第3話「貴様のような幼馴染がいてたまるか 中編」
「もう一度言ってくれ。バレー部に……なんて?」
「バレー部に喧嘩売られたんだよ。」
サッカー部の佐野は絵描き同好会の部室に駆けこみ、どこか呆れきった顔でそんなことを言ってきた。
その場にいた俺達4人はもう、開いた口が塞がらない。
「いやあらゆる方向性で待ってくれ。何が切なくてサッカー部がバレー部に喧嘩売られてんだよ。」
「そもそもの話、何か因縁でもつけられましたの?」
俺達の質問に対して、佐野は一枚の白い封筒を取り出す。
「朝、気まぐれで部室の掃除をしていたらこんな手紙が置かれていたんだよ。」
佐野はサッカー部の部室から持ってきたという謎の封筒を開け、俺たちに見えるように中身を広げて見せた。
その手紙は乱雑な字で書かれた、まるで挑戦状のようなものだった。
◇
挑戦状
拝啓 サッカー部のクソ野郎
お元気ですか?
早速ですが、あなた達が使っているグラウンドを頂戴しにまいりたく、この手紙を書きに来た次第であります。
理由としましてはグラウンドでビーチバレーをすることによりモテモテになるため、今回グラウンドをかけて勝負してください。
あっ、ちなみに逃げた場合はそれをエビデンスにして皆様方がルーザーであることをアップロードいたしますので、それをお忘れなく。
P.S 辛い物を食べた後に飲むサイダーはクソまずい。
あなたの愛しいバレー部より♡
敬具
◇
「な、わけわかんないだろ?俺もわけわかんなくて処理に困ってんだよ。」
「あー、何というか……手紙書くの初めてな人間がカッコつけて書いた文章みたいだな。」
呆れるしかない。
この手紙はいろいろな方向性でひどいぞ。
竹内もこの手紙の分からなさに、まるで頭から煙が出てしまいそうな表情を浮かべていた。
「さっぱり分かんねぇ。殺してやりてぇ。」
俺の一声と共に、佐倉も日向も竹内も続ける。
「この文章書いたやつ誰だ、轢き殺してやりてぇ。」
「横文字うぜぇんだよ、マジ殺してやりてぇ。」
「ゴリラでもわかるように翻訳してから出してほしいですわね!」
佐野は何処か苦笑いを浮かべつつ、
「まぁ、この手紙が言いたいことは『グラウンドでビーチバレーさせてください、さもなくばサッカー部のやばい秘密をばらすぞ』だな。よし佐野、バレー部に『ビーチバレーがしたけりゃ近所のビーチでやってくれ。俺たちサッカー部ににコナかけんな、真面目に部活やんないとはっ倒すぞ。』と言っておけ。たぶん秘密云々は嘘っぱちだからな気にすんな、堂々と言え!」
「お、分かった。」
そうして、俺たちは一旦佐野を帰らせた。
その後も4人で、さっきの手紙モドキの話をしていた。
「にしても、あの手紙はひどすぎですわ!添削欲が今になって疼いてきますもの!」
竹内はあの文章の駄作っぷりに腹が立っているようだ。
「よくあの文章翻訳できましたわね!佐倉!」
「お、おう。まぁあれはよく読んでみたら大体わかる文章だよ。かっこつけたいのか、周りに余計なものが多すぎるせいで分かりづらくなっているだけで。」
佐倉はあの文を解読したことをどこか誇らしげにしていた。
「まぁ、それは置いといてだ。佐野の奴……というより、サッカー部の奴ら大丈夫かね。」
「俺に言われても分からねぇよ。まぁ何事もないように祈っておこうぜ。」
俺が言い終わった直後に、日向が机を思いっきり叩く。
「というか、なんで絵描き同好会であるあたし達に何とかしてくれって頼んできたんだよ!自分らで解決するか顧問に言えばいいのによ!何でも屋じゃねぇって!」
日向の言うことももっともだ。
俺たちは絵を描くためにこの絵描き同好会を作ったはずだ。それなのになぜか何でも屋みたいな扱いをされている。
もしかしたら、前々からみんなの悩みを聞いているうちにこんなことになってしまったのかな。
なんて考えていたら、こちらに近づいてくる駆け足の音が聞こえてきた。
「……ダメだ!話になんねぇ!」
「なんねぇだと?」
「と、とにかくお前らも来てくれるか?これは第三者の仲介が欲しい!」
そこまで言うと気になるというもの。
佐野に連れられ、俺達はサッカー部の部室に行くことになった。
サッカー部の部室。
グラウンド近くの倉庫を改装して作られた小屋で、中は部員たちの努力もあってかかなり整頓されている。
そのためか、外見よりも思った以上に広い。
「連れてきた!……近くの椅子に座ってくれるか?」
佐野に連れてこられた俺達は近くの椅子に座った。
「へぇー、手紙の件以外の事情は話していないのか?話せばよかったじゃねぇかよォ~。」
椅子にのけぞり、挑発的な物言いをする生意気な男。
この男が、例の手紙を書いてサッカー部に送り付けてきた男だろう。
「……なぁ佐野、こいつがどんな弱みを握っているかは知らんけどあの手紙の最後あたりに書かれていた脅し文句は気にしなくてもいいと思うぜ?」
「まぁ俺もそう思っている。んで、どう勝負するつもりだ?
サッカー部にこれといった心当たりはなさそうだが、バレー部はバレー部で何かしらの弱みを握っていそうな物言いをしている。
最も、サッカー部の言うことを信じるのならば嘘という可能性もあるのだが。
佐野に呼ばれた、天野鍾雨という男は煽るように続ける。
「まぁ落ち着けって。お前らが勝負は……命令ドッジボールでどうだ?」
「ああ、命令ドッジボールか。それならお互いに有利不利がなさそうだしな。」
命令ドッジボール、それはこの学園の先輩の代から伝わっている遊びである。
ルールは通常のドッジボールと同じだが、ゲーム開始前に1つだけ相手に「ボールを持ったまま3歩以上歩いてはいけない」とか「始まってから10秒間はボールを受け止めてはいけない」といった命令を与えることができる。外野はおらず、当てられたら脱落する。
「そう、んで俺達が負けたら大人しく引いてやるよ。お前らが負けたらグラウンド寄越せな?」
「いいぜ、乗った。」
ははは、と天野は嫌な笑みを浮かべる。
完全に挑発に乗ったな、勝ったとでも言わんばかりの嫌みったらしい笑みを。
「んで、条件だが……そうだな……ボールを投げる代わりに足でボールを蹴らなければならない。サッカー部ならできるだろ?」
納得の表情を浮かべる佐野だが、3人参加する俺達の事も考えてほしいとは思った。
確かにサッカー部を編成として入れている、という点では納得は行く。
しかし当のサッカー部の人員は5人中2人だぞ。サッカー素人の俺達を狙っての命令ならば、あまりにも卑怯だ。
とはいえ、佐野には何か考えがあるような顔で。
「よしわかった。こっちは……条件を付けない。」
は?
何を言い出してんだこいつ。
「は……ははははは!!お前勝負を捨てる気か!」
天野は嘲笑する。
しかしそれを気にすることなく、佐野は続ける。
「その代わり、助っ人を一人呼んでもいいか?」
「助っ人ォ?いいですけど?」
恐ろしいまでの上から目線。
完全に俺達を嘗め切った態度に、もはや滑稽味すら感じる。
「よし分かった。榊原、耳かせ。」
「?」
ごにょごにょと佐野が誰にも聞こえないように、俺に助っ人の名前を話す。
なるほど、確かにそいつならば勝ち筋は大いにある。
いや、ありすぎるというべきか。
「ふふっ……分かった、じゃあ俺、呼んでくるから。」
「行ってこい。……んでバレー部、ゲーム開始前で申し訳ないんだが、お前ら負けたぞ。」
勝利宣言をも意に返さず、バレー部連中は一向に余裕の態度を崩さない。
「はッ!たった一人で俺たちの圧倒的勝利陣形が崩されるとでも!?そんなバカなことがあってたまるかァ?」
天野の挑発にも臆することなく、俺たちは余裕の態度を崩さない。
と、その時。
「そこをどけお前ら!目に砂どころの騒ぎじゃなくなる!」
佐野の警告を聞いた俺達は身構える。
その刹那、すさまじいまでの爆風と共にそいつは現れた。
「異星の姫君が来てやったぞ!」
その声は間違いない。
赤い髪と短くうねったポニーテールが特徴のバケモン___角谷真彩が来た。
よく見ると、角谷が着地したであろう位置の足元には3mはあるだろうクレーターが出来ている。
___ちょっと待て。
角谷真彩は、まさかグラウンドまでの道から10メートルはあるだろう距離を、1回の幅跳びで跳んできたのか!?
「ぎゃあああああああああああ!!!」
「で、出たァァァァァァアアアアア!!!」
「妖怪中二バケモンだッ!殺される!!」
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