第一章19  『地雷原を越えて』

廃工場一帯に到着したリョウタと宮脇(みやわき)。 他の騎士団員がいたが、それほど多くはなかった。 夜が近づくにつれ、空はますます暗くなっていた。 二人は黙って工場の前に歩いた。 その時、ある騎士団員が声をかけてきた。


「お疲れ様です。 もしかして工場に進入するつもりですか?」


宮脇が彼の言葉に答えた。


「進入はしますが、俺じゃなくて俺の隣の隊員だけが入ります」


リョウタは彼の言葉に肯定するようにうなずいた。 騎士団員はそれを見て、怪しそうな反応で話し続けた。


「本気ですか?現在、この廃工場一帯はとても危険です。 特に今、私たちの目の前にある第1工場が最も大きく、多くの隊員が命を失いました。 それで現在は警察の協力を借りるつもりでした」


「警察の協力を借りるというのはどんな風に受ける予定ですか?」


「爆発物処理班を呼ぶ予定です。 実際、廃工場内に無数の地雷や爆弾が設置されています。 コテキは爆弾専門家で侵食者なので、そちらの方には遠慮がないようです」


実際、周辺を見ると、騎士団員のほかにも警察もいた。 みんな忙しそうに工場一帯を調べていた。 リョウタは今の出来事がどれほど大きいかを感じることができた。 騎士団員が話し続けた。


「さらに、コテキがすでに逃走している可能性があります。 すでにご存知だと思いますが、都市では小規模なテロも起きています。今、多くの隊員はコテキがそちらにいると見て集中しています」


前にリョウタと宮脇が話していた内容が相変わらず変わっていなかった。 まだ大きな進展がなかったということは、それだけコテキの実力の優秀性を知ることができた。 宮脇が口を開いた。


「爆発物処理までどのくらい時間がかかりますか?」


「そうですね···地雷の数が多くて、 どれくらいかかるか分かりません。 そして、その間にコテキの時間を稼いでくれるので、これが意味があるのかも疑問です。 だから今はただで進入するのは自殺行為です」


騎士団員が多様な根拠を挙げながら工場進入の危険性を説明してくれた。 宮脇も本部から報告で聞いた時から知っていたが、現場で直接聞くとその重みが違った。 しかし、それでも彼は知っていた。 リョウタはもうこんなことまで覚悟してきたことを。


「・・・だと言うが、どうするんだ? それでも進入するのか?」


「・・・はい。僕の意志は変わりません」


彼は仮面をかぶっていたが、仮面の中では固い意志が感じられる表情をしていた。 宮脇は彼の顔が見えなくても声だけでそれを感じることができた。


これ以上彼を止めるのは難しいと思っていた。 それでも念のため最後まで彼の決意が確実なのか聞こうとした。


「あいつはもうとっくに逃走しているかもしれないぞ? むしろ都市で彼が現れるのを待ったほうがいいかもしれない」


「僕もそう思います。 でも、コテキはまだこの工場に残っていると思います」


「何故そう思うんだ?」


「正直、よくわかりません。 根拠はありませんが、ただの実感です。 平凡な人なら入りにくい場所だからむしろ僕を待っているという感じがします」


「・・・そうか」


騎士団員が自殺行為という言葉をつけるほど危険性を語ったが、リョウタには大きな問題ではなかった。 宮脇もここに来る時からそれを感じていた。


工場に入る彼が今後どんなことを経験するか予想できないわけではなかった。 それはリョウタも同じだった。それでも彼は行くのをためらわなかった。


「分かった。お前がそこまで言うのなら工場に入ることを許す。 もし何かあったらすぐ連絡しろよ。俺は外で待機しているから」


宮脇はそう言うが内心予想していた。 連絡する手段は爆弾によって粉々になるだろうが、それでも形式的に伝えたかった。 外で自分は待機しているから一人だと感じないように。 彼はこう考えた自分を不思議に思った。


「分かりました。 何かあったらすぐに連絡します」


「隊員さん、あの工場は本当に危険です。 いくら実力に自信があっても、ミス一回で一生障害になることになります。 それでも大丈夫ですか?」


「はい。体は丈夫ですから」


そしてリョウタは第一工場に入った。 宮脇と騎士団員は、彼の消えゆく後ろ姿を見守った。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




工場の入り口の方は意外と平凡だった。 むしろ清潔感が感じられた。 緊張したまま工場に入ったリョウタは周りを見回して安心した。


ここまではまだ安全な区域だから安心していても大丈夫だと感じた。 しかし、そのためにこれから見ることになる風景が対比されて恐ろしく感じられた。


「他の人が整理したのか?」


彼がある程度歩いていたとき、荷物用エレベーターに見えるものがあった。 普通のエレベーターと違って大きさが何倍にもなるほど大きかった。


「これ使えるかな?」


リョウタがボタンを押してみたが、何の反応もなかった。 それなりに廃工場なので納得できた。 あるいは、コテキがすでに事前に作業をしているかもしれない。


「やっぱりダメか・・・階段でもどこかないかな」


彼は工場の周りを見回り始めた。 そうするうちに隅に非常階段があることを発見した。 ドアは問題なく開き、彼は階段を下りた。 まもなく繰り広げられる試練に一人で向き合わなければならないという恐怖が訪れた。


それでも彼は迷わず降りた。 都市で起こる同時多発的な事件は、今のリョウタが引き受けるには難しかった。 なぜなら侵食者の迅速な制圧を要求することだが、今の彼にはそれだけの力がなかった。


反面、地雷と爆弾は平凡な人には非常に致命的だが、リョウタにはまだ生き残る余地がある。 それで彼はこの工場は結局自分が引き受けるべきことだと考えた。


「・・・これ以上降りられない」


ある程度下りてきた時、階段はこれ以上つながらず、ドアが一つあった。 彼は深呼吸をしてドアを開けた。 そこはかなり暗かったし,火薬の匂いと何だか不愉快なにおいがする。


彼は本能的に恐怖と危険を感じていた。 内心行きたくないという気持ちも少しずつあった。 それでも彼は前に進んだ。


「まだ平凡に見えるんだが・・・」


思ったより安全だと歩いていた時だった。 彼の足が何かと接触したような気がした。 その短い瞬間、まるで時間が止まったように1秒が永遠に感じられた。


「あ・・・」


やがて彼の足元の地雷が雷のような音を立てて爆発した。 リョウタは衝撃で数メートルは飛んでいき、彼の足は切断され、切断面から血が絶えず流れた。


「ああああ——————!!」


彼は自分の足をつかんで、非常に激しい痛みに悲鳴を上げた。 侵食者になってから数多くの痛みを経験しているが、依然として痛みに慣れていない。 全身から汗が流れ、目からは涙が、口からは唾液が漏れながら苦しむリョウタ。


「くぅ・・・うぅ・・・!」


ある程度時間が経つと、足が再生し始めた。 そして歩けるほど回復が終わったことを確認した彼は、再び歩き始めた。 しかし、依然として地雷や爆弾は四方にあり、彼は苦しみ続けた。


「あああ——————!! 腕が・・・腕が・・・!!」


時には腕が飛ばされたりもした。 時には両足がなくなった時があった。


「はぁ・・・はぁ・・・お願いだからもう終わりにしてくれよ・・・」


腕だけで必死に這うリョウタ。足の再生が終わっていないが、少しでも早くここから抜け出そうとした。 ある程度前に行った時、指先からなぜか不吉な感触が感じられた。 彼はこれから来るべきことが何かをすでに感じていた。 再び工場の中を鳴らすほどの大きな音がした。


「かはっ・・・! クフッ・・・! ウウッ・・・!」


やっと目を覚まし、残りの片腕であたりをたどった。 しかし、その瞬間、ビビッという音がした。 爆弾はリョウタの目の前で爆発し、彼の眼球は燃えるような苦痛に苦しんだ。


「ああああ——————!! 目が!僕の目が——————!!」


まだ目を掴む手さえ再生が終わっていなかった。 そのため、ただ床で転がりながら苦痛に浸っているしかなかった。 本部を出る前、そして工場に入る前の固い意志が崩れようとしていた。 すべてを諦めて楽になりたいと思った。たが、


「違う・・・違う・・・!! 僕は・・・ここで諦められないんだ!!」


ある程度体が再生され,彼は立ち直った。 前に進むのが怖い気持ちがあったが、深呼吸をしながら心を落ち着かせた。 そして周りを見回した。 工場のいたるところにリョウタが流した血が塗られていた。 その他にも、他の騎士団員の遺体があった。


「うっ・・・!」


死体を見るようになってものすごい吐き気が押し寄せてきた彼は床に吐いてしまった。 今まで進むことだけに集中していたので、周りを見る余裕がなかった。 ある程度余裕ができた今になって周辺でどんな惨事(さんじ)があったのか見ることができた。


すでにそれは騎士団員ではなく、肉に過ぎなかった。 腕と足の切断による過剰出血が主な原因と見られた。 ある死体は体の前面の皮膚が完全に燃え尽きて臓器がそのまま露出していた。


あまりにも衝撃的な光景とストレスのため、リョウタを気を失おうとした。


「嫌だ、もう嫌だ! でも、それでも!行くしかない・・・僕があいつを止めなければならないんだ・・・!!」


そして彼は進み続けた。 再び無数の地雷と爆弾が彼を歓迎するのは明確な事実。 それにもかかわらず、彼は恐怖を背負って前に進んだ。


「うおおお——————!!」


その後も暗い工場の中で爆発音が続いた。


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外で待機していた宮脇は、工場内から聞こえてくる爆弾の音を聞き続けていた。 侵食者に恨みがある彼は、以前から言っていたように侵食者が好きではない。


すべての侵食者がこの世から今すぐ消えても良いと考えているほどだった。 そして、このような価値観は騎士団の中で思ったより平凡な方だった。 彼が物思いにふけっているとき、騎士団員は口を開いた。


「爆弾の音がずっと聞こえてきますね。 あの隊員の方は地雷を感知でもできるんですか?」


「そういうことではありません」


騎士団員は彼の言葉が理解できなかった。


「じゃあ、どうやってずっと進むことができるのか・・・」


「あいつはそんなやつです。ただそれだけです」


彼は知っていた。 リョウタがひたすら自分の再生力だけを信じて工場を進んでいる事を。 単純で無謀(むぼう)な、誰もが彼を見て狂っていると言える行為。


これ以上の進入を諦めて復帰しても納得できること。 それでも彼だからこそできること。 宮脇は彼の行動がどのような動機で行われているかを知っているため、無謀でも非難する気は一切なかった。


「そうなんですか・・・」


「待っているうちに出てくるはずです。 だから俺たちはここで待機しながら、 万一起こる非常事態に備えましょう」


「はい、そうしましょう」


宮脇は侵食者が好きではない。 依然として彼の価値観は変わっていない。 それでもリョウタという存在は彼の考えに少しずつ変化を与えていた。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




工場の一番奥までたどり着いたリョウタは、あるエレベーターを見つけた。 ボタンを押すと1階と違って正常に作動した。 まるで彼を歓迎するかのようにドアが大きく開いた。


エレベーターでもっと深い地下へ降りるリョウタ。 まだ再生が終わっていない部分で血が流れながら床を濡らしている。 アンジェリカと会話をしながら確信した価値観。


工場に入る前に持っていた彼の意志はストレスで少しずつ揺れていた。 今はなんとかコテキを捕まえるという気持ちだった。


彼は自分の心の変化に気づいていて、揺れてはいけないと思っていた。 しかし、数え切れないほどの爆弾と地雷は、彼の生存のための欲望と死の恐怖を果てしなく刺激した。 そのため、彼の意志を少しずつ変えてしまうのに十分だった。


コテキに向けた自分の行為は果たして許しか復讐になるのか確信できなかった。 やがてエレベーターのドアが開いた。


リョウタはエレベーターから降りてゆっくりと工場の奥に歩いた。 工場の中は暗かったが思ったより整理がよくできている方だった。


ある程度歩いた時、ある男が座っている後ろ姿が見えた。 彼はリョウタが到着したことに気づき、席を立った。


「来たか、長谷川リョウタ」

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悪魔少年は救いを望む ~僕に与えられた再生力と能力吸収で世界を救います ワタポメ @superebisusi

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