第3話

「あれ? 何してるんだ?」

「ああ、ヘイゼルくん。こんにちは! 今日でこの街を出て次の街に行くの」


 夜勤明け、少し眠った後に昼飯を食べに冒険者通りに行くとサクが店じまいをしていた。

 そういえば、彼女は流れの占い師。長期間、この街に滞在するつもりはないと言っていたっけ。


「そうか、なんか寂しくなるな・・・・・・」

「うふふ、そう言ってくれると嬉しいな! それじゃあね!」


 サクは満面の笑みで俺に手を振り、去って行った。

 残された俺は寂しさからハァ~と溜息を吐き、行きつけの食堂に向かうのだった。


「へえ~、それで元気がないわけか」


 昼の出来事を先輩に話すとニヤニヤと笑う。

 今夜も夜勤の仕事で先輩と共に見廻っている最中だ、今日は東区の倉庫街の見廻りをしている。


「やっぱりそう見えますか?」

「ああ、そう見えるぜ。そんなになるまで好きだったんなら告白すりゃ良かったじゃねえか」

「こ、こくはく!?」


 夜中、人が余り居ない倉庫街に俺の声が響く。

 これには先輩も声を抑えろと言われた。


「す、すみません。でも、会って間もないのに告白は・・・・・・」

「一目惚れって言葉あるの知ってるか? 短期間でも好きな女だったんだろ?」

「それは・・・・・・」


 先輩にそう言われ、彼女を、サクを思い浮かべる。

 俺は。


――彼女のどこか好きだったんだ?


 先輩の言うとおり一目惚れなのだろか? でも違う気がする。

 ハッキリと彼女が好きだと思えない。

 頭が混乱する。


「ヘイゼル、大丈夫か?」

「あ、ああ、すみません」

「あっはっはっは。失恋で少し気落ちしてるな~。夜勤勤務が終わったら呑みに行くか!! 当然、俺の奢りだ!!」

「先輩が呑みたいだけじゃないですか」


 バンバンと背中を強く叩かれて痛い。

 まあ、奢りなら良いか。


 少し先輩と談笑しながら倉庫街を見廻る。

 倉庫街の荷物置き場に着いたときだ。


「あれは・・・・・・」


 先輩が何かに気付き、俺に声を潜めるよう合図を送る。

 俺は先輩に言われるが息を潜め、先輩の視線の先へと視線を向けると黒い魔導書を抱えた魔術師がのそりのそりと歩いてるのが見えた。


「先輩」

「多分、例の魔導書だ。いいか、俺は後を追う、お前は屯所に連絡を入れてから来い」

「了解しました」


 俺は先輩の言われたとおりに通信機で屯所に連絡を入れる。黒い魔導書を持った魔術師を見つけたと連絡し、先輩の後を追った。


 先輩はすぐに見つかった。使われていない古い倉庫の入り口から様子を見ているようだ。

 俺は小声で先輩に話しかけ、先輩と同じように中の様子を見る。

 ガリガリと倉庫の床に魔術師は何かを書いてるようだ。恐らく、例の奇妙な魔方陣だろう。


「先輩、止めた方がいいのでは?」

「いや、まだだ。まだ、あの本が例の魔導書だと断定してない」

「ですが・・・・・・」

「いいから、待ってろ」


 先輩に強く言われ、俺は従うしかなかった。


 ガリガリとした音が止むと魔術師はその場に祈るように膝を折る。

 まるで神様に祈ってるように見えた。


「・・・・・・始まったか」


 それを見て先輩がポツリと呟いた。先輩は知っているのか? これから起ることを。


 ボウッと魔術師の周りを囲むように赤い光が現われる。

 しばらくすると暗闇からソレは現われた。


 頭部は水風船のように膨らんでいて、体は枯れ枝のように痩せ細っている化け物が。


 化け物はゆっくりと魔術師に近づくと魔術師を細い腕で拘束する。

 魔術師は自分が危機的状況にあるというのに抵抗しない。

 そして、水風船のような頭がバックリと割れ、魔術師を口元に引き寄せた。

 このままでは魔術師は化け物に食い殺される!!


「おい!! 待て!!」


 そう思うと俺は先輩の制止を聞かずに剣を抜き、化け物に。


「待てと言ったでしょうが!!!!!!」


 斬りかかれなかった。


 後ろから強く引っ張られ背中を思いっきり床に叩きつけられる。

 余りの痛みに悶絶をしていると。


「はあ~・・・・・・。なんか役に立つかなと思って放置してたけどさっさと気絶させておくべきだったかしら」


 背後から先輩ではなく赤い髪の女が歩いてきた。

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