第38話 エピローグ



 人為的なイレギュラー発生の原因を潰した翌日。

 ちょうどその日からE-403部隊は休日に入ったので、俺は水霧副司令官と面倒なやりとりをしながらも、葵と二人で休みを満喫した。


 きちんと関係者の口止めはできたようだし、場所が人気のない倉庫ともあって、目撃者はほぼゼロだった。遠くから厄神の姿を見たやつはいると思うけど、俺の姿までは捉えられなかったようだし、怪しい人は協会の人が手をまわしてくれている。

 つまり、俺は今まで通り過ごしていいというわけだ。


 まぁごく一部、いままで通りとはいかない部分もあるのだけど。


「た、たしかに私はあなたに以前命を救われましたが、それで恋に落ちると思ったら大間違いですからね!」


 休日が空けて、部隊の出勤日。

 扉を開けたとき目に付いた篝火さんに挨拶したのち、部隊室に入ってソファに座ると、二階の会議スペースからひょっこりと顔を出した双葉さんが、俺に声を掛けてきた。


「……急に何を言ってんだ? とりあえずおはよう」


「お、おはようございます」


 挨拶を返した双葉さんは、のそのそと階段を下ってくる。

 あぁ、そうか。彼女は以前カミオロシに命を救われたと言っていたから、その件か。


 というかさ、


「双葉さんはなんで知っていたんだ? カミオロシであることは隠しきれていたつもりなんだけど」


 首を傾げながら、疑問を口にする。

 篝火さんが勘付いていたことに関しても、どこから情報を得たのかもわかってないし、色々と気になることが多い。

 だから、聞いた。根ほり葉ほり聞いた。しつこいぐらいに聞いた。



「……そういうことか。というか、篝火さん、それ見つかったらかなりヤバいぞ?」


「えへへ、なんかできちゃった」


 てへぺろとでも言いそうな雰囲気で、篝火さんが自らの頭を小突く。


 双葉さんが俺に気付いていたことに関しては、完全に俺のミスだ。

 死神の使用する武器――霊銃白虎がまだ完成していないとき、俺は危険度SSの敵に対して、カミオロシの武器である霊力の剣を使用したことがある。死神の格好で。

 つまり、俺が彼女たちに死神であるとカミングアウトした時には、双葉さんは俺がカミオロシだと気付いていたってことらしい。


 そして、問題の篝火さん。


 協会のデータベースをハッキングして俺の情報を探し当てたらしい。

 普通に捕まる案件だけど、俺の情報意外にはアクセスしなかったらしいので、俺も双葉さんも『聞かなかったことにする』という結論に至った。


 せっかく一難さったところなのに、仲間が捕まるとか嫌だからな。

 しかもたぶん、彼女が俺のことを探ったのは、好意的な理由だけみたいだし。

 そんな風に話をしていると、時間ぎりぎりになって部隊室に柿崎君がやってきた。


「おはようみんな。あぁ……当然そうなるよね」


 俺対二人――という構図を見て、柿崎くんが納得したように言う。

 肩を竦めた柿崎くんは、やれやれと言った様子で冷蔵庫に向かい、自分のペットボトルを取り出してからお茶を飲む。一息ついてから、中央のソファにやってきた。


「それで、百瀬はこれからどうするつもりなんだい?」


「え? どうするもなにも、今までどおりだけど?」


「そうは言っても、君はカミオロシなんだろう? 普通に霊装士なんてできるのかい? いろんなところから引っ張りだこだろうに」


 できるできないじゃなくてやるんだよ――と我儘前回の言葉を口にしようとしたところ、


「できるよ!」


「できます!」


 俺よりも先に、女子二名が回答を口にしてくれた。

 キョトンとした顔を浮かべて、二人を見る柿崎くん。しばらく茫然としたのち、急に笑いだした。

 腹を抱えてひとしきり笑ってから、彼は真顔になる。


「この部隊、僕いるかな? お邪魔虫になってない?」


「いやいや! 何を言っているんだ柿崎くん! 柿崎くんがいたら俺の仕事がちょっと減るかもしれないじゃないか! 是非ともこのままこの部隊で頑張ってくれよ!」


「自分本位だなぁ……二人はいいのかい? 僕がいても」


「えぇ、もちろんです。百瀬さんの制御を私ひとりではできそうもありませんから」


 ひどい言われようだな。そんなに暴れたつもりはないんだけども。


「時々百瀬くんどっかに行っちゃうから、柿崎くんがいると安心だよね」


 篝火さんまで……。

 さすがに侵略者と戦っている最中に抜け出したりはしていないけれど、たしかに戦闘中に呼び出しが掛かったら面倒なことになりかねない。


 そんな時、柿崎くんがいたら俺も安心だし、何よりも水霧副司令官が安心するだろう。

 葵としても、俺に危険な橋は極力わたって欲しくないだろうから、彼がいて悪いことなど一つもない。それでも敢えてデメリットを言うのであれば、俺にツッコみを入れてくる人が増えてしまうということぐらいか。


……まぁそれぐらいは別にいいか。


「みんなコーヒー飲むよね? 四杯分入れるよ~?」

「サンキュー!」

「ありがとう篝火さん」

「ありがとうございます、篝火さん」


 こんなにも平和で、普通で、のどかなやりとりができるのだから。

 妹も両親も生きており、人類は侵略者に滅ぼされずに存続している。

 ボロボロになりながら、世界を繰り返したかいがあったというものだ。


 


~~作者あとがき~~


お読みいただきありがとうございました!

今作カミオロシは自分で納得いかない部分が色々あったりして、ちょいと早めに締める形になってしまいました。

この経験を活かして、次につなげたいと思います!


次回は「これぞ心音ゆるり作品!」といった雰囲気の作品を考えている途中ですので、もしも見かけた場合にはそちらもお読みいただければ幸いです。


では、また会う日まで~

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カミオロシの贖罪~幾たび同じ時を繰り返し、滅亡を防いだ救世主。正体を隠して『普通』を演じる。 心音ゆるり @cocone_yururi

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