままデータを相手に送ってなんて時代になりました。
いや、これも古いですね。
今では知人にだけでなく不特定多数の人達に向けて、インターネットで投稿する事が主流になっています。
YouTuberってご存じですよね。
将来なりたい職業の上位に入っているほどの人気職業です。
元々は職業ではなかったのですが、動画に広告やCMを付けて広告収入をもらえます。
微々たるものですが、再生回数が増えれば人気者にもなれますし、一攫千金も夢ではない…といった感じです。
ここにもそれらを目当てに動画を撮っていた二人がいました。
「ニコメで~す」個性的な髪型の男
「ランで~す」金髪ショートで
『ニコメランで~す』
上から撮る様にビデオカメラを持ち上げて撮影している男二人組がいる。
「我々は今、某県某所の〇〇駅にやってきました~‼」
通行人の邪魔にならないように道の端で撮影をしている。
「今から行く旅館に、とある噂を聞きつけてやってきたのですが、本当なのかどうか検証したいと思います。どんな噂かは後ほどお話しします。では、早速その旅館に向かいましょう。まずはチェックインして夜までに準備をします」
旅館に着いた二人はチェックインをしに中へ入る。流石にビデオカメラは仕舞っている。
「ようこそお越しくださいました。こちらにご記入をお願いします」
おばあさんの仲居さんが迎えてくれた。
受付で記入をしながら「この旅館って、お化けが出るって聞いたんですけど・・・」
台帳をまとめながら「そういう噂は前からありましたけど、ここ最近お化け目的でお越しになられるお客様が多いですね」
「お部屋にご案内致します。渡と言います」と俺達は渡さんに付いて行った。
「本当に見たと言う人は私の知る限りおられませんねぇ、満月の日に出るなんて話なんですが、地形の関係で雲がよく出る場所なんです。晴れていてもすぐ天気が悪くなるみたいで、私も長年働いてますが話だけで実際見た事ないんです。まぁおかげでお客さんがいらしてくれるのでありがたいですが(笑)」
「こちらでございます」と部屋に案内され、「何かございましたらなんなりとお申し付け頂いて結構です。ごゆっくりおくつろぎ下さい」渡さんは戸を閉めて去って行った。
部屋は和室・男二人でも十分な広さ。窓の外に見えるのは
「あれが噂の井戸かぁ」ランが外を眺めながら呟いているのが聞こえて。
ビデオカメラを取り出し、準備しているニコメが「どれどれ?」と歩み寄ってきた。
二人の目の前には、有名なあの映画で出てきそうな井戸が佇んでいる。
「こんな目の前にあるのか?」ニコメがギョッとしている。
「井戸が見える部屋で予約したらまさかの目の前だなんてな」ランが窓際を離れて撮影準備の為に荷物を広げ始めた。
「さて、皆さん。旅館にやってまいりました。この部屋で夜に向けて準備しながら、どんな噂なのか。私、ランがお話しておきたいと思います」
ニコメがテーブルを挟んでランにビデオカメラを向けている。
「この旅館は江戸初期から続く老舗だそうで、最初は小さな宿屋だったんですが
代を継いでいく毎に少しづつ大きくなっていきました。途絶える事なく続いている事から
知る人ぞ知る 商売繁盛と細くても長い縁を結べるパワースポットとして今でも人気。
な・の・で・す・が
ある噂が出回った事でお客さんが少なくなっていき、物好きが泊まりに来ても
一度きりだそうです。
その噂と言うのが
『満月の日の丑の刻に井戸から仲居さんのお化けが現れて皿を数えます。九枚数えていき、最後に一枚足りない。返してぇ返してぇ。と・・・そして翌朝荷物の内の一つが無くなっている』っていう噂です。お化けが見れなくても、翌朝には荷物が無くなってるみたいです」
「付け足させて頂きますと」
「オヒョウ!?」急にさっきの渡さんが現れたので変な声を出してしまった。
「失礼致しました。お風呂は朝6時から夜中の11時までご利用いただけます。お食事はいつ頃お持ちいたしましょうか?」驚かせた事を謝りつつ伝え忘れた事を述べてきたので。
「あっ、と18時頃で?」ニコメと顔を合わせて
「かしこまりました」
「あの、さっきの付け足すとって?」ランが渡さんに聞き返した。
「はい、荷物が無くなる事もありますが、少しの間、お連れの方と仲が悪くなる事があるみたいです。喧嘩してお帰りになるお客様も見かける事がございます」
「へぇ~、物理的な物だけじゃなくて繋がりみたいなものも無くなっちゃうんですね。仲居さんの補足を頂きました。ありがとうございます」
「お邪魔致しました。それではお食事は18時頃にご用意致します」渡さんが戸を閉じて離れて行った。
『おねがいしま~す』渡さんに一声掛けて、ランとニコメは撮影を続ける。
「そのお化けが出るのが・・・」ランが席を立ち、窓へ向かう。「あの井戸です」
ニコメが外の井戸を撮影する。
「・・・・・・はい、OK」
ニコメが合図をしてビデオカメラの録画ボタンを止めた。
「ご飯まで2時間位あるから俺は風呂入ってくるけど?」ニコメがビデオカメラの充電をしながら「お前はどうする?」ランに問いかけると
「俺はちょっと準備してくから先行ってていいぞ」ランは5枚の封筒と金銭を広げた。
「何の準備?」
「ざっくり言うと、皿を十枚数えようとして九枚しかなくて、足りない分を返してぇ。で荷物が無くなるんだろ?各封筒に千円札・百円玉・五十円玉・十円玉・一円玉を十枚づつ入れておいて翌朝封筒のどれかが減っているかどうかを検証してみようかなと」
「終わらせてから風呂行こうぜ」ニコメとランは封筒にお金を入れて封をしていく。
カポーーーン
『あああぁぁぁ』二人は大浴場の湯船に浸かっている。
ニコメの個性的な髪形は見る影も無くなっていた。
部屋に戻って「良い湯だった~」二人でくつろいでいると
「失礼致します。お食事をお持ち致しました」渡さんではない別の仲居さんが食事を持ってきてくれた。
食事を済ませてニコメが窓際で夜風に当たっている
鈴虫の鳴き声が響き渡るのと満月が辺り一帯を明るく照らして秋の夜長に風情を出している。しかし、井戸には影が掛かってひと際不気味に見えてしまう。
「あれっ!?月が出てるぞ!!」話によると満月の日に、満月は雲に隠れてしまっているとあるが、快晴だった。
「今回は期待できそうだな」ランが窓際に三脚とカメラを井戸に向けてセットしている。
「寝坊しない様に早く寝るぞ」
「おお」
部屋の明かりを消して布団に入った二人は黙っている。早く寝る為に集中しているのだろうか、月明りでそんなに暗闇になっていない部屋を鈴虫の鳴き声が支配している。
VuVuVuVuVuVu・・・・
「ん~?」さっきまで鈴虫の鳴き声が聞こえていたと思ったらいつの間にか静寂の中スマホのバイブが鳴っていた。
時間は深夜2時5分の表示がされていた。
ニコメが起き上がるでもなく這う形で窓から外を覗き込むと曇りで満月が隠されてしまっていた。井戸も暗闇の中、存在感はあるがこれと言って変わりはない。
「・・・もうちょっと寝よ」
布団に戻ろうとすると何か音が聞こえた。
「!?」耳を澄ますと
―――シクシク。
女性の泣き声に聞こえる。まさかと思い井戸を見返すとそこには、今さっきは無かったのに白くモヤモヤしたものが見える。
―――違います。私じゃない。
よく見ると女性の姿に見えてきた。仲居さんの幽霊だ。
ニコメは隣の布団で寝ているランを急いで起こしにかかった。
「隆史、隆史!!」起こしつつ、ビデオカメラの録画ボタンを押す。「隆史、起きろ。出た」
「う~ん」ランは寝ぼけている。
「隆史!!出たぞ、早く起きろ」
「ふぁぁ~」あくびをしながら窓際までやってきたランの目が一気に覚めた。「今何時!?」
「丑の刻!!丑の刻!!丑の刻!!」
「丑の刻って何時だよ!?」
「2時だよ!2時!2時!2時!!!」
二人共意識がハッキリしてきたのか逆に興奮して落ち着きが無くなってきた。
そうこうしている間に幽霊が皿の枚数を数え始めていた。
―――5枚、6枚、7枚、8枚。
次だと二人が黙って聞き耳を立てている。
―――9枚、10枚・・・
仲居さんの幽霊はスーーーっと白いモヤモヤになって消えていった。
雲が晴れていき、満月の光が井戸を照らした。さっきまでおどろおどろしかった雰囲気が漂っていた井戸はなく、浄化されたような明るさに見えた。
二人は寝る事も無くそのまま朝まで井戸を前にして興奮が冷め止まなかった。
チェックアウトしながら、『ありがとうございました』「良かったです」とお礼を言いながら旅館を出ると渡さんが掃き掃除をしていた。
『お世話になりました』挨拶をしながら門を出て駅へ向かう二人に渡りさんも
「こちらこそありがとうございました」と深々と頭を下げて二人を見送った。
「成仏させていただいて」
ニコメが何か聞こえたのか旅館の方を振り返ると、渡さんの姿はなく、門に竹箒が立てかけてあった。
【大正時代中頃】
旅館に盗みに入ったのはお皿の破片を風呂敷に包んで持ってきた仲居さんの旦那と言う事が葬式の後に分かった。
仲居さんが手引きして別の皿の破片を用意して濡れ衣を着せて、盗んだ皿は売ったとの事だった。
「こんな事になるなんて」と深く反省して渡さんの遺影に向かって泣き崩れていた。
旅館として初めての解雇となった。
帰宅したランが荷物を片付けているとお金の入った封筒が出てきた。
「そういえばお金は減っているのかな?」と確認してみた。
千円と百円は減っていなかったが合計で・・・・・
この事をニコメに伝えようとしたらニコメから「編集してたら何も映ってない、俺達の騒いでる声だけ」との連絡が来たからこっちも「72円減ってた」
数珠つなぎ こころもち @KitagawaAkira
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