第4話「貴様のような幼馴染がいてたまるか 後編」

「ん?どうかしたのか?オレはドッジボールができると聞いてここに来たんだぞ?やらないのか?」

「いやいやいやいや!世界一球技をやってはいけない人間が来てみんなビビってんだよ!帰れッ!」

 戦闘力の怪物たる角谷が来たことで、恐怖のあまり天野が吠えた。

 事実角谷真彩という女は筆舌に尽くしがたい運動神経を持っている上に、先の登場で3メートルのクレーターを作ってしまったのを見てしまえばビビるのも無理もない。

 しかし『世界一球技やっちゃいけない人間』はひどくないか?

「ひどい言い草だな!」

「オイ佐野!まさか助っ人って……こいつか!?嘘だ!嘘だと言ってくれよ!!」

 何を怯えているのか、天野は命乞いにも似た台詞を言い始める。

 対する佐野は、至極真っ当な顔で言い返す。

「だって……真彩召喚しちゃいけないって誰も言ってないし……足技最強だし。」

 その一言で天野の表情が一気に曇った。あーあ。

「腐れ外道!真性悪魔!無自覚サド野郎!俺は逃げる!」

「いや逃げんなよ。これはお前が仕掛けてきた勝負だろ?責任取って戦え。」

 佐野が身震いするほどの悪い笑みを浮かべる。

 いや、同じチームの身で言うのはちょっと気が引けるが、佐野、お前今すごい外道面げどうづらしてんぞ。

「はぁ……はぁ……!やってやる!やってやる!モテるために!サッカー部を潰すために!サッカー部の部費を盗むために!」

 あれ?今、天野の奴すごいクズ発言したか?などと詳しく考えている暇もなく試合は始まった。


 試合は5対5。

 天野含むバレー部だけで構成された相手に対し、こちらのチームは俺と佐野、日向、佐倉、そして例の角谷。

 ボールのキャッチは手を使ってもいいとはいえ、攻撃手段が脚によるものしか使えないし胸によるトラップもできない俺達に対して、バレーという手を大いに使った球技になれている相手の方が圧倒的に有利に見える。

 そう、その点は。

「ジャンプボールですわよー。」

 竹内がボールを空中に投げつける。

 至って一般的な高さだ。

 しかし、脚の位置と手の位置の高さを比べてしまえば圧倒的に後者に利がある。

「それ!」

 バレー部員の一人が、強烈無比なスパイクを決める。

 もちろん、受け止めでもしない限り当たってしまえば脱落だ。

 しかもバレー部の強烈なスパイク、普通に考えて怖い。しかし。

「む?それ。」

 受け止めたのは、彼らが一番恐れていた角谷真彩だ。

 軽く飛び上がって、飛んできたボールを両手で取る。

「うわああああああああああああああああああああああ!!!終わっとぅううあああああああ!!!!」

「もうだめだ、おしまいだ!」

「殺さないでくれ!ていうか狙うなら他の部員を狙ってくれ!!」

 バレー部員の表情が一気に青ざめる。

 また天野の奴がクズみたいなことを言っているが、みんな気にしなくてもいいのか?それとも、みんな気づいていてまだ言わないだけなのか?

「行くぞー、真彩キックー。」

 そんなことを考えているうちに真彩が気の抜けた声とは裏腹に、まるで弾道ミサイルのような火力とレーザー光線の如き速度を持ったシュートが放たれた。否、放たれてしまったというべきか。

 しかし幸いにも、そのシュートは誰にも当たることなく明後日の方向へと飛んでいった。

「避けられたか、まぁ次は当てるがな。」

「あぁあぁあぁ!?狙ってなくてアレかよ!」

「やっぱバケモンだ!」

 一同唖然。

 バレー部ばかりか、同じチームであるはずの俺達ですら恐れ戦くその威力。

「あああああああああ……。」

「オレ何かしたか?」

「何かしたか、じゃねぇよ!何しでかしてんだよ真彩!!」

 きょとんとしている真彩を、俺達は一斉に批判した。

 これは後で聞いた話、真彩のシュートしたボールが約20キロメートル先にある六花市の山、『双子山』の中腹付近で地中に埋もれた状態で発見されたという。

「ざけんなッボールもう一個倉庫から取ってこい!」

 そう言われた真彩は、頬を膨らませながらボールを取りに行った。そして試合再開。今度は俺達側から。

 佐野はボールを地面に置き、渾身の力を込めてシュートを決めた。

「真彩ほどの威力はないと見たが……って、空中?」

 そう、真上に。

 なぜかって?そりゃあ……。

「真彩、頼むわ!」

「相分かった!くらえー!」

 無邪気な声で、4メートル上空に飛び上がり、真下にいるバレー部員目がけてボールを蹴り落とす。

 否、叩きつけるというべきか。

「あ゛痛ァァァアア!?」

「卑怯だぞ!真彩禁止!禁止!」

 非難轟々。

 あんな威力じゃ無理もないが、勝つためだ。仕方がない。

「諦めろ、真彩はこういうやつだ。俺達だって普段苦労してんだぜ。」

「地獄かよ。」


 こうして俺達は制限時間の5分間を戦い続けた訳だが、その5分もかからずにバレー部側は戦意喪失。俺たちの勝ちとなった。

「とまぁ、俺たちの勝ちだけど……約束は守ってもらうからな。」

「まぁ今回ばかりは同情するぜ。相手が悪すぎた。」

 うつむく天野たちを、俺達は慰めた。

「くそ……強すぎる……ずるいぞ……!」

「で……どうする?送ってく?」

「さすがにこのままじゃ不憫だし、送ってってやるか玄関まで。」

「なぁ、ちょっと待ってくれ。」

 俺達が満身創痍のバレー部員たちを玄関まで送ろうとしたとき、日向が何かを思い出したようで天野に話しかける。

「追い討ちかけるつもりはないんだけど、お前試合開始前さ『サッカー部を潰す』とか『部費盗む』とか言ってたよな?あれってどういうこと?」

 続けて、バレー部の部員の一人が口を開く。

「しかも、俺たちの事も盾にしようとしてたよな部長?試合中ずっと。……で、部費盗むってどういうこと?なんかの冗談?」

 やはり考えていることは皆一緒だったようだ。

 しかも、部費云々の件に関しては天野以外の部員も知らないと来ている。

「……あー、えーと。説明できるよ?」

「じゃあ、説明を。」

 声を震わせながら、天野は弁解を開始した。

「だって……モテるための服装とか買わないといけないし、ね?」


 うわ、こいつ真性のクズだ。とこの場にいた全員が思ったことだろう。


 場の空気が一気に重くなる。

 その直後に、すさまじいまでの怒りと緊迫感が周囲を包む。

「……お前、最期に言っておくことはあるか?」

 殺意を込めた笑顔を浮かべ、語気を強めた日向の怒りを前に天野は突如、気持ち悪い上目遣いをして許しを請い始めた。

「許してちょ♡」

 当然俺達はこんな外道行為を看過できるわけがなく。次々と怒りを言葉にして天野にぶつけた。

「よし、お前表出ろ!」

「イケメンだからって何やっても許されると思うなよこのクズ!」

「クズだし回りくどいしッツッコミどころ満載だな!」

「おい逃げんな貴様そこに正座しろ!」

「ひぃーくぁwせdrftgyふじこlp~~!!」


 その後、俺達14人は逃げようとする天野をロープでぐるぐる巻きに縛って職員室に連行した。

 かくいう天野は、あまりにもアレな理由でサッカー部を潰そうとしたことが先生方にばれて2週間の停学処分になった。

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絵描き同好会の学園生活~前略、生徒全員おかしすぎるけど俺は元気で以下略~ 霧雨 @KirisameMAN

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