第4話
俺を見下ろす赤い髪の女はしばらく俺をジッと見て。
「終わるまで其処で待ってなさい」
そう女が言うと俺に体に茨のようなものが体に纏わり付く。どうやら、俺は拘束されてしまったようだ。
「おい!! これを・・・・・・ 「はい、喋らない」
今度は喋れなくなった、口をただパクパクさせるだけになり、俺は本当に何も出来ない状態になってしまった。情けない。
「でも、まあ、あれがコッチに目標を変えたから少しは役に立ったかしら」
彼女は俺が持っていた剣を持つと化け物の方へと歩いて行く。彼女はあの化け物と戦うつもりなのか!?
危険だ!! 俺は拘束されている体を何とか起こすが。
「ごめんなさい、少し寝て下さい」
今度は背後から聞き覚えのある声が聞こえると俺は強い眠気に襲われた。
「私達が貼った結界を突破したから何か使えるかと思ったけど失敗したわね~」
赤い髪の女――カエデは黒髪の少女――サクによって眠らされたヘイゼルを見て溜息を吐く。
そんなカエデにサクはまあ、そんな時もありますよと慰めの言葉を贈る。
「それよりも今はコイツを倒さないと」
「そうだったわね、倒さないとね」
カエデは剣を魔術師によって呼び出された化け物に向け、好戦的な笑みを浮かべる。
「得体のしれない魔導書に化け、欲深い人間を食べてた化け物さん。さあ、覚悟はいい?」
ギィシャア!! と化け物は咆哮をあげ、グロテスクな口から触手を出し襲ってきたが触手は剣によって切られてしまう。
だが、すぐに触手は再生し再びカエデに襲いかかる。
カエデは剣で触手をいなすと化け物と距離を取った。
「凄い再生能力ね、埒が開かなそう」
「カエデさ~ん! 私に任せて下さい!」
サクは意気揚々と注射針が付いた銃を取り出し、化け物に向けて針を発射した。
その針はブスリと化け物の頭部に刺さると化け物の頭部の一部がドロドロと溶け始める。
「これで再生能力は封じられたはずです!」
「よくやった!! うおりゃ!!」
カエデはまた触手を切り刻むも触手は再生することはなく、それに勢いをつけたカエデは容赦なく化け物の本体に斬りかかる。
化け物は咆哮をあげ、枝のような手をカエデに振り下ろすが簡単に塞がれ、そして。
「とっとと消えろ!!」
体を真っ二つに切り裂かれ絶命した。
「ふう~、討伐完了。サク!」
「はいはい、回収しますよ」
カエデに言われる前にサクは懐から瓶を取り出し、呪文を呟くと化け物の亡骸は瓶へと吸い込まれていった。
サクは化け物が瓶に収まったことを確認するとネコちゃ~んと隠れていた二足歩行の猫達を呼びだし回収させた。
「良かったにゃ~。これで長のコレクションが全部、集まったにゃ~」
「あとで長に言って頂戴、コレクションの管理をちゃんとしろって」
「にゃ~、すみませんですにゃ~」
文句を言うカエデに猫達はペコリと頭を下げる。
この化け物はサク達が住む、猫の里をまとめる長のコレクションとして瓶の中に閉じ込められていたのだが目を離した隙に何者かに瓶の中から解き放たれてしまったのだ。
生死は問わないから逃げた化け物を捕まえてくれとサクとカエデは命令され、此処にやって来たというわけだ。
「さて、彼を帰して私達は休憩しましょうか」
「そうですね。香りの良い紅茶を手に入れたので淹れますよ」
「あら、それは楽しみだわ」
チュンチュンと鳥の声で目覚める。
俺は寮のベッドの上に居た。
あれ? 確か夜勤で倉庫街に居たはず。其処で・・・・・・。
いや何もなかったな。うん、何もなかった。
あの夜は何もなかった。
「よし、完璧に記憶が消えてるみたいね」
「彼と一緒に居て結界から弾き飛ばされた人も大丈夫でしたよ」
ヘイゼルの様子を見ながらサクとカエデは穏やかに話す。
キビキビと動くヘイゼルを見てサクは安堵した表情で。
「アレの後遺症もなさそうで良かった」
と呟く。
「ベラドンナが毒蜘蛛人間の精神毒から作ったアレね。何回も実験してようやく出来たやつなんだから大丈夫でしょう」
「・・・・・・・・・・・・ソウデスネ」
サクは遠い目をする。
ヘンゼルに使ったアレこと毒蜘蛛人間が人間を従わせるために使われた精神毒を利用して作られた精神操作薬の被検体にサクが選ばれたからだ。
選ばれたというより強制された。サクの特殊体質と精神操作薬を作った張本人であるベラドンナがサクの師匠という間柄のせいで。
「本当に完成して良かったです、本当に」
「そうね、本当に良かったわね」
遠い目のサクにカエデは心情を理解し、頭を撫で、空間を裂いた。
「さて、逃げた化け物も倒したし、帰りましょう」
「はい。・・・・・・さようなら、ヘイゼルくん」
サクは名残惜しそうにヘイゼルに別れを告げながら自分達が暮らす狭間の世界へと帰って行った。
【完結】首狩りと少女 うにどん @mhky
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