第5話 ケンジの回その2

 漢字の取り巻きの赤キャップは自分の帽子を手に取り、時計を見ながら時が来るのを待っていた。どうやら、13時まで数秒となったらしい、時計を見るのをやめキャップを握りしめ、心の中でテンカウントでもしているんだろう。

 赤いキャップが空を舞った。今日は少し風邪が強かったが、この一瞬だけはまるで無風のような静けさだった。ふわり、ゆらり、とギャップが舞い地面に落ちた。

 ケンジは落ちた瞬間駆け出した。俺との距離は10mくらいだろう、まるでチーターのような速さで獲物を仕留めるかのようなはやさだった。ケンジは走る勢いをつけた、回し蹴りをピンポイントで俺の顔面を狙ってきやがった。俺はこのままサバンナで仕留められるガゼルになるつもりもないので、一歩二歩と踏み込み胴回し蹴りをタイミングに合わせて繰り出す。ケンジは空中で器用にも二段蹴りへと切り替えて俺の胴回し蹴りをいなした。

 初手に失敗したケンジと俺は距離が詰め寄っていた。俺はケンジを掴みなげる、空手の突きなどインファイト重視なのでさらに距離を詰める。ケンジは詰め寄る俺にキックボクシングのスタイルで上段蹴りを放つもブロッキングし、俺は右手で掴みにかかるもスウェーで避けられる。どうやら掴みは有効ではなかったらしい。

 一旦距離を取られた。相手は、ボクシング、キックボクシングのスタイルでくるようだ。近づくとローキックがくるがうまくで膝いなし壊しにかかる。こちらも負けじと、ジャブ、ジャブ、ワンツーで綺麗な顔を腫らしてやろうとするがブロッキングがうまくて有効だから程遠い。だが上げたブロックをエサに強烈なボディーを喰らわせることに成功するが、ケンジの腹には無駄な肉が一切ないのか カチカチの肉を殴っているような感覚であった。その驚きが悪かったのだろう隙ができたのか、ケンジからお返しのワンツーが俺の顔面に飛びかってくる。

 強烈なお返しだった。親父と同じくらいの強烈なパンチ、意識持ってかれそうになる有効打だった。すぐにブロッキングの姿勢に入り距離をとり呼吸を整える。気づいたら鼻血もたれてきていた。

 どうやら、ケンジへのボディーが有効だったようで追撃はなかった。相手も呼吸を整えている。俺はすかさず、また距離を詰める。

 俺はジャブ、ジャブ、ボディーお返しにワンツー、アッパー、フック、ローキックとお互いのブロッキングもうまくいかず。激しい応酬になっていった。

 ケンジは笑っていた。顔を腫らし、血を流しながらも楽しそうに笑っていた。初めて見たよこいつの笑ってるところなんて考えながら俺も拳を振るっていると、気づけば自分も笑っていることに気がついた。唇が切れ、鼻血が出てくる。

 どれくらい経ったんだろうか。半時間くらい経ったのか?腕も痺れてきた、ケンジも同様だったようで手をぶらんとさせながらお互い距離を取った。

 ケンジは走り始めた。初手と同じ回し蹴りだろう、俺も走りタイミングを掴みながら胴回し蹴りを放つ。当たった感触と、俺の頭に蹴りが当てられた感触。

 そこで意識は途切れた。

 

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俺をボッチなんて呼ぶんじゃねえよ 苦労万感世士常 @mdajtpgmwb

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