@mi_ya_bi_1103

第1話

彼女と出会ったのは高校1年生の9月だった。まだ夏の暑さが残る中、学校までの坂を登って汗をかいて学校へ着き、朝のホームルームが始まった瞬間、僕の中の『愛』が産声をあげた。しかし当時の僕はそれが『愛』であったことなど知る由もなかった。転校してきたその子は軽く自己紹介を済ませると誰を見ているのかよく分からないような視線で優しく微笑んだ。僕にはそれがまるで、夜空に光り輝く月のように見えた。瞬きすることさえ時間の無駄と思うほど彼女を眺めていたかったのだ。

当時の僕は恋愛に無頓着だった。それでも友達と中身のない会話で盛り上がり、ふざけすぎて先生に叱られ、青春そのものだっただろう。好きな人も特に出来ずに、愛などというものは一生知らないまま生きていくのだろうとも何となく感じていた。『愛』というものを僕は知りたくなんか無かったのに、僕はどうしよもなく彼女を愛してしまうことになる。これはそんな後悔にまみれた僕と彼女との長いながい『愛』のおはなし。


いつもと変わらない会話、風景、気分。でも2学期の初めというのはなぜかどうしても少しそわそわしてしまう。下駄箱に雑に靴を押し込み上履きに履き替え、どうでもいい会話を友達としているといつの間にか教室に着く。まったくどうして中身のない会話はこんなに楽しいのだろうか。教室に入った途端異変に気づいた。机の配置が変わっている。なるほど机の数が増えてるということはきっと転校生だ。教室では皆が転校生の話で盛り上がっていた。男なのか女なのか、どんな見た目でどんな性格でとか、なんの根拠も無しに議論し合う。そうこうしている内に先生と1人の女生徒が入ってきた。あまりにもその子が普通の女の子で、そして自然に目に映り込んできたものだから最初はただその子を眺めるだけだった。まだ朝なのにまるで昼過ぎかのような陽射しが照りつける中僕にできることはそれだけだった。ホームルームが終わると彼女の席の近くの子が話かけた。何を話しているかは聞こえないが彼女の笑顔はよく見える。なぜだろう、どうしても目で追ってしまう、気になってしまう、そんな不思議な力を持っていた。

そんなことを感じながらも恐ろしい程に淡々と日々は進み僕と彼女は話すことなど1度もなかった。特に話すこともないので当然と言えばその通りなのだが。だから僕はただ彼女のことを横目で気にしつつ、でも心のどこかではただ転校生だからどんな人なのか気になるだけだろうと感じたりもしていた。そんな日々の中ある日の放課後、ふと先生に声をかけられた。秋ということもあり日が傾き始めていた時間帯、早く帰りたいと思っていた時のこと。どうやら転校生の彼女が僕と同じ図書委員に入ることになったらしい。だからといって特に何かを感じることもなかったので適当に返事をしその場を立ち去った。

その委員会の集まりの日がやってきた。彼女が軽く自己紹介を済ますとぱらぱらとした拍手が鳴る。委員長が話を進めて行く中、この時も僕はなぜか彼女のことを見てしまっていた。ただ、彼女の方に目を向ける。それだけだった。すると一瞬彼女がこっちを見た。明らかに目が合った。2人ともすぐに目線を逸らしてしまった。見ていることがばれてしまったか。どう思われてしまったか。結局こんなことをずっと考え、もやもやしたまま今日の委員会活動は終わってしまった。帰り道は以前までのようにじめじめとした暑さはなく曇っていて1人で帰るのが心地よかった。

ここから半年間、僕と彼女は委員会の事務連絡以外で話すことはなく、呆気なく高校1年の終わりはやってきた。


つづく

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