第20話

 僕は二階へ上がり、今日の出来事を、日記につけた。毎日、日記を書くわけではない。けれど、こんなステキなことは書かずにはいられない。もちろん、夕べのことも、サンタに出会った事も、すでに書き残してある。とても重要で、大切な想い出として、いつまでも色あせない宝物なのだから。大人になった自分が、きっとこれを読み返す日が来るだろう。そして、僕の大切な仲間、内野と山田と語り合うことができる。日記の最後には『信じることが大切だ』の文字を記した。これはサンタの言葉でもあり、僕ら三人の合言葉のようなもの。


「お兄ちゃーん」

 麻里が階下から僕を呼んだ。日記に夢中で、時間が経ったことに気付かなかった。机の時計を見ると、三時半を過ぎていた。

「今行くよ」

 きっと、チキンを取に行かされるのだろう。下へ入りていくと、思った通り、父さんは、いびきをかいてよく眠っている。

「賢ちゃん、悪いんだけど……」

「いいよ。チキンだろう? 行ってくるよ」

 さすがに、二回目のお使いを頼むのは気が引けたようで、母さんはすまなそうな顔をした。

「じゃ、お願いね」

 チキンはフライドチキン専門店として人気のある店で頼んである。やはり、この店も、五十海いかるみ方面で、ケーキ屋よりは近くにある。この季節が一番忙しくて、店内は人でごった返しだ。予約票を持っている人たちの列まである。予約していない人なんて、三時間待ちだという張り出しが出ていた。そういう人たちは、注文してから、三時間後に取りに来るらしい。並んで十分、ようやくチキンを手にすることができた。まったく、めんどうだ。しかし、確かにここのチキンはおいしい。これを食べるためなら、待つことも仕方ないと思えるのだろう。店から出るのに、人ごみをかき分けなければならなかった。

 揚げたてのチキンは本当においしそうだ。匂いを嗅いだだけで、もう僕のお腹が催促の音を鳴らした。昼を食べてから、そんなに時間は経っていないのに。


「待っていたのよ」

 またしても麻里が玄関で待ち構えていた。

「チキンをだろ」

「まあ、そんなこと……。もちろんお兄ちゃんを待っていたのよ。外は寒かった?」

「いや、それほどでもないよ」

 やはり、麻里はチキンを持ってリビングへ行った。もう料理がテーブルいっぱいに並べられ、チキンをそこへ並べるとパーティの始まりだ。父さんはソファーにはいなかった。いつの間に起きたんだろう?

「メリークリスマス」

 そう言ってサンタ服を来た父さんがキッチンの横のドアから入って来た。

「似合ってるわよ。そのお腹の出具合なんかいい感じだわ」

 母さんは父さんが気にしていることをこうもさらりと言ってしまう。悪気がないから許してねとよく言うが、本当にそうだろうか?

「さあ、パパ。サンタはそれぐらいにして、食べましょうよ」

「そうよ、チキンが冷めちゃうわ」

 この二人はよく似ている。振り回されるのはいつも僕と父さんだ。

「そうだな。腹も減ったし。チキンうまそうだなぁ」

「他の料理のことも気にしてよね。朝から私がどれだけ頑張ったと思うの?」

 母さんが言う料理とは、野菜をブイヨンで煮込んだスープと、ポテトサラダに、グラタン。それと、魚のオーブン焼きのことだ。四人で食べるには多すぎるように思えるが……。

「ああ、この魚うまそうだな」

 多少無理して褒めているのが見て取れる。

「あら、本当にそう思っているの?」

 母さんには見透かされてしまったようだ。だが、今日はクリスマス。そんな細かいことに神経を尖らせるなんて、ナンセンスだ。

「今日は、パパが早く帰れてよかったわね」

「本当、いい会社だわ。残業もないし」

 麻里は母さんの口真似をした。意味が分かっているのだろうか?

「そうだな。こうしてみんなと一緒に過ごせるなんて、幸せだよ」

 町工場で働く父さんは、高給取りではない。それに加えて、残業も無し。裕福な暮らしはできない。しかし、僕はそんなことよりも、今、父さんが言ったように、家族でいられる時間の方が大切だと思える。

「ねえ、パパ。今年はお兄ちゃんにもサンタさんからプレゼントがもらえたのよ。私がいっも言っているように、信じることが大切なのよ。お兄ちゃんもやっと、サンタさんを信じることができたのね」

 父さんは麻里の言葉を聞いて、僕にウィンクをした。父さんはすべてを知っているのだ。

「麻里の言うとおりだね。信じることが大切なんだ」

 麻里は僕の言葉が意外だったのか、きょとんとした目で僕を見た。

『信じることが大切だ』

 僕は改めて、その言葉を心の中で繰り返した。



                    了

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サンタが町にやってきた⁈~藤ヶ丘少年団~ 白兎 @hakuto-i

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