第2話

「ヘイゼルくん、こんにちは!」


 彼女、サクとはあれ以来、親しくなった。

 顔を合わせれば、彼女の方から声をかけてくる。その度に近くに居る先輩達がニヤニヤしながら俺をからかってくるのは恥ずかしいけどサクと仲良くなれたのは密かに喜んでる俺だったりする。

 だけど、彼女に会う度に記憶が飛んでいるような気がするのだ。

 サクとの会話途中で頭がクラクラすると思えば、気がつけば彼女と別れ屯所の前に居る事が多い。

 このことをサクに言うと、疲れてるんじゃないの? と言われてしまった。

 確かに未だに成果のない聞き込みを毎日しているのだから疲れているのかもしれない。

 例の魔導書は見つかっていないし、同じ事の繰り返しに飽き飽きしているのかも。

 見習いとはいえ騎士がそう思っていいのかと思うが実際にそう思っているのだから仕方ない。


「あ~あ、今日は夜勤か・・・・・・」

「これも騎士の仕事だ! ヘイゼル、お前は俺と一緒に北区だ」

「はい、解りました」


 俺の中で一番キツい仕事、夜勤。

 文句を言うと先輩からヤレヤレと言った表情で魔導ランプを渡され、北区に向かう。

 夜勤での主な仕事は見廻り、不審者がいないか見廻るのだ。と言っても、不審者に出くわした事がないけど。


「街に異常がない、何もないってのは本当は良いことなんだよ」


 見習いとして騎士団に入った頃、何も起きない事に少し愚痴を言ったら団長にそう

言われた。

 当時はよく理解出来なかったけど、今なら解る気がする。

 未だに手掛かりが見つからないこの事件、街の人は気にしてないけど、犠牲者が増え続けたらどうなっていくのか・・・・・・、俺はそれが怖い。


 北区の見廻りを終え、屯所に帰る最中。


 フードを着た怪しい人間――サクを見つけた。


「サク?」

「ん? どうしたんだ? おい! 何処に行くんだ!?」


 先輩の声に応えることもなく俺はサクの後を追う。

 サクが向かった先、其処は9人目の被害者が住んでいた貸部屋だった。

 彼女は歩みを止める事なく9人目が亡くなった部屋へと足を踏み入れた、俺は彼女に声をかけることなく彼女の動向を物陰に隠れて見ている。

 部屋に入るやいなや彼女は9人目が倒れていた場所に座るとお香を取り出し、それに火を付けた。

 彼女は何をしているんだ?


 フワリと火が付けられたお香からトロリと溶かされそうな甘い匂いが溢れてくる。

 クラクラしそうになるほどの甘い匂いに耐えながら、サク、彼女の動向を見続けた。


「・・・・・・出てきて下さい」


 匂いが部屋いっぱいに広がった頃、彼女がようやく口を開いた。

 その言葉に俺のことを言ってるのかと思ったが、直ぐにそうじゃないと解った。


 彼女のその言葉に呼応するように彼女の目の前には黒い人影のようなものが現われた。


「貴方がこの部屋で殺された人ですね?」


 彼女の問いに影がユラリと動く。

 俺はその光景に何が起きて居るのか理解出来なくて、彼女に問いかけようと声を出そうとした。


「貴方は見ていない」


 背後から口を何者かに抑えられた。


「いい? 貴方は何も見ていない、聞いていない」


 声からして女性だろう、背後の人物が俺に強くそう言うと俺はまた頭をクラクラしながら目を閉じた。


「おい、どうしたんだ?」


 目を開けると俺は先輩と共に屯所に帰る途中だった。


「え? あれ?」

「話してる途中、いきなりボーとして疲れてるのか?」

「いや、俺は・・・・・・」


 確か俺は・・・・・・、ああ、そうだ、俺は先輩と一緒に北区の見廻りをして帰る途中だ。


「あ~、そうかもしれませんね。帰ったら、ゆっくり休みます」

「そうか。帰ったら、ココアでも飲もうか」

「良いですね!」


 屯所に常備してあるココアは貴族御用達のお店のやつで美味しいだよな。

 屯所に帰るのが楽しみだ!






「アンタの後を追ってきた事彼と一緒に居た騎士には記憶操作の魔術をかけておいたわ」

「カエデさん、手間取らせてすみません!」

「それが私の仕事だから気にしないで、それでどうだった?」

「バッチリです。どうやら、もう次の相手のところにいるようです」

「そう。なら、とっとと決めましょう」

「はい。準備は出来てます」

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